ああ、嬉しいなぁ。
まさか名前に誕生日を祝ってもらえるとは思っていなくて、いや、嘘、ちょっとだけ期待していた。
おめでとうの言葉はもらえてもプレゼントはもらえないかなって。
名前が俺のことを考えて選んでくれたプレゼント……ついにやけちゃうなぁ。
バースデープレートだって俺が甘いものが苦手だって覚えてくれていたのか、甘さ控えめで用意までしてくれて、こんなにも俺のこと考えてくれたってことは、期待していいかな。
……でも、名前はウエディングプランナーだから、こういうものを用意するのは得意だろうから、友人の延長線かもしれないし。
さすがにそれを確かめようと思うほど勇気はない。
「いやあ、立科さんよぉ……そこは男らしくもっとガッと行こうぜ」
「いやいや、何言ってんですかマスター」
名前がお手洗いで席を外している合間にカウンターの向こうで呆れた顔をしているマスターが溜め息を吐く。
マスターの手には、名前が「私の奢りで一杯いいですよ」と言われたウイスキーが。
本当に彼女は気遣い上手というかなんというか、苦ではなさそうだからいいんだけど。
ガトーショコラ美味しかったです、と言えば俺の手作りなんだから当たり前だろ、と返された。
「ンなことより名前ちゃんといつまですったもんだしてんだよ、見ているこっちがやきもきしちまう」
「あはは……」
「そのプレゼントだって、名前ちゃんが立科さんにって選んでくれてんだろ?外野からどう見ても名前ちゃんだって──ああ、俺が言っちゃだめなやつだな」
「……」
だって、名前は、誰か好きな人がいて、そいつに可愛いって言ってもらえたから髪を伸ばしているじゃないか。
俺だってきっと髪を伸ばしたら可愛いだろうなって思っていたし、別に伸ばさなくても可愛い。
俺以外の誰かに先を越されたような感覚がする。
それを誤魔化すようにグラスに中途半端に残っていたウイスキーを煽って名前から渡されたプレゼントを手にした。
名前からのプレゼント、多分、今夜帰宅したら今使用している名刺ケースからこれに替えるんだろうな。
ずっと名前の顔が浮かびそうだ、名前もこれを選んでいる時に俺の顔浮かんでいただろうか。
ふとケースの背面を見ると、そこにローマ字で俺の名前が刻印されているのを見つけた。
……もう、本当にさぁ……!
顔に熱が集まってくる。
それを隠すようにカウンターに突っ伏すと向こう側にいるマスターが笑った。
「あれ、吏来?」
しかもちょうど名前が戻ってたみたいだ、隣の席に腰かける気配がする。
大丈夫?飲み過ぎた?と俺の背中を撫でながら追加のウイスキーを注文していた、ええ……まだ飲むの……?知っているけど。
ちょっとだけひんやりとした名前の手が心地よい。
アルコールは入っているから体温は上がりそうなのに。
背中から肩、項を上がるとそっと耳の後ろを撫でて、その手は離れていく。
欲を言うともうちょーっと撫でてほしいんだけど。
「マスター、吏来飲み過ぎてました?」
「名前ちゃんもだけど仕事終わりだろ?疲れてんじゃねえか?知らねえけど」
なんか雑!
でも名前はそれに納得したのかそっか、と呟いて今度は俺の頭を撫でた。
優しい手つき、俺だけのものならいいのにな。
ないかもしれないけどさ、健全な意味で一番欲しいものは名前なのに。
名前がプレゼントだったら過去一はしゃいで喜ぶ自信があるよ。
「疲れているのに悪かったかな……」
そんなことない、全くそんなことない。
疲れていてもいなくても、名前に呼ばれたら誰よりも早く駆け付けられる。
恭耶に誘われていたってあいつの口説き文句を知らんぷりできるくらいには、名前が第一優先なんだから。
カウンターにグラスの置かれる音がして、そのすぐ後に名前が動くのを感じ取れた。
たぶんグラスを手にしているんだろうな、揺らしているのかカラカラと氷とグラスがぶつかる音もする。
……ミカとどっちが強いんだろうか、ふたりに付き合ったら誰も彼も潰されそうだ。
「立科さんの誕生日なんだったらうちじゃなくたってもっとシャレた店だってあったろうに」
「あー……」
「立科さんだって名前ちゃんの誘いならうちじゃなくても付き合ってくれんだろ」
なんかすごいこと聞いているな!?
名前が言い淀んでいる、えっなんか怖いんだけど。
「本当は、夜だけじゃなくて一日過ごせたらなって思ってたんですよ。でも私が吏来に声かけるの、ギリギリになっちゃって」
「それはなんでだい」
「……だって、仕事が仕事なのに、どうすれば吏来が喜んでくれるのか、思い出になるのか長いこと考えていたら、ね?」
えへへ、と名前の気の抜けたような声。
……そっか、俺のために本当に考えてくれていたんだ。
全然得意わけではなかった、いつもきびきび動いているって聞いていたのに、俺のためにそんなに考えてくれていたんだ。
嬉しくて変な声が出そう。
唇を引き結んで、名前の声に耳を傾ける。
「去年も一昨年もちゃんとお祝いできなかったし、この前は私にサプライズしてくれたし、せっかくなら初めて出会ったここでお祝いできたら素敵かなって思ったんです」
ああ、本当に嬉しい。
名前が俺のことで頭がいっぱいだった時期があるんだなって、俺が喜んでくれたらって思ってくれていたんだなって。
来年も、じゃなくてずっと名前と誕生日を、特別な日だけでなく日常を過ごしたい。
俺の頭を撫でていた手が、俺の手に重なる。
吏来?大丈夫?と手の甲を撫でる柔らかな手を、酔いつぶれたふりをしてそっと掴んだ。
