詐欺師っぽい猫が増えた

名前の家に入ると飼い猫が脱衣所の前でウロウロとしていた。
以前も似たようなことがなかったか?
あの時は風呂ん中で名前が爆睡していたが、今日はなかなかの叫び声が聞こえる。
あとは可愛くねえ猫の鳴き声。
飼い猫はカリカリと脱衣所のドアを軽く引っ掻き、俺の顔を見上げてはなんとかしろと言わんばかりに鳴いた。
溜め息をひとつ吐き、コートやハットを玄関のハンガーにかけて脱衣所への扉を開ける。
一際大きく聞こえる名前の声と知らない猫の鳴き声。
入るぞ、と声をかけて浴室のドアを押すとびしょびしょに濡れた黒い毛玉が飛びかかってきた。

「天谷奴さん捕まえて!」

反射的にその毛玉を受け止め、暴れる毛玉を抑え込む。
でっか、は?でっけえんだが?
足で浴室のドアを閉め、シャワー片手の名前に毛玉を渡した。
ぶなああああああ、とぶさいくな鳴き声を上げ、名前からシャワーをかけられる黒い毛玉は紛うことなき黒猫だ。
かなりでっかいその猫は、名前が馬乗りに近い体勢で抑え込まれているからカリカリと床を引っ掻くだけで抜け出せる様子はない。
溜め息を吐いて浴槽に腰掛け、名前の作業を見つめる。

「その猫どうした」

「拾ったの。弱ってて見てらんなかったし」

「で、風呂入れたら暴れたと」

「まあね。猫だからしょうがないよ」

俺に飛びかかってきたので体力を使い果たしたのか、黒猫は不服そうにぶみぶみ鳴いて恨めしそうに名前に抗議していた。
そのまま猫洗いの手伝いをし、黒猫から流れるお湯が綺麗になったところで名前が黒猫をバスタオルで包んで抱き上げる。
もう黒猫は大人しくなっていた。
脱衣所に出て床に座り、大人しくなった黒猫にドライヤーを向ける。
慣れてんなァ、なんて思いながら濡れた服を脱いでパンイチになった。

「そのままシャワーでいいなら入っちゃえば?」

「お前は?」

「この子乾かして、餌あげて、ロクちゃんから隔離してからかな」

胡座をかいた名前の膝の上で黒猫はうとうとしている。
ならせめてと置いてあるタオルを名前の頭の上に乗せた。
着ているモンも含めて頭の先から爪先までびしょ濡れだ。

「……あー……なんかよォ……」

その猫、なんか既視感。
わかっているのかいないのか、名前がいたずらっ子のように笑う。

「似てるでしょ?だからついね?」

誰にとは言わないところがいやらしい。

2023年7月25日