もしも高専時代のさしす組と出会っていたら②

「はァ!?なんだよこれ!ちょ……兄ちゃんケータイ圏外なんだけど!!」

「やばいやばいやばいやばいねえちゃんに連絡返さねえとやられる……!」

「オマエら実は余裕だろ!」

「ほら戦えないんだったら避けて!」

「無茶言うなクソが!」

「あー!!ケータイ落としたァ!!ねーちゃんに殺られる!やだああああああ!!」

「今はそれどころじゃないだろう!」

「オマエら戦えんだから参加しろよ!」

傑と任務先の廃工場に来たら蘭と竜胆がいた。
知らない服に身を包んだふたりによると、天竺っていうチームの集会だったらしい。
蘭と竜胆がのんびりとバイクの準備をしている間に帳が下りて、俺と傑の目当ての呪霊がわんさか現れて、それが厄介なやつらだったから蘭と竜胆と逃げ回りながら今に至る。
つーかこの状況って普通命の心配しねえの?なんで名前さん!?
ケータイを落とした竜胆が終わった……と項垂れるのを傑が自分の呪霊で回収して走り回りながらふたりになんでか聞いた。
曰く、報連相しっかりしねえとねーちゃんに怒られる。
曰く、前にも同じことやらかしてねえちゃんに閉め出された。
曰く、やべえ。
わかるかそんなん!!

「オマエらはまだねーちゃんの恐ろしさを知らねえから言えるんだよ!!」

「終わった……しかも竜胆さっきまでモク吸ってたから余計に終わった……」

呪霊より恐れられる福寿さんについて。
俺たちが知ってるよりも怖いんだな名前さん。
初対面でちょっと煽ったら吊るされたのがトラウマになっている傑は顔を真っ青にしてふたりに同情する。
そうだな、オマエは名前さんには優等生ぶってるもんな。
それでも吊るされる時は吊るされんけど。
とりあえず、呪霊たちから距離を取って作戦会議だ。
傑の呪霊で応戦している間、俺たち四人は輪を作って今の状況からの打開策を話す。
内容は、如何に名前さんに怒られないようにするか。
……いやアホだな俺ら。
どう見ても呪霊をなんとかするのが先だってのに。

「名前さん、最後は何て?」

「……飯もうできるけどいつ帰ってくる?って」

「そんなんなんとかなんだろ」

「なんとかならねえんだよ……そもそも報連相ない時点でオレらはもう詰んでんだよ……」

思ったよりも集会が盛り上がって連絡に気づかなかった、で、帳が下りた後にメールが入っているのに気づいた、帳が下りているから圏外、連絡できねえ、蘭と竜胆詰んだ。
しょうもねえな。
竜胆なんかもうこの世の終わりとばかりに泣いている。
嘘だろ俺たちがボコボコにして泣く予定の前に名前さんが怖くて泣いちまったよ。
あんなに対人ではクソ強い竜胆が泣いている、蘭も何か悟るような顔して涙目だ。

「蘭も竜胆もそんなんで反抗期どう乗り越えたんだよ」

「オレらいつでも反抗期だけどな、世間に」

「誰が上手いこと言えと……というかその様子だと名前さんに捩じ伏せられているんだろう?」

「ねーちゃんに反抗するわけねえだろ!伯父さんの計らいでネンショー来てオレらぶん殴って向こうの職員に取り押さえられるねーちゃんだぞ!?」

「うわあ」

「ひどい」

「そもそも初めて会った時に吊るされてんだよ……オマエらも構って欲しくて悪戯続けてプチンとキレたねえちゃんに吊るされれば反抗する気もなくなるんだよ……」

だからねえちゃんには絶対反抗しねえ、絶対にだ。
そんな無駄に説得力のあることを言うんじゃねえよ。
呪霊そっちのけでうんうんと四人で頭を悩ませる。
すると、天啓!とばかりにめそめそ泣いていた竜胆が顔を上げた。

「五条と夏油、終わったらうち来いよ」

「あっ間に合ってます」

「なんでだよ!オレと兄ちゃんのバイクあんから後ろ乗りゃうち来れんだろ!!ここまで来たら逃がさねえぞ!一緒にねーちゃんに怒られてくれよ!!」

「嫌に決まってんだろ!!そうでなくてもオマエら巻き込んだ時点で俺と傑が拳骨される未来は確定してんだよ!!」

「ハッ……!夜蛾センに殴られる代わりにねえちゃんに殴られてもう怒られましたって言やぁなんとか、なる!!」

「ならないから!!」

その後、蘭と竜胆も参加してなんとか呪霊を祓い、いくつかは傑が取り込んでとりあえずこの場は納まった。
俺たち?
蘭と竜胆が今度イイもん奢ってやるから!頼むから!一緒にうち来いよおおおお!!と見たこともない必死な様子だったから俺と傑はそれぞれ蘭と竜胆のバイクの後ろに乗ってふたりの家に行くことになったんだよ。
後で拾った竜胆のケータイには、先食べてるからと一言。
余計にこえーよ!

