ミシロタウン②

「兄さん、帰っちゃったんですか……?」

嘘でしょ。
ユウキとハルカがオダマキ博士と話してる間、研究員さんの言葉に呆然とする。
──お兄さん、ミナモシティに帰りましたよ
せめて妹がちゃんと旅立つところ見ようよ……
ちょっと肩を落としていると、足下のアチャモが心配そうに私を見上げた。
ちゃもちゃも、と可愛らしく鳴いてるアチャモの頭を撫でる。
連絡しようにもポケギア持ってないし、マルチナビにそんな機能はないし。
これは、もう本格的に放り出されたとしか。

「名前ちゃん、大丈夫かい?」

「あ、はい」

「お兄さんは急ぎの用があると言ってたんだ、そう気を落とすことはないよ」

いやいや、帰れません。
ずっと引きこもりしてた私にはハードルが高い。
慰めようとずっと鳴いてるアチャモを抱っこしてふわふわした毛並みに顔を埋めると干したてのお布団みたいな匂いがした。
ルルとまた違って、ちょっと安心する。
カタカタと揺れるボールも撫でてほっと一息。

「名前ちゃん、これを」

ご満悦気味なアチャモを抱っこしながらオダマキ博士の方へ振り向いた。
博士の手には、ユウキとハルカの持つものと同じもの。
いわゆるポケモン図鑑。
博士は私の前まで歩いてくると、それを私に差し出す。

「彼に頼まれていてね……君が、このホウエン地方を冒険するきっかけをと。いろんなポケモンや人に出会って君の世界を広げてほしい、それがお兄さんの本当の願いだよ。可愛い妹が狭い家で閉じこもったままじゃなくて、広い世界に飛び出してほしいって」

だから、これを君の理由にしていいから、ホウエン地方を巡ってみなさい。
オダマキ博士からポケモン図鑑を受け取って、その画面をじっと見つめた。
確かにポケモンを託して旅をさせるって言ってた、でも、それは私がミナモシティに帰るには旅をしてジムに挑戦してバッジとか集めないといけないわけで……

「……」

「名前!俺もこのホウエン地方を見てみるんだ。俺は引っ越してきたばかりで、全部初めて見るものだから」

「ユウキ……」

「一緒に行くわけじゃないけど、冒険を楽しもう」

「私もね、お父さんのお手伝いでホウエン地方を回ろうと思ってるの!目的は違うけれど、私たち友達だし、頑張ろうね」

ユウキとハルカが図鑑を持つ私の手を握る。
力強さと温かさが嬉しくて、勇気をもらってるような気がして。

「……うん、私なりに、冒険してみる」

頑張ろうって、思えたんだ。

2023年7月25日