もしも探偵の世界と交わっていたら④

「いやほんっっっっっとーに世の中クソ過ぎてびっくりなんだけど。私オマエになんつった?危ねえことすんなっつったよな?その耳飾りか?クソガキでも容赦しねえぞ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「ねえちゃんやめたげて!!」

「クソガキ泣いてるから!!」

「怪盗なんちゃらだかキッドキラーだかなんだか知らねーけど警察来てんだろうがただのクソガキのただの遊び場じゃねえんだよ吊るすぞ」

「すみませんすみませんすみませんすみません」

「もう!吊るしてる!!片手で!」

「ねーちゃんどうどう!やめよ!」

今日はいい天気だなぁ、夜空は綺麗だけど生憎高層ビルの建ち並ぶところでは星は見えなくなっている。
いつものラフな格好ではなく、ドレスコードがあったからそれなりに洒落た格好だ、パンツスタイルだけど。
とある財閥のパーティーに招待された。
私の絵にぴったりな宝石があるからぜひ一緒に展示したいんだと。
財閥の名前見た瞬間に断りてえとぼやいたのはしょうがない。
そしたら案の定、その宝石に怪盗キッドとやらから予告状が届いたらしい。
は?なんで私ここに呼ばれなきゃならねえの?
他所でやれそんなん。
警察来てるしやけに多いし、いやそこまではいいんだよ、まだ、まだな。
なんっでクソガキがちょろちょろちょろちょろしてんだよ。
警察がいるってのに毛利さんだっけ?の言うこと聞かずにちょろちょろちょろちょろちょろちょろちょろちょろ……まあ怒るよな。
私の近くに来たところでとっ捕まえた、足首掴んで逆さまにして今に至る。

「ごめんなさいとすみませんで済むならこうして吊るされてねえんだよついでに怪盗なんちゃらと吊るし上げて知り合い御用達のフィリピンに出荷してやろうか?」

「名前さん!誠に申し訳ございませんでした!!ボウズは私が責任持って見ておりますので!何卒!何卒そのくらいでご容赦を……!!」

「見てなかったからこうなってんだろうが」

「もうちょろちょろしませぇん……ひぐっ、ぐすっ」

「ねえちゃんもうやめてあげて!」

「ほら毛利も頭下げてっから!!」

「……次、私の見える範囲でやったらワンコインどころか値段つけねえで出荷だからな」

逆さまのまま毛利さんにクソガキを渡せばクソガキは毛利さんに縋りつくようにして泣きじゃくった。
私が悪いように見えるかもだけど正論しか言ってねえからな。
毛利さんの娘さんが私もちゃんと見ておきます!と頭を下げるので、もういいよと声をかける。

「……いや、過激な方だと噂は聞いておりましたが」

「おじ様、この前おじ様も怒られていたでしょう……そんななかったかのように……」

「過激過ぎて頭が思い出すのを拒んでおった……」

そう言えばそんなこともあったな。
カチューシャの子に耳打ちされて鈴木財閥の相談役が顔を青くした。
まあそんな騒ぎはあったものの、私は蘭と竜胆と会場内を見て回る。
予告状が届いた宝石だけでなく、鈴木財閥や提携している財閥や企業の所有品であるものも飾られているようだ。
宝石はあんまり描いたことないな。
SNSで見ると色鉛筆だけで本物のように模写したものもあったから、私も何か模写しようと思ったけど思ったより上手くいかなかった。
世の中広いな、凄い技術持った人なんてごまんといるんだから。

「ねーちゃんあまり宝石とか見ねえもんな」

「綺麗だとは思うよ」

「あんまり豪奢なモンじゃなくてこういうのとかつけたら似合うと思う」

「わかるー、華奢なモン似合うよなぁ」

オレらがあげたピアスとかさ、なんて言いながら蘭が私の耳に触れる。
ふたりが開けた私のピアスホール、ふたりの名前に因んだ色のものを好んでいるからね。
今日も蘭と竜胆が選んでくれたものを付けているし。

「今度オレと竜胆のも選んでよ。ねえちゃんの色がいいなぁ」

「おっいいなそれ!」

「じゃあ今度選びに行こうか」

やったー!なんて喜ぶ蘭と竜胆。
変わらないなぁ、素直なところ。
私の中ではいつまでも幼い弟たちのままだからかな。
展示物そっちのけであの店がいい、この店がいいと話すふたりにもう少し静かにしなよと声をかけ、怪盗とやらの予告時間までゆっくり過ごしていた。

 

