うるさくしてたらしばかれた上に放り出された灰谷兄弟+‪α

「私さァ……静かにしろっつったよな?」

「ハイ……」

「言ってました……」

「友達呼ぶのも女連れ込むのも勝手にしろとは言ったけど静かにしねえとどうするっつった?」

「怒るって言ってました……」

「スミマセンデシタ……」

「なんでうるさくしてんだよ聞いてねえのか」

「いっだ!」

「あだァ!」

今日はいい天気だなぁ、真夜中で夜空見えねえんだけど。
手に持ってた丸めた雑誌を正座したふたりの頭に思い切り振り下ろすと、ふたりが呼んだという男の子たちがびくっと肩を震わす。
別にいいんだよ、年相応に遊ぶのは。
ただ私寝るっつったよな?今何時かわかる?もう日付変わってんですよ?私明日早いっつったよな?聞いてたの?その派手な頭ン中には何が詰まってんの?脳みそ以外?
ぽこぽこと正座する蘭と竜胆の頭を交互に叩きながら聞けば、スミマセン、ゴメンナサイと何度も繰り返した。
まあ明るい時間に何人かうちに呼ぶことになったからいいかって聞いたのは褒めてやるわ。
聞かなかったら速攻で吊るしてた、タワマンの屋上から、ここ最上階だけど。
多分夜遅くまでいるから泊めてもいいかって聞いたのも褒めてやる、ちゃんと報告連絡相談できるようになったんだな。
夕方に来たのはふたりと同い年くらいの少年たち、刺青やら服装やら目付きやら、ふたりと同じなんだなと気づくのは早かった。
軽く挨拶をして、早々に食事を終えて私は部屋に引っ込んだ、早く寝るから静かにしてねと、優しく言って。
ああ言ったとも、明日は個展とは別のイベントに出てくれないかって依頼されてるからな。
用意に時間かかるだろうから早く出る予定なんだわ。
今日の私が朝まで絵を描く気分なら別にいいんだよ、その場合寝るのは明け方だから気になんねえし。
何度も言ったけど、私、明日早いから寝るっつったよな?

「ねえちゃんごめんなさい……」

「ねーちゃんもう静かにするから……」

「前から言ってるよね、口先ではなんとでも言えんだよ」

「あ、あの……灰谷のおねえさん……」

「あ?」

「スミマセン!……騒いだの、オレらもだし、そこら辺にしてやってもらっても、いっスか……?」

ガタイのいい男の子がおそるおそる私に声をかける。
他の男の子たちも首を縦に振り、どうかその辺で……とびくびくしながら私を見た。
……お友達に免じて今回はお開きにしてあげよう。
丸めていた雑誌をソファーに投げ捨て、次に騒いだらお友達と纏めて放り出すからなと言えば蘭と竜胆は何度も頷く。
さすがにもう繰り返さないだろ。
そう思って部屋へ引っ込んだ。

知ってる?これフラグって言うんだってよ。

「ねえちゃん!!ねえちゃんごめん!ごめんなさい!!開けて!」

「ほんとにもうしないから!静かにするから!!ごめんなさいぃぃぃ!!」

「すいませんっした!!さすがに寒いッス!凍死する!!」

「ほんっとすんません!タワマンのベランダ凍えるんで開けてください!!」

「うるせえなクソガキ共近所迷惑だろ」

あーいい仕事したわ。
まさかあの三十分後にまたうるさくなるとは思わねーよ。
声だけならまだしも、取っ組み合い始めてんじゃねーよクソガキ共。
取っ組み合いしていたのは蘭と竜胆、それからガタイのいい辮髪の男の子と顔に刺青入れた刈り上げの男の子。
褐色肌の男の子と傷のある男の子と金髪の男の子の三人は一応止めようとしていたらしいから免除してやった。
ちゃんと言ったろ、放り出すってよ。

「窓割ったらそこからバンジージャンプさせるからな、命綱なしで」

窓の鍵を閉め、さらに上の方にあるロックもかける。
カーテン閉めないだけまだ良心的だろ。
さて、と家の中に残った三人へ視線を向けると揃って肩を揺らした。

「君ら寝るなら片付けてから寝てね。ベランダは開けないで、私が時間見て開けに来んから」

「アッハイ」

「スミマセンデシタ」

「ゴメンナサイ」

明日移動の電車でなら寝れるかな。
少し散らかったものを拾い上げ、皿やらコップやらは台所にさっさと持っていって洗う。
その間もベランダからはぎゃあぎゃあと声が聞こえるけれど、台所から戻ってカーテンに手をかけるとピタリとその騒ぎ声は止んだ。
カーテンまで閉められたらまずいと思ってるらしい。
蘭は縋るような目で私を見るし、竜胆はもう半泣きだ。
いや知らんがな、騒いだのはそっちだろ。

