やらかした海賊海軍天竜人を徹底的にシバキ倒す話②

「げ……よりによってあんたか……」

「喜べみんな、今日は久しぶりに海王類や魚じゃなくて鶏肉が食べられるよー、えいっ」

「ぎゃあああああああ!!本当に撃ってくることねェだろうよい!?」

「当たれよ食糧だろ」

「おれ人間!!」

今日も海は綺麗だなァ……ほんの一時間前は嵐の中にいたんだけど。
事の始まりは一件の、いやたくさんの通報だ。
なんでか知らんけど私を名指しで通報が来るんだよ。
白ひげが停泊しているとか、ワノ国付近でカイドウが好き勝手しているとか、前半の海では最近億越えになったルーキーたちが怖いとか、たまーに匿名で海軍の内部告発とか、数え切れない。
私はひとりしかいないから、能力者でもねェから分身もできねェから。
できるのは目の前のクソガキをシバキ倒すことだけだから……あと中将だけど主に重要書類の処理と五老星に呼び出されて何故か宥められるとか。
後者よくわからん。
もう多すぎてどの通報に対応するのかあみだくじで決めている。
当たったやつには取りかかる、他のやつは暇な人間にぶん投げる。
私ひとりしかいないんだからね?
今回あみだくじで当たったのは寂れた島に白ひげが停泊していて怖いと島民から通報があり、そこへ配属されている海兵も戦闘力が心もとないから応援が欲しいと要請があった。
基本的に四皇は余程のことがなければこちらも手出ししない。
いや、具体的にはシバキ倒して来るわって行こうと思ったらセンゴクとおつるが私にしがみついて止めた。
姐さんが戦争起こしてどうするんだ!!
お願いだからおねえちゃんやめておくれ!!
必死な叫び、ちなみにそれはまずいとあのガープですら止めたんだよね。
けれど私が行けば威嚇にはなるでしょ、さっさと島から出てってくれれば御の字。
そう思ってゆらゆらと嵐で激しく揺れる船で気分の悪くなる部下たちを横目に島への到着を待った。
嵐を抜け、要請のあった島が見えた頃、見覚えのある鳥が上空を飛んでいるのが視界に入る。

「カイドウのところの鳥はなァ……でっかいけど手羽に肉ないし筋張っているから食べられるところかなり少ないしなァ……黒い翼で飛んでんの見たことないからあれも食べられそうにないしなァ……」

「何の話ですか中将」

「白ひげのところの鳥はカイドウのところよりは小さくてもいい手羽をしているからパリパリに焼いたら美味しそうだ」

「不死鳥の手羽先!?」

「食う気だこの人!!」

「私のライフル取って」

部下から私のライフルを受け取り、手早く弾を充填して構え一発ぶっ放して冒頭に至るわけだ。
ちなみにカイドウのところの鳥は素早くて見聞色の覇気をちゃんと使わないと当たらない、使えば当たるけど余計な手間かけさせんなって思う。
今上空にいる幸運なんて無縁そうな青い鳥は、私もだけど敵意はないから覇気を使う必要はない。
すぐに弾を充填し直し再度構えた。
次は確実に当てるぞ。

「待った待った!待つよい姉貴!!」

「お前に姉貴と呼ばれる筋合いはない」

とん、と翼と足を変えたまま船縁に降り立った男に部下たちがそれぞれ武器を向けるけれど私がそれを制する。
今いる海兵たちがこいつに無傷で勝てるとは思わないからね、あまり自分の部下を怪我人だらけにしたくない。
ま、あくまで私が部下を制しただけで私が動かないとは言ってない。
なるべく無駄のない動きで目の前の男に近づき、顎の下にライフルの銃口を突きつけた。

「おいマルコ、ドタマぶち抜かれたくなけりゃ白ひげのクソガキが何しに来たのか吐けオラ」

「やり方が海賊じゃねェか……おれたちは補給に立ち寄っただけだ。島の人たちには手を出してねェよい」

「補給するのは構わないけどテメェら自分の名前のでかさわかってる?通報が入ってから私に要請がかかるレベルなんだよ」

「そりゃ悪かったな」

書類業務していた私を駆り出しやがって。
海軍の仕事で書類業務程穏やかなモンはねェんだぞ、給料泥棒って言われようが雑務係と言われようがまだ平穏なんだから。

「通報と要請からかなり日は経ってるからもう補給は済んでるでしょ、島民が不安がったままだからさっさと去れ」

「……嫌だと言ったら?」

「よォーし、歯ァ食いしばっておけよ」

その言葉の直後にライフルを逆向きに持ってグリップの部分でマルコの側頭部に思いっきり叩き込んだ。
不死鳥にただの打撃は効かない?
私を誰だと思ってんだみんなの姉ちゃんだぞ。

 

海軍の軍艦が見えたのでマルコが斥候で飛んで行ってからどのくらい過ぎたか。
帰ってこねェってことは攻撃を受けたのか。
迎えに行ってやらねェとだな、他の息子たちと笑っていたら悪魔が降臨しやがった。

