「ピアスの方が好きなデザイン多いんだよなー」
女が呟いた言葉が何故かいつまでも残っていた。
長い髪で隠れる耳に穴はもちろん傷一つもない。
もったいねえなぁ。
そう思ってから行動は早かったと思う。
自分は開けてないくせに、女ひとりにピアスホールをつくってやるために必要なものはひと通り揃えたし、チームメイトの漫才師にも念の為聞いてはおいた。
教師の方はすげえ嫌そうな顔していたが、スルーだスルー。
左右にひとつずつじゃなんだか物足りねえ。
どうせなら片方の軟骨にも開けてやろうか。
ファーストピアスをその開ける予定の個数分、それからピアスホールが完成した後につけられるピアスを数個。
ファーストピアスが味気ねえごついモンになるのはしょうがねえな。
けれどその後はあいつが「いいな」と一度でも口にしたデザインにしたんだから悪くねえだろ。
「ってことで貫通式な」
「やだあああああ!!」
宅飲みしよう、と誘えば間髪入れず嬉しそうな返信が来た。
ピアスホール開けるんだから酒は飲めねぇけどな。
それなりに揃えられてる酒やらつまみに申し訳なさを覚えながらも逃げ出しそうとしている名前の腰に腕を回して抱き寄せておく。
自分より小柄な女ひとり押さえ込むのはそこまで苦ではない。
……まあ現場一筋の刑事を押さえ込むのは苦か、苦だったわ。
ガサガサとニードルやら消毒液やらを取り出していると、腕の中の名前の顔が青褪めていく。
いやお前よく捕物で怪我してるじゃねえか今更痛みに狼狽える理由が……あー……捕物の時はあれか、アドレナリンで痛くないってやつか。
若いっていいねぇ。
「ほらもう観念しろよ」
「大体なんでいきなり開けることになったの!?経緯!経緯が不明!!動機は!?目的は!?」
「……お前でもテンパるんだなぁ」
見たことねえからおじさんびっくりだわ。
コットンに消毒液を浸し、それで女の耳を全体的に拭き取った。最初は左な。
ねえほんとにやるの?知ってるよニードルがくっそ痛いの!
名は体をあらわすってか、犬みてえにキャンキャン吠えるように拒否の言葉がすらすらと出てくる。
こういう場合は黙殺だ黙殺。
俺の膝の上に頭が来るように転がすと、不安そうにゆらゆらと揺らぐ目と合った。
特に何も言わずじっと見下ろしていると、弱々しく「ほんとにやるの……?」と親が恋しい子犬みてえに鳴く。違った、言うだわ。
「言ってたじゃねえか、ピアスの方が好きなデザイン多いんだって」
「う……そりゃ、そう言ったけど」
「安心しな、ニードルで開けた方が早く安定するみてえだからよ」
「……ピアッサーとどっちが痛い?」
「ニードル」
耳朶にマーキングすれば青褪めていた顔が青を通り越して白になった。
もう拒否は聞かねえからな。
ニードルも消毒して、耳朶の後ろにコルクを当てて、マーキングした箇所にニードルを当てる。
よしよし、まっすぐいけそうだな。
「……やっぱやめ、」
案の定出てきた言葉を遮るように思い切り力を込めて柔らかい肉を貫けば絹を引き裂くような……可愛らしい悲鳴じゃなくてひっでえ悲鳴が上がった。
似合わないごついファーストピアスが左右合わせて3つ。
しばらくこいつは痛みにひんひん泣いてはいるものの、渡した次のピアスに満足そうにしていたからまあ開けて正解かだったな。