大分心がボロボロになってるのがわかる。
ボロボロのズタズタ、ボロ雑巾もいいとこだ。
あのカリバーンが私を慰めるんだよ?
相当酷い顔をしてる、鏡の中の私は酷い顔だ。
エンジェルさんが記憶喪失になって早1週間。
戻る兆しは、ない。
なのにライトニングさんは「彼女を補佐で傍にいさせてよ。参謀のぼくよか君のことを知ってるから」なんてエンジェルさんに言うしライトニングさんを信頼してるエンジェルさんは疑うこともなくそうしたのだから──辛い。
辛いのだけど、任務とは関係ないから、立たなくちゃ。
「下級悪魔に上級悪魔が混ざってるのなんで誰も気づかないの!?」
「申し訳ありません名字さん!」
「私が殿やるから応援呼んでください!候補生は早く下がらせて!!」
候補生たちの祓魔師認定試験前演習、という名目で下級悪魔の討伐に当たっていたのだけど、何故か上級悪魔が混じっていた。
日本支部でも似たような任務についたことはあるけれど、海外の祓魔塾の生徒たちの能力を完全に把握していない私としては守りながら戦うのは割りと、いやかなり……ええい弱気になれない!難しいなんて言っちゃいけない!
引率の先生方に指示を出して斧を奮う。
幸いなことに、候補生の実力を見に来てた聖騎士のエンジェルさんやライトニングさん、他にも上一級祓魔師の方が離れた場所を拠点にして使い魔を通して見てるからすぐ応援は来れるはず。
しっかりしろ。
私は上一級祓魔師。
この場にいる祓魔師の中で機動力は一番高い。
腐の眷属だから瘴気が濃いけれど、少しくらいは、時間稼ぎくらいならできる。
息を吸う度に胸が痛くたって、動く度に身体が軋んだって、止まってなんかやらない。
習得したての詠唱を口にしながら斧に火の眷属を憑依させ、下級悪魔を捌きながら距離をとる。
余談かもだけど、手騎士の資格も取りましたので!四大騎士には必要だから!
単独任務なら気兼ねなく下級悪魔に目もくれずに上級悪魔を倒せるけれど、今回は違うのだ。
守らなきゃいけない未来の祓魔師が後ろにいる。
万が一があってはいけない。
「この程度ならオレが!」
「っの……バカ!下がりなさい!!」
上級悪魔に向けて支給された銃を向ける候補生に思わず舌打ちをした。
撃たせたら、当たったら、多分次にあの悪魔が狙うのは、あの子だ。
群がる下級悪魔を薙ぎ払うようにして、その候補生のところへ向かう。
これ以上事態を悪化させるわけにはいかないんだ。
胸が痛いくらい、息するのが苦しいくらい走って、やめさせようと手を伸ばした。
けれど、その銃口から放たれた弾はあの上級悪魔に当たった。
乱暴に候補生を蹴るように身体を遠ざけて悪魔の攻撃に備える。
腕が重い。
早く、はやく。
持っている斧を振り上げるために力を入れる。
刃が地面から浮いたのと、強く大きな衝撃と焼けるような痛みが私の体を襲ったのは同時だった。
「名前!!」
声が聞こえる。
大好きな、大好きな人の声。
いつの間にか冷たい地面に横たわっていた私の視界に煌めく金髪が映ったのを最後に、世界が真っ暗になった。