「捕縛っつってんのに殲滅してどうすんだこのクソガキ」
「いだだだだだだだだだだ!!」
「はわわ……」
「あー……姐さん、もうそこら辺にして……」
「はァ?」
「おォ……なんでもないよォ……」
今日も海は綺麗だなァ……時化てるけど。
対象の海賊の捕縛命令が出ているのに殲滅して帰ってきやがったクソガキにキャメルクラッチを決めた。
ギブ!と言いたげに床をバンバン叩いているけど手は緩めてやらない。
それを見てセンゴクとおつるが頭を抱え、ガープがせんべい片手に爆笑し、同じ大将のクザンとボルサリーノが顔を青くする。
当たり前だろ捕縛っつってんのに殲滅してくる馬鹿がどこにいんだ、ああ、ここにいたわその馬鹿。
なんで私が怒るかわかってる?書類業務が大変なんだよクソが。
それになんで捕縛かわかってる?
海軍が海賊に対してのこっちはこんだけ強いんだよってアピールなんだよ殲滅したらそんなの証拠残んねえんだよ誰でもわかるだろ。
殺るなら殲滅じゃなくて処刑一択だろわかってんのかゴラァ。
殲滅するより捕縛が難しいのはわかってるはずなんだけどなァ?
加えてサカズキは何回もこうやって痛い目見てるからわかってるはずなんだけどなァ?
何年前から同じやり取りさせる気だ。
海軍も海賊も、なんなら天竜人もどいつもこいつも痛い目を見てもわからないやつらばっか。
隙あらばチャリンコ乗ってサボるクソガキにお湯ぶっかけて砕いたり、私よりでかいウォロロロ鳴いてるクソガキとグラララ鳴いてるクソガキが海と空割るレベルの喧嘩してたからクソガキ共の足の小指ぶち抜いたり、海兵の寿命を抜いてママママ笑う女の横っ面引っぱたいたり、奴隷を買いに行くとかでシャボンディ諸島に来た天竜人がところ構わずうろちょろしようとするから一発ぶん殴ったり。
最後に関しては守られているくせに守ってやっている人間に殺すだの処刑するだの何言ってんだテメェ海楼石でぐるぐる巻きにして一族諸共魚人島宛に出荷してやろうか見た目は人間と変わらねェんだよクソッタレ全員マリージョアから吊し上げるぞと五老星にも啖呵切ったら私より年下のお爺様方に出荷するか吊し上げるかどっちかにしろと宥められてお咎めはなかった。
だがしかし、人間とは悲しいもので痛みを伴っても学ばねェお馬鹿が一定数いるのである。
その筆頭が過去私から締め上げられた回数がそろそろ三桁超えそうなサカズキだ。
「徹底的ってそうじゃねェんだよこういうことを言うんだよえいっ」
「ぐあああああああああああ!?」
「あああああああ姐さん!やめよう!サカズキの首から出ちゃいけねェ音聞こえたから!!グキって!グキって!!自然系なのに!!」
「やめときなよォクザン……わっしらに矛先向くよ……」
「先にサカズキが死ぬけど!?」
「そもそも自然系の能力者が何もできない時点でわっしらも死ぬんだよ……」
「遠い目するな!!ボルサリーノ戻って来い!」
床を叩くサカズキの手が弱まってくると、珍しくおろおろとした様子のおつるが「おねえちゃん、そろそろ勘弁してやっておくれ」と声をかけた。
まあ、おつるに言われたらね。
最後にもう一度えいっ、と力を入れてから解放すれば、サカズキはそのまま力なく床に倒れる。
サカズキー!とクザンとボルサリーノが駆け寄り、体を揺すったり声をかけているけど別に死んじゃいないから。
はーあ、大きく溜め息を吐いて少々乱暴に椅子へ腰かけた。
そんな私を見て、センゴクが意を決したように口を開く。
「姐さん……これからある七武海の招集に参加してくれないか?」
「お前なんで今言うの?」
「頼む!!あの荒くれ者共を抑えられるのは姐さんだけなんだ!!」
「元帥が何言ってんの?」
「大将を締め上げた姐さんが何言ってるんだ!!」
お願いします!可愛い弟の頼みだろう!?と周りにまだ大将たちもガープもおつるもいるのにこの言い方よ……もうちょい言葉をだな……
まあ断る理由は書類業務が多いってだけなんだけど、それを言ったらサカズキにやらせるから!とセンゴクにめちゃくちゃ頼み込まれた。
そのサカズキは伸びてるんだけど。
海軍にはとんでもねェ女がいる。
年齢なんてわからねェ、わかるのは怒らせたらまずいってこと。
海賊も恐れる……いや、海賊だけじゃなくて海軍も、さらには天竜人も。
まだ天竜人としてプイプイ言わせていた頃に会ったことがあるが、初対面で頭が高いえ!と言ったら片足掴まれて逆さ吊りにされた挙げ句海に落とされた。
処刑だなんだと言ったら女が咎められるどころかおれが家族以外の天竜人に叱られる始末。
「あの女を敵回しちゃあかんえ!それこそ天竜人は滅びるえ!!」
「恐ろしいえ……あの女なら世界を取れるえ……海軍でよかった……」
なんで神と名高い天竜人が恐れるのか当時はわからなかったが今ならわかる。
今?海軍本部の窓から逆さ吊りにされてるが?
