私の職業を知っている人だったら私のこと笑い飛ばしてほしい。
人の門出を祝福するのが自分の仕事ですと胸を張れるのに、好きな人の誕生日を祝うにはああじゃないこうじゃないと迷っている。
数人相談したけれど、そんなに気負わなくていいんじゃない?とアドバイスをもらった、アドバイスかはちょっとわからないけれど。
今月、ずっと考えていた。
どうすれば喜んでくれるだろうか、どうすれば吏来の思い出に残るような誕生日にしてあげられるだろうか。
当日、吏来は仕事があるって言っていたし、私もその日は仕事が入っている。
約束できたのは夜、さすがに一日過ごせるとは思ってなかったから仕方ない。
多分いつものバーになるだろうから、そこに電話して、バースデープレートの相談もした。
席の予約も、あとささやかではあるけどプレゼントの手配。
うーん……約束を取り付けるまではあんなに悩んでいたのに、いざ決まると自分でも手際がいいと思える早さであれこれ準備できる。
職業病に近いかな、でもこの職業じゃなかったらこんなに早く判断できなかったかも。
ちょっとした自画自賛をして、吏来の誕生日が来るのを待ち侘びた。
ちなみにですね、私も七月が誕生日でして、吏来よりは先に来たんですけどね。
私は吏来に誕生日を教えてなかったけど、誰かに聞いたらしい吏来からサプライズをしてもらいました、まあこの話はまたどこかで。
早めに仕事を切り上げて約束の時間前にバーへ向かう。
途中、吏来の誕生日プレゼントを注文していたショップでそれを受け取った。
付き合ってもいないのに、形に残るものは重いかな?って一瞬考えたけど、この前の私の誕生日のプレゼントも形に残るものだったし、そのお返しだと思って渡せばいいかな。
……実用的なものではあるから、使う度に私のこと思い出してくれたらいいな……なんて。
喜んでくれるかな、そもそも受け取ってくれるかな。
シンプルだけど上品なショッパーに緊張する。
「こんばんは、まだあの人来てないですよね?」
「ああこんばんは。まだ来てないよ」
バーに入り、予約していたカウンター席に腰かけてマスターが差し出したプレートを見た。
バースデープレートのレイアウトを早く来れば希望通りにしてくれるとのことで、お言葉に甘えて早く来たのが経緯だ。
吏来を思わせるような色を使いたい、甘いものは苦手って言っていたからなるべく控えめに。
少し豪華に金箔や金粉みたいなものがあれば散らしたい。
相当真面目な顔をしていたのか、マスターが熱心だねえと笑ってカウンターの向こうで用意を始める。
よし、準備はばっちり……吏来がしてくれたサプライズと比べたらささやかだけど……!
告白するわけでもないし、ただ誕生日のお祝いをしたいだけだから。
先に少しだけ飲んじゃお。
スマートフォンで吏来に先にバーに入っていることを伝え、マスターにウイスキーを注文した。
もうすぐ着くらしい、よかった早く来て。
舐めるようにゆっくりウイスキーを飲んでいると「や、お待たせ」と声をかけられる。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「ううん、そんなことないよ。お疲れ様」
毎日暑いね、と苦笑する吏来の額には薄らと汗が滲んでいた。
隣に座った吏来に鞄の中から取り出したハンディーファンを向けてスイッチを入れる。
確かに最近さらに暑いもんね、室内は冷房が効いているから快適ではあるけど。
「ちゃんと水分摂ってる?」
「気をつけてはいるよ。そういう名前は熱中症になったりしてない?」
「大丈夫」
「……意外と名前って暑さに強いよな」
「寒いのが苦手くらいかな」
極端に冷えすぎるのは苦手なくらい、冬はもうだめ、うちのレオパちゃんたちと部屋にいたい。
マスターが吏来の前に私が飲んでいるのと同じウイスキーを置いた。
吏来も私もそれぞれグラスを手にして「お疲れ様」と軽くグラスを当てる。
少しだけ溶けた氷の影響でウイスキーの味が変わるのがウイスキーの好きなところだ。
特に始めは変わらない、いつもの延長。
お互い仕事で大変だったとか、ちょっとしたテレビの話とか。
そんな他愛ない話をしながら吏来は煙草を手にして火を点けた。
私はマスターにカクテルを注文する。
大丈夫、ロングカクテルだから、なんか吏来が心配そうな顔しているけれど、さすがにロングカクテルでは潰れないから。
以前潰れたのはショートを間隔開けないで次々追加したからであってだね……
さすがに今日は潰れない、いつもよりは意識しっかりしておかないと……まあいつも意識しっかりしているけど。
いくらかお酒も進んでおつまみも空になりそうな時、マスターがそろそろ持ってくるよ、と一度キッチンへ引っ込んだ。
「何か頼んだの?」
「うん、来てからのお楽しみ」
今までこうやって誕生日を祝えなかったからなんだか私が嬉しいな、多分今表情筋ゆるゆる。
きょとんと目を丸くする吏来はなんだかレアかも。
マスターが持ってきたのはバースデープレート。
吏来は甘いものが苦手だから、最初は肉系のバースデープレートも考えていたけどバーでそれは……ちょっとずれているような……ってことで甘さ控えめのガトーショコラやベリーソースで作ってもらった。
マスター渋めのおじ様なんだけどとてもかわいいもの作れるんだよね、人は見かけによらないってやつ。
ガトーショコラに添えられているのはバースデープレートにありがちな花火だ。
「お誕生日おめでとう吏来」
「……えっ夢?」
「なんで?」
本当になんで?
心底不思議そうな表情の吏来がなんだかかわいい。
自分の鞄と一緒に棚へ置いていた吏来への誕生日プレゼントの入ったショッパーも取り出して、それごと吏来へ渡す。
そこでやっと吏来は破顔した。
ああ、やっぱり誰かがそうやって笑う顔、私はすごく好きだな。
知らない人でもわかるくらい嬉しそうに笑う吏来が開けていい?と言うので頷いた。
「何がいいかなって考えたけど、そういうのなら吏来は使うこと多いかなって」
吏来がショッパーから取り出した箱を飾るリボンを丁寧に解いていく。
自分が誰かに贈り物をする機会が少なすぎてちょっと自信はないんだけど、そこは頑張った。
「これは、名刺ケース?」
「Aporiaでもカウンセラー業でもどっちでも使うでしょ?」
……取り出した時に、私の顔が過ってくれればいいなーなんて……さすがに吏来にそれは言えないけど。
ちょっとでも、吏来が私のこと思い出す時間が増えたら嬉しい。
私はいつも、吏来のこと考えているもの。
お互い同じ気持ちではないんだろうけど、ちょっとくらい望んでもいいかな。
「お誕生日おめでとう吏来、生まれてきてくれてありがとう」
「ん……ありがとう、名前」
また来年も、こうしてお祝いすることができたらいいなと、心から思うよ。
