「にゃにゃにゃにゃー!!」
なにこれー!!
そう叫んだつもりなのに言葉はまったく違う言葉で口から出た。
確かにさっき逮捕したやつはマイクを持っていた、申請もしないのにマイクなんか持ちやがって。
リリックを真正面から受けたけど、残念ながら我がディビジョンのあの三人に比べたらあまりにもお粗末で全く問題なかったので所持してるマイクぶん投げて怯んだところを取り押さえることに成功。
なんだけど。
「名字さん、耳と尻尾も生えとりますよ……ブフォ」
「にゃー!?にゃにゃん!!」
「いや何言うとるのか私にはちょっと……」
はー!?嘘じゃん!!
恐る恐る頭に手をやれば確かにぴょこぴょこ動くふわふわしたやつがあるし、後ろに手を伸ばせばゆらゆら揺れるふわふわした何かに触れる。
わ、笑えねー!!
三十路の女がつけるもんじゃない、何あいつ、取り調べでコテンパンに……ってこんなんじゃ取り調べもできないじゃんか!!
そんな気持ちが出ていたのか、喉から唸るような音が絞り出された。
「名字さん、今日はもう帰ってええですって署長が」
「天谷奴さんに連絡しときましたから」
おいこら待て待て。
それは一番連絡しちゃいけない人間だし、そもそもなんで連絡先知ってんの?
あの人大きい声じゃ言えないけど詐欺師ですよ?
不満を訴えるように尻尾をぶんぶん振り回してにゃーにゃー騒いでも悪い顔した部下と、呆れた様子の同僚がさっさと私の荷物をロッカーから持ってきてテキパキと帰る準備を始めていた。
諦めて椅子に座って待つこと1時間ほど。
目立たないように署の裏口に来ていた天谷奴さんに部下と同僚の手によって引き渡される。
「すんません、ご足労おかけしました」
「うちの上司が駄々をこねてますけど気にせんといてください」
「おうおう、いいのか?仮にもこいつの部下と同僚が俺に連絡とった挙句上司任せて」
ごもっとも。
「ほら、自分らオオサカディビジョンの代表やないですか」
「それに天谷奴さんの提供する情報でいつも以上に豊作なのは事実です」
それな。
そんなこんなでオオサカ署を後にした。
う~ん、署長は知らないんだろうけど、こうやってフツーに詐欺師とやりとりしてるのわかったら倒れるんだろうな。
「で、それは本物か?」
「にゃっ!?」
天谷奴さんの車に乗り込んだところで突然耳に触られた。
ふにふにすりすり。
武骨な手が遠慮なく明らかに楽しむようにそれの毛並みを擽り、根元を強めに撫でる。
ひぃ~やだこれ。
こそばゆい、ムズムズするんですけど。
思わず体を丸めるようにしてその手から逃げようとすれば、運転席から身を乗り出してきた天谷奴さんが頭を撫でるようにするすると手の位置を変え、顎の下に来ると擽るように指を立てた。
「にゃう~……」
ごろごろごろごろ。
あっ、やばい。
天谷奴さんがテクニシャン過ぎて気持ちいい。
自然となる喉に恥ずかしくなって俯きがちになるけれど、天谷奴さんが満足そうに鼻で笑う。
「その類の効果は明日にゃ消えてるだろうさ」
「にゃにゃ?」
ほんと?
よかった……ちょっと安心した。
ほっと息を吐いた私を見て天谷奴さんは軽く頬にキスをした。
「んじゃぁ帰るか。ああ、あとひとつ」
「にゃん?」
「……体質も猫に近いだろうからある程度飯は制限あるからな」
「にゃーん!?」
うっそじゃん。
ビールは?つまみは?甘いものは!?
固まる私を横目に、運転席にちゃんと座った天谷奴さんは苦笑しながら車を走らせた。