103番道路

こんなに歩いたのいつ以来だろう。
ずっと引きこもってた。
外に出ても海岸でたまに顔を出すホエルコを見てぼーっとするだけ。
ポケモンとバトル?そんなのしたことない。
コトキタウンを出る直前に私を呼び止めたフレンドリィショップの店員さんからもらったキズぐすりをアチャモに吹き付ける。
飛ぶのは楽そうだけど登るのは大変そうな段差を回り込んで、話をしているトレーナーたちに目を向けた。
その2人の足下には、キモリとミズゴロウ。
その姿を捉えたのか、アチャモは急にテンションが上がったようで大きな声を上げながら走り出す。

「ちょっと待ってよ……!」

あのひよこ……!
溜め息をついてアチャモを追いかけるように走り出した。
速い、速いんだけど。
なんであんなに速いの、あの子の特性はもうかでしょう。
がさがさと草むらを足音を大きくしながら走ってアチャモを追いかける。
待って待って。
走るの慣れてないの。

「チャモ!」

「ゴロ~」

「……キモ」

そんな私の視線の先で、アチャモはトレーナー2人のキモリとミズゴロウとじゃれ始めた。
きょとんとする男の子と女の子。
ポケモンたちはさも当然のようにじゃれているけど、私も含めてトレーナーは状況がよくわからない。

「……もしかして、研究所にいたアチャモ!?」

頭にリボンをつけた可愛らしい女の子がしゃがみ込んでアチャモに手を伸ばす。
アチャモは肯定するように元気に鳴くと、その手を嬉しそうに受け入れた。

「ご、めんなさい……私のアチャモが、」

「君のアチャモ?」

「えっと、さっき研究所で、オダマキ博士にもらって……」

同じくらいの年の子と話すのっていつ以来だろう。
説明をしてる私の言葉を男の子は頷いて、言葉が出るのを待ってくれてる。

「そっか、オレもちょっと前にもらったんだ。君、名前は?オレはユウキ、こいつは相棒のミズゴロウ」

「名前。この子はさっき一緒になったアチャモ」

「あ、私はハルカ!パートナーはこのキモリなの」

よろしくね、と笑ってくれるユウキとハルカ。
つられてちょっと笑顔をしてみたけど、少し恥ずかしくてすぐ俯いてしまった。


「へー!ミナモシティから!」

「ミナモシティ?」

「北西にある海辺の街だよ」

「行ってみたいなー、オレさ、ジョウトから引っ越してきたからまだ知らないことが多いんだ」

ユウキとハルカと3人でゆっくり歩いてコトキタウンへ向かう。
ミズゴロウやキモリ、アチャモは私たちの足下をちょろちょろしながらじゃれていた。
主にアチャモがはしゃいでいるような気が……
研究所でアチャモの入ったボールをもらった時、やけにカタカタ揺れていたのはこの2匹に会いたかったからなのだろうか。
それくらいしか思いつかない。

「私たちのポケモンは回復したけど疲れてるからジゼルちゃんとのバトルはまたね!」

「うん」

「そうだな。楽しみだなあ、名前とバトルするの!」

ユウキが楽しそうに笑って私を見る。
その笑顔がとても輝いて眩しくって、素敵だ。
ハルカも優しく笑って頷いた。
足下のアチャモは任せとけと言うように胸を張る。
トレーナーとはバトルしたことがない、から。
少し楽しみな気持ちもあるかもしれない。
そんな私の気持ちを察したかのように、ルルのボールが揺れた。
うん、はじめてのことばかりだから、楽しみなんだ。

「名前さ、ボール2つあるけどアチャモの他にも持ってるの?」

「うん、小さな頃から一緒にいる子がいてね、」

「すごい!ね、ね、研究所についたら紹介して!」

私、名前のこともっと知りたいな!
ハルカがそう言って私に笑いかける。
あまりそうやって言ってもらったことがなくて、ちょっと恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じた。
いいよ、と言った言葉はハルカに聞こえていたかな?

 

2023年7月25日