『あーあー、白ひげ海賊団に告ぐ。さっさと荷物纏めて島から立ち去らねェとこのクソ鳥の手羽先捥ぐぞクソガキ共』

「オヤジィィィィィ!!」

『ちなみに私は鳥を食べたい気分、手羽先がいい』

「いやああああああああああ!!食われる!おれ食われちまうよい!!」

船首に立って海軍のコートをはためかせた女が片手でマルコを逆さ吊りに持ってライフルを突きつけ淡々と口にする。
部下が女の口元に持っている電伝虫から告げられるのは非情な宣告。
……あ、あのババア……!よりによってあいつか……!
全員が笑みを引っ込めて震え上がり、隊長たちが部下へ急いで指示を出した。
バタバタと藻掻いて悲鳴を上げるマルコを気にせず暴れんなと言いたげにその顔を遠慮なく銃口でつつくあの女に慈悲の心はねェのか。
四皇相手にも「ちょっとあいつらシバキ倒してくるわ」と買い物気分で本人はそんな気はなくても四皇と海軍の戦争を起こそうとする年齢不詳のクソババア。
いや、あいつなんで年取らねェんだ!?
うっ……持病じゃなくて古傷の足の小指が痛む……!

「てめェクソババア!!うちの息子に手ェ出したらどうなんのかわかってんだろうなァ!!」

『あァ?クソガキテメェこそこっちの書類業務以外の仕事増やしておいて何言ってんだ全員足の小指砕いてから海に沈めてやろうか?誰がクソババアだテメェの方がクソジジイだろうが』

「オヤジ助けてェ!!」

助けらんねェ……この女と向かい合って助けられる気がこれっぽっちもしねェ……!
何度あの女に足の小指砕かれたか。
えげつねェんだぞあのババア、おれとカイドウの喧嘩に居合わせた海兵ならたとえ大将でも手を出さねェってのに「うるせェ邪魔だ」なんて理由でおれらの足の小指を踏み潰して砕くんだぞ。
補給ついでにおれの療養に来たはずがどうしてこうなった。
あの女が来たのが運の尽き。
それにこの女はやる時はやる。
不殺の海軍将校、平穏な正義を掲げるくせに本人はクソ程イカれた女。

『あ、島民盾にしたらマジでこのガキ手羽先捥ぐからな、なんなら一本手羽先作る?』

「やめてええええええええ!!」

「わかったわかったさっさと島から出ていくからマルコを離しやがれ!!」

「オヤジィィィィィ!!」

マルコガチ泣き。
食われたくねェよい……なんて悲痛な声が届き、息子たちは顔を青褪めた。
なんならあのババアの部下共も青褪めている。
急いで息子たちが荷物を船に上げ、錨を上げて船を港から出した。

「クソ……!マルコ隊長を離せ海軍!!」

「あっ、馬鹿野郎やめねェか!!」

ひとりが女へ対する敵意から銃を構える。
止めるよりも先に引き金が引かれ、まっすぐに銃弾は飛んだ。
……はずだったが、女はライフルを持ち直すと横へ薙ぎ、その銃弾を易々と弾く。
バケモンかあの女……いやバケモンだったわ。
馬鹿な真似をしたやつを隊長格が拳骨を落とし、「お前はここで死にてェのか!!」と怒鳴った。
いや、多分大丈夫なはずだ……争いは嫌いな女だ、自分も部下も傷つかなきゃ戦闘にはならねェ……多分……おそらく……そのはず……自信なくなってくるな、あの女が目の前にいると。
モビー・ディック号を軍艦に近づければ女はあの細身にどこにそんな力があるのか、逆さ吊りにしていたマルコをそのままこちらに投げ込む。

「おっ、おれ生きてる……?食われてねェ……?」

「生きてる生きてる。よくあのババアから生き延びたな……!」

ひしっとえぐえぐ幼子のように泣きじゃくるマルコを抱き締め、それから女を睨んだ。
が、女はあの無表情のままこちらを睨むモンだからすぐやめた。

「お前らが他の馬鹿なクソガキ海賊共と違ってまだ、まだ温厚なのは知ってるけれど島民が不安がっているんだよ自分の存在ちゃんと自覚しろクソガキ」

「フン……騒がせて悪かったな姉貴」

「だからテメェらから姉貴と呼ばれる筋合いはねェ」

さっさと行け邪魔だクソガキ。
ライフルを担いで空いている手でしっしと振る女。
なんでこの女が大将じゃねェんだろうな、いや大将じゃなくてよかった。
過去最速レベルで船を出し、軍艦もおれたちとは反対方向へ向かうのを見てからどっと歓声が甲板から上がる。
そりゃそうだ。
あの女相手にしてよく無傷なモンだ。
……まあ、マルコは一発ぶん殴られたみてェだが。

「よく息子が無事で帰ってきた……祝杯だァ!!」

あの女に誰もやられてねェんだからそれくらいいいだろう。


海軍のおねえさん
鳥が食べたい気分。
ライフルを使っているけれど基本的にどんな武器でも使えるしなんなら武器がない方がやべえ。
だって覇気使わなくても大将締め上げるんだもの。

マルコ
斥候に出たらおねえさんと出会した不運な青い鳥。
本当に食われるかと思ってガチ泣き。

エドワード・ニューゲート
斥候に出た息子が帰ってこねェなって思ったらおねえさんに逆さ吊りにされていて古傷の足の小指が痛んだ。
息子が無事に帰ってきて泣いて喜んだ。
ババアと言ってはいるけれど姉貴と呼んでいる、隊長たちもおねえさんのこと姉貴と呼ぶけど白ひげの影響。

2023年8月5日