正十字学園の制服に袖を通す。
左肩から手首には見事に刺青が刻まれていて、それを隠すために包帯をした。
もう少し腫れが引いたら包帯じゃない何かにしようかな、体育の時に目立ちそうだけど。
ブラウスのボタンを留めて、スカートを履いて、ニーハイ履いて、ローファーに足を突っ込む。
長めの前髪を真ん中より少し横のところから分けて、もらったピン留めをして、明るくなったけどぼやけたままの視界に眼鏡をかけた。
……うん、悪くないな。
「イメチェンですか。まあたまにはいいんじゃないんですかね」
「うわ覗き……」
「してませんから!あなたみたいな小娘の着替えに興味はありませんから!!」
「失礼だな!!」
いつの間にか女の子の部屋に無断で入り込んでいたメフィストに怒鳴る。
同室のあの子がいなくてよかった。
いたらいろいろやばかった。
ほんとによかった。
やれやれ、とわざとらしく溜め息を吐いて肩を竦めたメフィストにイラッとしながら用件は?と問う。
「特にありませんよ。優秀な祓魔師の様子を見に来ただけですから」
「うわー、エンジェルさんに祓われればいいのに」
「……だんだんイイ性格になりましたね」
顔を引き攣らせるメフィストに向かって舌を出した。
それから昨日のうちに用意してある鞄に携帯電話を突っ込む。
左腕はまだズキズキとするけれど、もらった痛み止めを飲めば少しは楽になるだろうか。
鞄を肩にかけたところで、メフィストが私の顔を覗き込むように身を屈めた。
至近距離で目が合う。
人間ではない、悪魔の目と。
「ふむ、魔障によって体は蝕まれているようですが、似合いますね」
「何が?」
「そうやって顔をよく見えるようにしてると相応のJKに見えますよ」
「あ、そう」
「そのエンジェルからのピン留めも、よく似合っている」
思わず前髪を留めるピンに触れた。
エンジェルさんがくれたピン留め。
私なんかより綺麗な宝石で彩られているそれは、間違いなく大切なもので。
似合うと言われて嬉しくない人はいないだろう。
だらしなくにやけていたのか、メフィストが嫌そうな顔をしたので顔を顰めた。
失礼だなこの悪魔は!
「祓魔塾の授業に遅れるから出るんで塾長もさっさといたいけなJKの部屋から出てくれませんかね」
「はいはい。しっかりと励んでくださいね」
鍵を使って扉から出ていくメフィストを見送ってから、一度扉を閉める。
制服のポケットから取り出した塾への鍵を使って、再び扉を開けた。
古い独特な臭い。
準備をしている雪男くんと目を合わせて笑う。
「おはよう雪男くん。今日もよろしくね」
こんな普通の日常と、ちょっと危険な日常がいつまでも続けばいいな。
そんで、願わくば、あの人の隣に立てるような祓魔師になれればと思う。