もしも高専時代のさしす組と出会っていたら①

「臨時教員だけど生意気なクソガキは締め上げろと私の本能が訴える」

「気持ちはわかる!わかるが!!」

「ならいいでしょ夜蛾さん、初っ端の人間には喧嘩売れというのがこの学校の校則ならこの後に夜蛾さんも吊るすぞ」

「スミマセン俺の教育不足でした」

「どこの未成年もこんななの?それどうなの?うちの未成年は私が一度吊るしてもやらかすのめげねえんだけどこいつらもそうなの?学習って知ってる?知らないなら叩き込むぞ」

「それ物理」

今日はいい天気だなぁ、風強くて桜はとうに散ったけど。
そんな桜の木のてっぺんから吊るしたクソガキふたりが強風で仰ぐ。
春だからせっかくだし桜も描こうかな。
なんかごめんなさいいいいい!!許してくださいいいいい!!って聞こえたけど無視だ無視。
そんなクソガキふたりを蘭と竜胆が爆笑して見ているけれどまあいっか。
今私と蘭と竜胆は東京都立呪術高等専門学校にいる。
きっかけは少し前、夜蛾さんって人に出会ってからだ。
仕事辞めた後、蘭と竜胆と同居始める前に行った傷心旅行先で夜蛾さんに出会って、私の描いた絵を見てスカウトされた。
まあ仕事辞めた後で安定した収入欲しいなって思ってたし。
絵だけではまだ生計立てられてないから、それまででいいならと夜蛾さんの申し出を受けたに至る。
今日から臨時教員ってことでこの学校に来た。
蘭と竜胆がいるのは暇だしねえちゃんの仕事見てみたーい!と駄々を捏ねた結果。
大人しくしてろよ、と言っておいたけれど思ったよりも大人しくしてる。
むしろ夜蛾さんの担当する生徒が生意気だわ。
出会い頭に好き勝手言ってたので吊るした、そのまま風に煽られとけ。

「ねえちゃん帰ろーぜー、こんなクソガキ相手にセンセーなんてしなくていーじゃん」

「学校のセンセーじゃなくてお絵描き教室のセンセーならねーちゃん似合うと思う」

「あ、私もそっちの方がやる気出そうだわ。じゃあ夜蛾さん、短い間でしたがお世話になりました」

「待て待て待て待て自己紹介して五分しか経ってないだろう」

「その分の給料振り込んでおいてくださいね」

「手数料の方が高い!」

夜蛾さんのぬいぐるみたちによって救助されたクソガキふたりはそのまま夜蛾さんによって拳骨を落とされ、それから私の前に正座をした。
グラサンの方は渋々って感じ。
お団子の方は涙目。
ちなみに同級生らしい女の子は怯えながら夜蛾さんの後ろから私を見ている。

「すみませんでしたァ」

「申し訳ありませんでした……」

謝り方の差……
それに腹を立てる前に蘭が動いた。
待ったをかける前にグラサンに蹴りを一発。
竜胆はおおー、と拍手。
やめろ、大人しくするって約束でオマエら連れて来てるんだぞ。

「ってえな!何すんだ三つ編み野郎!!」

「オマエねえちゃんに対して何言ってんだァ?もっかいねえちゃんに吊るされてえの?ねえちゃん優しいからそれだけで済むけどオレが殺してやろうか?」

「蘭、やめな」

「兄貴、オレもオレも」

「竜胆もやめろ」

オマエらを先に吊るしてやろうか。
そう呟けばふたりはささっと私の横に並び、ごめんなさいやりませんと頭を下げた。
ここじゃ埒がねえな、と思ったのは夜蛾さんもだったらしくてとりあえず教室へ。
その道中も蘭と竜胆はグラサンを煽るわ煽るわ。
やめろやめろ、面倒だろ。

「今日からここで臨時教員をする名前さんだ。元々一般企業で働いていらっしゃったんだがそこを辞めて絵師と兼業でうちで教員をしてくださることになった。術式も呪力もあるが一般人だ、どんな方かは悟と傑が身を持って知ったから割愛する」

