「うぐっ」
ズシッ、そんな衝撃に目が覚めた。
目を開けて上体を起こせば、そこには最近名前が拾ってきたでっけー黒猫が鎮座している。
そのくせ黒猫は俺の隣で眠っている名前を見下ろして、ひっくい鳴き声で甘えるように名前に向かって鳴いていた。
まず俺の上から降りろ。
寝室のドアを見れば、飼い猫がオロオロした様子で寝室に入らない位置で行ったり来たりを繰り返す。
まあ寝室は入っちゃいけねえって躾られているもんだから新参者が堂々と入ったことにオロオロしているんだろう。
サイドテーブルに置いてあるスマートフォンを手に取り、時間を確認すればいつも名前が起きる時間。
……ま、今日はこいつも休みだし夜遅くに帰ってきた名前は寝かせといてやるか。
名前の髪を撫で付け、黒猫の首根っこを掴み、不満げな鳴き声と割と本気な抵抗を無視してベッドから起き上がった。
寝室から出て飼い猫の隣に黒猫を下ろし、しっかりと寝室のドアを閉める。
もう開けらんねえだろ、と思った次の瞬間。
黒猫が軽々しくジャンプをして器用に前足をドアノブに引っかけてドアを開けた。
ああなるほど、そういうことか。
できた隙間に身を滑らせる黒猫を脇から持ち上げて寝室への侵入を阻止し、今度はソファーの上に放る。
「ったく、でけえくせに器用なモンだな」
溜め息を吐くと何かを訴えるように黒猫が鳴き、それを咎めるように飼い猫が鳴いた。
さすがに先住猫には逆らえないのか、不満そうなままソファーに香箱座りで落ち着く。
飼い猫もソファーに上がると所謂ドヤ顔で俺を見上げた。
おうおう、さすがだな。
撫でようと手を伸ばしかけたがどうせ避けられるだろうと思い、手を引っ込める。
そのままテーブルに置いてある煙草とライター、灰皿を手にベランダへ出た。
まだ朝方の冷たい空気に身震いし、煙草を咥えて火をつける。
煙草の匂いが苦手な飼い猫はソファーから動かないが、平気らしい黒猫はボテボテとベランダまで出てくると俺を見上げた。
図体といい、態度といい、ほんっとに既視感あんだよなァ……俺じゃねえか。
飼い猫は名前から名前をとって〝ロク〟っつーし、この黒猫は俺から名前をとって〝ゼロ〟と呼ばれている。
色も対極的だ、飼い猫は白いし黒猫は真っ黒……それがまるで自分らの立場を表しているようで。
「……お前さんはここが終の住処になるといいな」
その言葉に黒猫が「なー」と低く鳴いた。
さて、そろそろ朝飯の用意でもしてあいつを起こすか。
半分まで短くなった煙草を灰皿に押し付け、ベランダから居間へ戻る。
黒猫も中へ戻ると飼い猫と仲睦まじく寄り添った。