冷たい、痛い。
温かい、柔らかい。
自分は冷たいけれど何か温かいものに腕を回している。
何故か体が痛いけど、自分の顔のすぐ近くにある柔らかいものに気を取られる。
ふわふわしてる、気持ちいい。
それに埋めるように顔を寄せると、くすぐってェよ、と声がした。
どうやら誰かに背負われてるらしい。
なんでだろう、この人誰だろう。
綿飴みたいな髪だなぁ、なんて思っているとぼうっとする意識が再び沈んだ。
……ああ、こうやって誰かにおんぶしてもらったこと、なかったかもしれないなぁ。
気がつくと知らない場所だった。
知らない天井、知らない匂い。
ズキズキと頭と体が痛む。
体を起こし、周りを見渡した。
知らない部屋、私が横になっていた布団の傍らには刀。
これは私のだろう、見覚えがある。
なんでここにいるんだっけ?
何してたんだっけ?
何をしようとしてたんだろう?
……あれ?
何か、というよりたくさんなくなっているような。
なくしてしまった、ような。
「おー、起きたか」
首を傾げていると襖が開いた。
綿飴みたいな髪の人。
ぼうっとしている私の傍に座ると、額に触れてほっとしたように息を吐く。
「お前何してたの?海岸でびしょ濡れで倒れてるしそのせいで熱出てたし……3日くらい寝てたし」
「3日……」
「気分は?」
「もやもやする……」
「もやもや?」
なにかなくした、それもたくさん。
私の言葉にその人は首を傾げて唸るけど、少ししたら諦めたように髪を掻いた。
それにしても、掴みどころのなさそうな人だな。
あとお人好しそう、なんだかんだ面倒だって思っても首を突っ込むし突っ込まれそうな、そんな人。
「まあいいか、お前家は?送ってく」
「家、は……」
家?
あれ?どこだっけ?
私どこから来たんだっけ?
ここは、この場所はどこだっけ?
「わ、かんない……」
そもそも、私って何だっけ。
迷子ってこんな気持ちか。
自分が何処にいるかわからなくて、何処に行けばいいのかわからなくて、とてもとても不安で怖くて寂しくて、途方に暮れそうなくらい混乱している。
私って誰?
家はどこ?
なんでここにいるの?
そんな私の様子に気がついたのか、その人は私を宥めるように背を擦る。
「あー……うん、とりあえず落ちつけ。そりゃわかんなかったら混乱するよな」
掛け布団を握りしめて俯いたまま視線をその人に向ける。
どこかで見たことある表情だ。
どこでいつ見たかなんて、わからないけど。
「保護者は?あちこち回ってる保護者いんだろ?」
「……わかんない」
「……お前、名前は?」
名前。
私、私は……私の名前は……
──なんだっけ?
ヒュッと息を飲む。
心臓が冷えていくような感覚。
当たり前のことが出てこない、知ってるはずなのに、生まれた時からそれを知ってるのに!
なのに、わからない、知らない、おぼえていない。
なんで、なんでなんで。
自然と熱いものがこみ上げてきて、それはぽたぽたと零れて布団を濡らす。
目の前の人はぎょっとしたような表情を浮かべたけれど、すぐ元の気の抜けた表情に戻ると傍らの手ぬぐいを私の目元に押し付けた。
その手ぬぐいを握りしめて嗚咽を殺すようにして蹲ると優しく背中を撫でてくれる。
「知らねェモンはしょーがねーよなァ……」
大きくて温かい手が背中を行き来する。
それに少し安心して手ぬぐいの隙間からその人を見ると、不思議な色の目とぱちりと合った。
「だいじょーぶ、銀さんお前と知り合いだし」
「ほ、んと……?」
「おう。俺は坂田銀時で、お前は名字名前」
名字名前、名前……私の名前。
「しばらくここにいろよ。ちゃーんと面倒見てやっから」
頼れる人なんてわからなくて。
でもこの人は頼っても大丈夫そうで。
坂田さんの言葉に何回も頷いた。