「あの、本当にすみませんでした……あいつらからも静かにって言われていたんですけど」

「騒いでゴメンナサイ。つーかおねえさん容赦ねえな」

「あいつらも悪いけどオレたちも悪かったです」

残った三人が各々私に声をかける。
粗方片付いたところでソファーに腰かけ、大きく伸びをした。
座んなよ、と促せば何故か三人は私の前に正座する。
傷のある男の子と金髪の男の子は当たり前のように、褐色肌の男の子は傷のある男の子に促されて。

「君ら名前は?」

「黒川イザナ」

「武藤泰宏」

「鶴蝶です。あっちは望月莞爾と斑目獅音です」

「ふたりと仲良くしてくれてるのはありがとう。でも人様の家ではそれなりにしないとだめだろ」

説教するつもりじゃないけれど、今後もうちに来る機会があるならある程度節度は守ってほしい。
黒川くんと武藤くんは一度目を丸くして、それから小さくごめんなさいと口にする。
……まさかと思うけどさ、この子らみんな怒られたことないとかないよな?勘弁してくれそういうのは親にしてもらってくれ。
まあよそ様のところには口出さないよ。

「寝るなら蘭か竜胆の部屋で寝な。私しばらくこっちにいるから」

「おねえさん明日早いんだろ、部屋戻れば?」

「君らが寝たらな。クソガキ共が反省して、中に入れたら寝るよ」

ほら行った行った。
三人のうち鶴蝶くんはベランダを気にしつつも黒川くんと武藤くんとでリビングを後にした。
私はそれから台所でコーヒーを淹れ、ソファーで寛ぎながらたまにベランダを気にして過ごす。
大人しくなったクソガキ共は外が冷えるからか、でかい図体を寄せあって暖を取っていた。
どのくらいそのままにしてたかな。
ベランダから蚊の鳴くような「ねえちゃん……」と呼ぶ声に腰を上げて窓に近づく。
防犯のロックを外し、窓の鍵を開けた。

「で、言うことあんだろ」

「ごめんなさい」

「もうしません」

「すみませんでした」

「申し訳ありませんでした」

「謝んなら最初からすんじゃねえぞ次はねえからな」

深々と頭を下げた四人を中に入れ、改めて窓の鍵とカーテンを閉める。
望月くんと斑目くんは蘭と竜胆に促されてリビングを出て、残った蘭と竜胆は部屋に戻ろうとした私の寝間着の裾を掴んだ。
しゅん、とわかりやすく落ち込んでいる姿は怒られた子犬っぽい。
オマエらもさっさと寝ろよ、とリビングの灯りを消して部屋へ向かう最中も裾を掴んだまま。
何故かそのまま私の部屋に来た。
常夜灯を点けている私の部屋、おい向こう帰れ。

「ねーちゃん……」

「ごめんなさいねえちゃん」

「謝んなら最初からすんなって言ったろ。私寝るから帰って」

「……一緒に寝てもいい?」

「は?」

「ほら、あいつらオレらの部屋で寝てるから」

よくわかりませんね。
まあでもどうせ少ししか寝れないから別にいっか。
寝苦しかったら追い出すからなと釘を刺して私は敷いてある布団に潜り込む。
その左右から蘭と竜胆が横になり、すんすんと鼻を鳴らしてごめんなさいと繰り返した。
もういいって。
私もこんな真夜中に動いたのに疲れていたのか、そのまますぐ夢の中へ。
翌朝、私の上に乗っかってるふたりの重さに魘されるように目が覚めた。


親戚のおねえさん
騒ぐんじゃねえって言ったのに騒ぎやがって二度目はゆるさぬ、持っていた雑誌でふたりをしばいたし二回目は取っ組み合いしていた望月くんと斑目くんも纏めてしばいてベランダに放り出した。
一応放置して大丈夫なラインをわかってはいるので様子見て家の中に入れた。
翌日は灰谷兄弟と天竺メンバーに見送られながら寝不足のままイベントに向かった。
この後灰谷兄弟だけじゃなく他の年下たちもしばく対象になるとは思っていない。

灰谷兄弟
うちで幹部だけで集まればいんじゃね?と思っておねえさんに静かにすればいいよと言われて天竺メンバーを呼んだけど盛り上がって騒いでいたらしばかれたし二回目は取っ組み合い始めてそのままベランダに放り出された。
怒られた後におねえさんの服掴んで後をついて行くのは簀巻きにされた日から変わらない。
翌朝送ろうか?と声かけたけど荷物が大きかったから見送るだけになった。
オマエらのねーちゃんやべーなって言われたけどそれなとしか返せない。

天竺メンバー
灰谷家に来ていたのは王と下僕と幹部たち。
最初に灰谷兄弟がしばかれるのを見て大人しくしてたけど、取っ組み合いをした望月くんと斑目くんのふたりは容赦なく揃ってベランダに放り出された。
イザナくんと鶴蝶くんと武藤くんはやべえだろうなと思って止めていたけどおねえさんが出てくるのが早かった。
おっかねーな、と思ってるけどちょくちょく灰谷家で集まるようになる。

2023年7月28日