「はーいセンセー、こんなやつ教員じゃなくていーと思いまーす」

「はーいねーちゃーん、こんなクソガキ共に貴重な時間割かなくていいと思いまーす」

「はァ?やんのか眼鏡」

「あァ?やってやんよ表出ろや白髪頭」

「悟!言った傍からオマエは!!」

「竜胆、オマエからやってやろうか」

「おっ、竜胆オレも混ぜろよー」

悲鳴が三人分、泣き声が二人分、怒号が二人分とだけ言っておくわ。

 

臨時教員って言っても教えられることはない。
ただ、呪力コントロール?ってやつが私はかなり上手いらしいのでその伝達だ。
夜蛾さんによると、私は絵を描く時に無意識に呪力を込めて描いているらしい。
さらに描かれた絵にその効果は持続される、半永久的に。
なので呪具っていう元々呪力が込められているものではなく、何の変哲もない無機物に対して呪力を込める訓練を担当することになった。
私も何て言ってるのかわからん。
呪力が視認できるわけじゃないので大体は夜蛾さんと一緒に一年生三人に教える。
で、私が高専に来る日には蘭と竜胆も高確率で着いてくるし、蘭と竜胆も私と同じように変な生き物は見えるし術式とやらも呪力とやらもあるので自衛のために訓練に参加……しているはずだった。

「じゅつしきとやらに頼り過ぎなんじゃないんですかァ?」

「正攻法に慣れ過ぎているんじゃないんですかァ?」

「……オマエら泣かすからな!」

「そう言っていられるのも今のうちだからね……!」

ガチな喧嘩に発展するんだよな、毎回。
蘭と竜胆が五条と夏油を煽って喧嘩を始める。
大体が蘭と五条、竜胆と夏油で喧嘩しているし、たまに蘭と竜胆が場所を入れ替わって不意打ちをしたり。
まああいつら喧嘩に関しては手段選ばねえからな、なんてったってあいつら率いてるのは黒川だし。
泣く子も黙る天竺だもんな、人相手の喧嘩なら蘭と竜胆に分がある。
最初は四人揃って吊るしていたけれど、夜蛾さんにそのまま体術訓練に切り替えてやるのはどうだ?と提案されたので、喧嘩が始まったら授業終わりまでは放置することにした。
つーか蘭と竜胆の方が年上だろうが煽るんじゃねえよ。

「名前さん、いいんですかあいつら」

「いいよ、硝子は私とやってようか」

「はい」

唯一の女子生徒、家入硝子と名乗った子は四人と比べるとかなりいい子だ。
それに呪力のコントロールも精度が高い、夜蛾さんによるとね。
口の悪さが蘭と竜胆に影響されつつあるような気もするけど。

「俺も傑も素手なのにテメェだけ武器持ってんじゃねーよ!」

「はー?なんでテメェらに合わせなきゃいけねえんだよ」

「兄貴あれだよ、兄貴が武器持ってるから負けたって言い訳してえんだってさ」

「そう言う竜胆も関節技決めるなんて卑怯だろう!そこに蘭も加わるし!」

「オレらのスタイルだからいいんですぅ」

「負けた時の言い訳考えるの大好きかよクソガキだなぁ」

おーおー、煽るなー。
ちなみに蘭と竜胆のやり方を夜蛾さんに聞いたら夜蛾さんたちが相手にするやつらは手段選ばないから問題ないってさ。
変な生き物を祓除?することもあればタチの悪い悪意のある呪術師……呪詛師を相手にすることも多いからいいって。
すげーな、蘭と竜胆たちの喧嘩が可愛く見えるわ。
知ってる?こいつら高専一年生と十八歳だぞ?

「硝子は呪力のコントロール上手だね」

「本当ですか!」

「うん、私でもわかる」

「……名前さんに褒められるの、嬉しい」

「自信持ちなよ、私なんかでもいつの間にかできてたんだから真面目に練習している硝子の方が上手だよ」

花垣の彼女や黒川の妹と同じくらいの年だからかな、素直さが蘭と竜胆にないもので可愛い。
ちなみに黒川の妹のエマや花垣の彼女のヒナとはたまにショッピングに行ったりしてエマとヒナのデート用の服を見繕ったりしている。
今度硝子とも出かけるのもいいかな、その時はエマとヒナも誘おう。