「成長したのは図体だけか?頭はまだクソガキのままか?目上の年上には敬語使って下手に出ろって教えたよな?あ?」
「わかったわかったわかりました!!おれが悪かったです!すみませんでした!!もう海兵で遊びません!」
厄介なことに、何故か悪魔の実の能力が無効化されんだよなァ。
そこら辺の海兵の女よりも細身なのにかなり高身長のおれを逆さ吊りにできる原理を教えてくれ、せめて現実逃避したい。
おつるさんがどれだけ優しいのか身に染みる。
ぺいっと軽々しく部屋に放り投げられておつるさんのところへ泣きつけば哀れむ目でよしよしと頭を撫でられた。
ここでのおれのオアシスはおつるさんだけだ……!
お前もおねえちゃんが来たらいい子にしないとだめだよと言われた、わかったあの女がいる時はおれいい子になる、おれいい子。
「おねえ様!息災で何よりじゃ!ああ……相変わらず若々しい……!」
「ハンコックも元気そうだね」
女帝が何言ってんだ、どう見てもおつるさんより遥か年上の若作りのババアじゃねェか。
でもおれいい子だから言わない、偉いだろ。
前に若作りのババアと鼻で笑った鰐野郎がどうなったか知ってるか?
茶を出しに来た海兵の持つトレーからグラス取って容赦なく鰐野郎にぶっかけて女よりも巨体のクロコダイルを締め上げたんだぞ。
魚人野郎が止めなかったらここは血の海ならぬ砂の海になってた、わかる、見聞色の覇気を使えねェ誰でもわかる。
鷹の目が剣抜いた時も持ってたペーパーナイフでいなして背負い投げしたんだぞ、魚人空手よりも強烈だった。
影で首を締め上げられたモリアは来ねェし、くまも「おれは置物……くまの置物……」と呟くし、ジンベエも「わしはサメ……ただのサメ……」と念入れるし、天竜人をぶん殴った話が知ったハンコックはやけに懐くし。
……地獄か?
当初女を引き込んでおれを追いやった天竜人への復讐も考えたことはあったがやめた、おれが殺られる、漢字変換は間違ってない。
常に暴発している銃を持ち歩く命知らずはいねェからな、おれいい子だしな。
つーか誰だ、この女を今日連れて来たのは。
ちらりと元帥を見れば、遠い目をしていた。
お前か。
「あー……クロコダイルとモリア、ジンベエは来ていないが始めるか」
始めるなよ。
何もなかったかのように始めるな。
そりゃああいつら絶対来ねェよ、ねえちゃんがいるんだもん。
というか海軍も七武海もいらねェと思う、ねえちゃんがいれば四皇だって大人しくなる。
誰も彼もが思っているだろうが言わねェ。
……なんでって?
おれらみんないい子だからさ……
海軍のおねえさん
誰よりも何よりも長生きの普通のみんなのおねえさん。
階級は中将だけど主に書類業務をこなす。
ガチの生きる伝説、歩く厄災。
平穏を好むけれど平穏とは程遠くて笑っちゃうよね。
平穏を乱すやつは誰彼構わずシバキ倒す。
長身の多い世界では低い背格好だけどそんなの関係ねェ!とばかりにシバキ倒す。
海軍はみんな弟分で妹分、海賊はそこら辺のヤンキー扱い、天竜人は問題児。
どこかのヤンキー世界ではカリスマ兄弟のおねえさんだったかもしれない。
海軍
誰よりも何よりも締め上げられシバキ倒される回数が多いサカズキ、おねえさんによくやったって褒められたいが故だけどやりすぎちゃうんだよ!
クザンもボルサリーノもサカズキよりは締め上げられる回数は少ない、助けたいけど次はおれらの番って言われるだろうから助けられない。
可愛い弟だろ!と人目も気にせず言う元帥はある意味肝が据わっている。
王下七武海
ほとんどおねえさんに締め上げられた。
回数が多いのはドフラミンゴ、時点でクロコダイル、ミホークと続く。
天竜人
やばいえ!ちゃんと自分の子どもたちにもあの女の前では下々民のように平伏すよう教育するえ!!
五老星
ごめんなさいおねえちゃんの気分。