設楽紀明とチョーカーの話

名前は意図せずどこかへ迷い込むことが多かった。
その度に探し回ったし、きょとんとした顔にイラついたこともあったがホッと安堵の溜め息を吐いたのも事実だった。
怪我をこさえてくることはなかったが、息を切らしていることはあったから変な輩に追いかけ回されたことはあるのだろう。
ちょろちょろと動き回る姿にそろそろリードでもつけるか、と考え始めるまで時間は短かった。
拠点にしている廃ビルの一室、ソファーに腰をかけアガリを確認しながら隣で俺の腕に引っ付いて手元を覗き込む名前に視線を向ける。
またピアスが増えた、先日アイブロウピアスを開けてピイピイ泣いていたというのに。
俺の視線に気がついた名前がどうしたの?と首を傾げた。
別に特別どうって訳ではない。
呑気な表情の名前の頬を鷲掴めば名前は抗議するかのように唇を尖らせた。

「迷子になる悪い子にはリードが必要かと思ってな」

「わたし、犬じゃないもん」

まあ確かに犬って程誠実ではないし忠犬ではないか。
まだ綾小路の方が犬らしさはある。
ふとまだピアスホールの開いていない首周りに目がついた。

「首輪ならお気に召すか?」

「うーん、のりあきくんが選んでくれるならつけてあげるよ」

ふふん、と鼻を鳴らす名前。
素直ではあるが、相変わらず幼さは残る。
苦しいくらいきついのはやだよ、わたしに似合うのがいいな。
ぴょこぴょことソファーの上を跳ねそうだった体を抑えるように細い腰に腕を回した。
どうせならGPSを仕込んでおくか……迷子にならなくてもどこにいるのか把握しておくのは悪いことじゃない。
ああ、犬ではないな、例えるなら猫だ。

「のりあきくん宝くじ買おうか?馬券がいい?それとも綾小路くんとパチスロ行ってこようか?」

「そんなに頻繁にギャンブルに勤しむんじゃない。……綾小路とお前がいない時はパチスロ行ってたのか」

「うん、アガリが悪いから誤魔化したいって……あ、これのりあきくんには内緒だった。忘れて」

あいつ……
あのアホは名前の強運をあてにし過ぎだろう。
あとで締めておくか。
聞かなかったことにしてね、ね!と慌てた様子の名前を髪を撫でて宥める。
どうせなら盗聴器でも追加するか……?いや、重くなったらいくら俺からの贈り物だと言ってもつけなくなるだろうな。
幼く素直で単純そうに見える名前だが、何年も俺と過ごしているからか勘や察しは悪くない。
それこそ、戦闘力や脅威はなくても、強運だけが武器だとしても。

「わかったわかった、あいつはお咎めなしだ」

確認していたアガリをジュラルミンケースへ戻し、名前を膝に乗せた。
片手が簡単に回ってしまう首に触れれば、名前はまるで当然とばかりに顎を上げて差し出すような素振りをする。
……ここまで無条件に信頼しているのも、心配になってくるものだな。

「何色?」

「黒」

「のりあきくんの色も入れたいなぁ」

「何色だ?」

「金!」

金がかかるな……金具の部分だけ考慮しておこう。
数日後、名前の首に今後鎮座することになるチョーカーにこっそりGPSを忍ばせてつけてやれば、満足そうに笑顔を浮かべた。