「名前さんの弟たちはセンスがいいな」

「喧嘩だけですよ」

「正直あのふたりが慢心している節があったからありがたい。……少年院にぶち込まれたことがあると聞いた時は胃が痛くなったが」

「まあ相応なこと殺っちゃいましたからね」

ここに出入りする以上、私含め蘭と竜胆の身辺調査もしたらしいよ。
まあ蘭と竜胆のことは事実だからね、今更誤魔化したりはしない。
硝子が手に持った木の棒に上手く呪力を込められるようになった頃、五条と夏油は蘭と竜胆によって地面とお友達になり、丁度授業の終了を告げるチャイムが鳴った。
いやー、我が従弟ながら容赦ねえな。

「ねえちゃん見てた?どうだった?」

「あいつら口だけでよえーもん、余裕だったよ」

「あー……うん、いいんじゃない?」

地面に倒れている五条と夏油から「次はぜってー泣かすからな!」「覚えてろ……!」なんて恨み言が聞こえてきたけどそれ次もボコボコにされるフラグ。
褒めて褒めてと寄ってくる蘭と竜胆にお疲れ、とスポドリを渡せば嬉しそうに破顔する。

「喧嘩じゃねえちゃんに褒められたことなかったから嬉しい」

「ねーちゃんオレらかっこよかった?」

「かっこいいかっこいい」

そりゃ喧嘩じゃ褒めないっての。
でもほら、ふたりからしたら喧嘩だけど夜蛾さんはそれが訓練になるって言ってくれたからいいんじゃないかな、褒めても。
夜ご飯は頑張ったふたりのリクエストにしようか、と言えばふたりはもっと嬉しそうに笑った。
ふたりに甘いんだよ!なんて五条の声が聞こえたような気がするけど、まあいっか。


親戚のおねえさん
仕事を辞めた後に行った傷心旅行で夜蛾先生と出会ってそのまま高専の臨時教員をする流れになった。
出会い頭に好き勝手言ってくれた最強コンビは桜の木から吊るした、吊るすのはお手の物。
ここの時間軸ではまだ絵師として成功はしていないので、兼業して食べていければいいかって感覚。
基本的に補助監督の人が高専で授業ある日にお迎えに来てくれるので高確率で蘭くんと竜胆くんと高専へ赴く。
時間軸としてはふたりが天竺の頃なので二十八歳。

灰谷兄弟
ねーちゃんセンセーやんの?見に行きたい!って着いてくるようになった。
最強コンビと喧嘩するのはデフォ、喧嘩だけならふたりが強い。
大体最強コンビを煽る。
硝子ちゃんには美味しいお菓子をお土産で持って来るので硝子ちゃんのこと可愛がってると思う。
授業の時間以外で喧嘩してたら最強コンビと揃って吊るされる灰谷兄弟。
天竺軸なので十八歳。

最強コンビ
こんなやつが臨時教員?無理だろ、みたいなことを言ったら吊るされた、泣いた。
五条くんはそれでもおねえさんのこと馬鹿にしている節はあるけどその度に蘭くんか竜胆くんに殴られたり蹴られたりする。
夏油くんは最初吊るされてからおねえさんの前では優等生ぶってる、もう吊るされたくないです。
灰谷兄弟のトリッキーな喧嘩に慣れてないから悉く負ける、その度に恨み言呟いているけど、それでも負ける。
灰谷兄弟の二つ年下。

家入硝子
初対面のおねえさんの勢いにちょっと泣いたし怯えた。
でも話して授業受けると、あれ?めちゃくちゃ優しいし丁寧……!いつかお姉ちゃんって呼ぶ未来があるかも。
灰谷兄弟から毎回お土産貰うから好感度は高い。

夜蛾正道
おねえさんの傷心旅行先で出会って呪術師が無理なら臨時教員に……給料はこのくらいで……とスカウトした。
まさか吊るすとは思わなかった。
おねえさんの七つ年上、一番歳近い。
おねえさんと飲む機会も訪れるけれど、その時は蘭くんも竜胆くんも同席するよ!おねえさんの酒癖知らないでしょ?

三人分の悲鳴→五条くんと蘭くんと竜胆くん
二人分の泣き声→夏油くんと硝子ちゃん
二人分の怒号→夜蛾先生とおねえさん

2023年8月3日