 

「ふぅん……で?言いたいことあれば聞くけど?」

「すみませんでした」

「申し訳ありませんでした」

「……竜胆オマエ煙草吸ったな?」

「ヒッ」

蘭と竜胆に連れられて私と悟は名前さんとふたりの住む六本木のタワーマンションに来ていた。
エレベーター内でふたりは無言、通夜かってくらい、無言で暗い顔。
可哀想なくらい真っ青だった。
ただいま、と恐る恐る家に入った蘭と竜胆に続いて私と悟もお邪魔しますと声をかけてから続く。
てっきり問答無用でふたりが怒られるのかと思えば、食卓でコーヒー片手に座っていた名前さんは恐ろしいくらい穏やかな声で、いやあのめちゃくちゃ怖いんですけど。
フローリングに正座をした蘭と竜胆の後ろに私たちも自然と正座した。
煙草吸っていたのがあっさりバレた竜胆の頭に拳骨を二回、蘭には一回落とした名前さんは大きく溜め息を吐くと、着替えて飯食えよと言ってふたりを部屋に向かわせる。

「なんで五条と夏油も正座してんだよ」

「いや……」

「あのですね……」

事のあらましを名前さんに言えば、福寿さんは「ふぅん……」と呟いてそのままケータイでどこかに電話をする。
ああ、話の内容でわかった。
夜蛾先生に電話してるんだこの人。
いくつか会話すると名前さんは通話を切って正座をしている私たちに視線を向けた。

「夜も遅いし泊まっていっていいってさ。夕飯は?食べた?」

「まだ……」

「じゃあちょっと今から追加で作るから待ってて」

「えっ」

「ああ、正座別にしなくていいし、そこに座ってな」

名前さんはマグカップを片手に台所へ。
思わず悟と顔を見合わせて、私たちは言われた通りにソファーに腰かける。

「……怒ってなかった、よな?」

「多分……」

それどころか先生に何か言ってくれていたような……というか先生に怒っていたような……
名前さんが台所で何かやっていると、スウェットに着替えた蘭と竜胆が戻ってきた。
どうだった?と少し心配そうに聞いてきたので私たちが泊まることになったと言えば少しだけ安心したように息を吐く。
それから蘭と竜胆は名前さんのいる台所に向かった。
台所からは蘭と竜胆が名前さんに謝って、食事の準備を手伝うと言ったのが聞こえる。

「なあ、オマエらめちゃくちゃ食う?」

「あ、おう……俺より傑が食うけど」

「ねーちゃん、量あってへーきだってさ」

「茶碗とか出してご飯よそったり味噌汁用意しておいて」

「うん」

てきぱきと名前さんの手伝いをしている蘭と竜胆をソファーから悟と眺める。
意外だな、ふたりでも手伝いするんだ。
しばらく大人しく待っていると、大皿を持った名前さんに呼ばれて食卓に。
並んでいるのは出来たての食事、美味しそう。
呪霊を取り込んだ後だからあまり食欲湧かなかったけれど、そんなの無視して食べれそうだ。

「食べたら風呂入っておいで、蘭と竜胆も。服はふたりが貸すから、寝る場所は……リビングに布団持ってこようか」

「マジでいいの?」

「いいよ。こんな遅い時間に帰すのも嫌だし」

新しいコーヒーを淹れたらしい名前さんはそのままソファーに腰をかけ、適当につけたテレビを眺めてさっさと食べて風呂入って寝なよと顔をこちらに向けないまま言う。
蘭と竜胆にも促され、私と悟は温かい食事に手を伸ばした。
それからお風呂をいただいて、蘭と竜胆が用意してくれた寝間着を借りて、名前さんがリビングに用意した布団に横になる。
……なんか、名前さんも蘭と竜胆も、人を泊めるの慣れてるね?
悟なんかお泊まり会じゃん!とちょっとはしゃいでいるんだけど。