「こんっな姉ちゃんがいるなんて聞いてねえよおおおおお!!」

「ぎゃあぎゃあうるせえな、さっさと盗ったモン出せよおら跳ねりゃ出てくんだろ」

「逆さまの状態で跳ねられねえしねーちゃんそれチンピラも言わねえよ……」

「シッ!竜胆、変に言うとオレらに飛び火来る……!」

「んんっ……あー……逞しいレディ?せめて逆さまに吊るした状態から下ろして……」

「もらえると思ってんなら甘いんじゃねえの?」

「……ですよねー」

どうしてこうなった!
いや、予告状を出して、時間通りに宝石を取ったところまではよかった。
後は目的の宝石か確認をして、違ったら返す。
それだけだったはずなのに!
怪盗キッドみーっけ、なんて軽い声でそっくりの男たちに追っかけ回されて、その先にいた女性に吊るされた。
なんで!?なんで吊るされた!?
というかどうやったらオレ吊るされんの!?
この人細身に見えるのにどこにそんな力あんの!?
チンピラかよ!跳ねりゃ出てくんだろって!!
変装は解いているけれど、器用にそこら辺にあるフックに見事に逆さまに吊るされているオレ……怪盗ってなんだっけ?どう見ても一般人の女性に逆さまに吊るされるモンだっけ?
男たちだってそうだ、なんだよあの身のこなし!
くっそ、ちゃんと招待客のこともっと調べてから来るんだった……
絵師のこの人は最後の最後まで参加を渋っていたし、その付き添いがこんなやつらとは思わなかった。

「ねえちゃんこいつどーすんの?」

「盗んだモン出てきたら簀巻きにして警察に引き渡せばいいんじゃねえの」

「よかったな、出荷先は警察だってよ」

「最近国内への出荷なかったからなー」

「そうじゃない!下ろしてください!!返しますから!!」

はい!と宝石を女性に渡せば女性はそれを受け取ると、そのまま隣にいた長髪の男に渡す。
それからスマートフォンを取り出すと、どこかへ連絡した。

「あ、参加者の絵師なんですけど。怪盗なんちゃらを吊るしているんで来てもらっていいです?」

「ひっど!!返しただろ!?」

「え?吊るしてます、はい」

「ちょっと弟さんたち!?下ろしてもらっていいですか!?」

「何言ってんだよ、ねえちゃんに吊るされた時点で無理だろ」

「なんなんですかこの人!」

「え?オレらのねーちゃん」

「そうじゃない!!」

ああもう!話しても埒が明かないな!!
女性がスマートフォンをポケットにしまったところでマントが引っかかっているフックを外し、体勢を整える。
あ、と目の前の三人が声を上げたのを横目にダミーの人形と自分の位置と入れ替えて三人から距離を取った。
よし逃げられる!
予め使う予定の退路へ向かうために身を翻す。
ただ一直線に走るだけだと捕まるのは目に見えているから、障害物を上手く使ってただ走った。

「竜胆ぉ、それ取って」

「はいよー」

「っらァ!」

「いっで!!」

ゴンッ!と背中に何かが当たる。
振り向けば、そこら辺に落ちていた工具が。
嘘だろそこそこ重いぞあれ!
短髪の男が当たっとけよつまんねえな、なんて舌打ちをした。
もーいやだ!帰る!!おうちかえる!!
覚えたからな!お前ら三人の顔!!
急いで窓の外へ身を躍らせ、パラグライダーを開いて空へ。

「ぜっっっっってえもう関わんねー!!」

知ってるか?これフラグって言うんだってよ。
折っとけそんなん!!


親戚のおねえさん
コナンくんがちょろちょろしているのを見て怒った人。
人がどんだけいようが見てようが知るか、目に余る。
毛利さんとその娘さんの訴えにとりあえず返した。
予告状?だから来たくなかったんだよこんなところ。
宝石盗った怪盗キッドも見つけたので吊るした。
自分の癪に障る人間は大人も子どもも関係なく吊るす物騒な人、一般人でただの絵師なんだけどね。

灰谷兄弟
おねえさんがコナンくんを片手で逆さまに吊るしたのはさすがに可哀想だったから止めた、止まらなかった。
ねえちゃんにはこういう豪奢なモンじゃなくて華奢なモンの方が似合うんだよなぁ。
今度ねーちゃんにオレらのピアス選んでもらお!
展示を楽しむ余裕はある。
怪盗キッドを見つけておねえさんのいるところへ追い込んだ、ねえちゃんなら吊るせるもんな!ねーちゃんさすが!!
そこら辺に落ちていた工具をぶん投げたのは蘭くん、パスしたのは竜胆くん、いくつになってもコンビネーションはばっちり。

江戸川コナン
キッドが来るんだって!いろいろ調べないと……とちょろちょろしてたら吊るされた。
人生で一番大泣きした。
キッドどころじゃない、毛利さんに泣きついていた。

怪盗キッド
参加を渋っていたおねえさんとその付き添いのふたりは完全にノーマークだった。
吊るされた。
まさか名探偵が泣きじゃくっているとは思わない、今日あいつ姿見ねえなーくらい。

 

無礼な人間は吊るすか締めるんだよってエビ固めを黒い服を着た誰かに決めたんだとか。

2023年8月4日