「つーか名前さん夜蛾センに何言ったんだろうな」

「さあ?特に連絡も来てないし、明日高専に戻れば何かあるんじゃない?」

「クソガキ共喜べー、オレらが一緒に寝てやんよ」

「うわなんか来た」

「なんかってなんだよ。ねーちゃんに一緒に寝ていいかって聞いたら静かにするならいいってさ」

「ねえちゃんは今日夜通し作業するっつってたから騒ぐのはなしな」

「作業?」

「ねーちゃん今度絵を何かの賞に出すんだって。ラフはできたから色塗り考えるっつってた」

そうか、名前さんはあくまで高専の臨時教員だ。
本業は絵師、まだそんなに売れてないみたいだけど、たまに伝手を使って個展開いたりイベントに出てるんだったか。
枕と毛布を持ってきた蘭と竜胆がそれぞれ私と悟の横に寝転がると、待ってきた何かの本を置いて誇らしげに笑う。
なんだろうこれ、画集?

「ねえちゃんが今まで描いたやつをイラスト集にしたんだよ。オマエら見たことねえから見せようと思って」

「綺麗なんだよ、絵がわかんなくてもそんくらいわかんだろ」

適当に開いたページには、見開きいっぱいの青空。
とても綺麗で、思わず息を飲む。
よく見れば本のページが少し剥げていて、蘭と竜胆も何度も捲ったのがわかった。
……とても好きなんだな、名前さんのこと。

「空しか描かねえの?」

「おー、空が好きだから空ばっか描いてる」

そういえば高専に来て私たちの授業がない時はよくスケッチブックを開いて何か描いていた。
視線はいつもかなり上。
きっと空を描いていたんだ。
晴れの日だけでなく、曇りの時も雨の時も。
青だけじゃなくて、オレンジも灰色も、なんでも使って。

「……綺麗だね、悟」

「おう……すげー……」

だろ?と自分のことじゃないのに嬉しそうに笑う蘭と竜胆。
ゲームをしたり、くだらない話をしたり、そういうわけではないけれど話は盛り上がって。
寝落ちた後、コーヒーのお代わりに来た名前さんに布団をかけ直されたような気がした。


親戚のおねえさん
報連相しっかりしないと怒る、未成年が飲酒喫煙していたら怒る、そんな人。
蘭くんと竜胆くんが連絡返せなかった事情や五条くんと夏油くんの事情も汲み取って灰谷兄弟には拳骨だけで済ませた。
まだ二十代だから夜通しの作業はそこまで苦じゃない、寝落ちた四人を見て子どもだなあと思った。
ちなみに夜蛾先生に連絡入れたのはこんな遅くまで未成年に何させてんだよって内容。
既にたくさん弟分がいるから増えても気にしない。

灰谷兄弟
天竺の集会に来て竜胆くんが一服したら帰ろうと思ったら最強コンビの任務地だった。
呪霊よりもこえーのはねえちゃんなんだよ!どうしようねーちゃんに殺られる……!もうそっちのことしか頭になかった。
最強コンビをバイクに乗せた時はふたりはノーヘルだったので、バレたらラリアットされる。
会えば喧嘩になるけれど、弟分として見ている節があったりなかったり。
せっかくだからねえちゃん自慢してやるよ!

最強コンビ
任務地に灰谷兄弟がいておねえさんに怒られる!と真っ青な顔してたのでちょっと同情したので三人のおうちに来た。
プチお泊まり会、五条くん経験なさそうだからはしゃぎそう。
美味しいご飯と温かいお風呂、ふかふかのお布団で綺麗なイラスト集を見て癒されたふたり。
俺にも姉ちゃんいたらなー、お姉さんいたらこんな感じかなー。
翌日、蘭くんと竜胆くんに高専まで送ってもらった。
胃が痛そうな夜蛾先生からは何もお咎めはなかった。

夜蛾正道
おねえさんに怒られた、後が怖い。

 

五条と夏油が護衛していた女の子と沖縄行ってたってさ、女の子に会わせたいから高専に来たけどなんかでっけーゴリラみたいなのがいるんだけど、は?暗殺?穏やかじゃねーなー、いたいけな女の子狙うって倫理観どうなってんだ吊るすぞ。
次回!フィジカルゴリラ危機一髪!かもしれない。
え?ヒモ?ちょっと私と話そうか、オマエ逆さまに吊ったままな。

2023年8月3日