「なんでわざわざ危ねえことをやるのかわからない私に五文字で教えてくんねえかな」
「すみません」
「ごめんなさ……あ」
「教えろっつったのになんで謝んの?」
「待って待って絶対それ首やるやつ……いっでえええええええ!!」
「兄ちゃああん!!いっだああああああ!」
今日はいい天気だなぁ、いい天気過ぎて日に焼ける、焦げる。
絵を描きに外に出ていたけれど、この日差しはちょっと無理、さっさと帰ろうと思ったら見慣れたバイクとすれ違った、なんか見知ったふたりが乗ってた、なんか、ノーヘル二ケツだった。
二ケツはともかくノーヘル……?は?あいつら何してんの?
向こうも私に気づいたのか運転している竜胆と後ろに乗っている蘭は顔を青褪めたまま通り過ぎていった。
……は?
とまあ、そんなことがあったんだよ、二時間くらい前かな。
言い訳する暇は与えたけれど言い訳らしい言い訳出てこなかったのでとりあえずラリアットキメた、思ったより威力出なかった、自分の腕が痛いだけだった、多分。
オレ首ある?飛んでってねえ?なんてふたりがお互いの顔やら首やら触って確認する様子に溜め息を吐く。
二ケツはまだいい、問題はノーヘルだろ。
オマエら玄関に置いてあるヘルメットはなんなの?飾りなの?じゃあオマエらの頭も飾りなの?
言い訳を改めて聞くと「そんな気分でした」だと。
……もう一発やった方がいい?
「はい!モッチーも斑目もノーヘルしてました!」
「オレらだけラリアット食らうのは不公平です!」
「あいつらも今度うち来たらラリアットに決まってんだろ」
もはや兄弟で無事なやつをチクるような流れになってる。
今度は順番にヘッドロックした。
ノーヘルの現場見て私も青褪めたの知らねえだろ処す。
痛い痛いと喚く竜胆がふと動きを止めた。
なんだよ、落ちるほど威力ないけど。
「……ねーちゃん、太った?」
「……はい、処す」
「ぎゃあああああああ!!」
「馬鹿竜胆!思っても黙ってなきゃだめだろ!!」
「デリカシーを学べクソガキ共。蘭も追加」
「やだああああ!!」
オマエもそう思ったってことだろーが。
ギリギリと力を込めれば竜胆は一際大きな悲鳴を上げる、ついでに蘭もだ。
ギブ!ギブ!!と私の腕を叩く竜胆と、竜胆を助けようとする蘭を見ながらそんなに太ったかなと考える。
ここのところ食事作るのが億劫で外食多かったな。
昼もコンビニで買った弁当と、最近追い込まれているから甘いもんとエナジードリンクを買い込んだ覚えがある。
……間違いなくそれだな、うん、それしか覚えがない。
下着も服もちょっとキツくなってるし、やばいな、食べる量というよりカロリー考えて体重調整しないと。
「い、言い訳!!せめて言い訳のチャンス!」
「ヘッドロックしたままならどうぞ」
「いやああああああああ!!割れる!頭割れる!!」
「に、兄ちゃーん!!」
蘭にヘッドロックすれば竜胆のように私の腕を叩くし、竜胆も蘭を助けようと私の腕を叩く。
なんだかんだふたりとも手加減してんだよなあ。
しばらくして蘭を解放すれば、蘭は竜胆に泣きつくように抱きついた。
ひしっと抱き合うふたり、ほんとそういうところ変わらねえな、安心するくらい。
そんなふたりを横目に思わず自分の横っ腹を摘む。
……わかりやすい……か?
「別にマイナスな意味じゃねえからな!」
「そ、そうそう!ねえちゃんむしろ細かったからやっと普通になったっていうか……!」
「ちょっと胸でかくなって柔らかかった!」
「竜胆!!この馬鹿!」
「え?やり足りないって?」
「違います違いますぅ……!」
よっしゃ並べ、デリカシー叩き込んでやんよ。
追加でふたりの頭にできたたんこぶを眺めながら夕飯を食べる。
さすがにムカついたので今日は量があってもカロリーを気にしたメニューだ。
炊き込みご飯にこれでもかと人参や筍、椎茸入れたし、味噌汁は大根の葉っぱも使った。
切り干し大根が小鉢にしては山盛りに盛り付けられ、メインはササミのフライ、もうひとつ小鉢は山盛りのひじきの煮物。
デザートは冷蔵庫で冷やしているフルーツの盛り合わせ、取り寄せたプリンはお預け。
「……ねーちゃん」
「なに」
「オレの記憶に間違いなければ豚のしょうが焼きの仕込みを昨日してませんでしたか……」
「あとアジフライとカキフライもあったような気がします……」
「へー」
「……」
「……」
それは間違いないですね。
けれど今日はこれだから食うならこっち食ってからにしてくれ。
「オレしょうが焼き楽しみにしてた……」
「オレも……」
「明日以降ね、アジフライとカキフライだったらそれ全部食べてからなら出していいよ」
「マジで!?」
「食べる!!」
飴と鞭のつもりはないけれど今のふたりにはかなり飴に見えるらしい。
いやだって仕込んでたやつを楽しみにしてたとか言われたら折れたくもなるだろ。
私より量があるのにペロリと平らげたふたりは嬉々として台所に向かって冷蔵庫を開けた。
わいわいと電子レンジでそれを温めて、一緒にソースや醤油を持って食卓に戻ってくる。
「ねえちゃんは?」
「これでおなかいっぱいだからふたりで食べな」
「……いや、あの、ほんとねーちゃん太ったの気にしなくていいからな?」
「気にしてねえし」
「少し太った方がちょうどいいって」
「そっかデリカシーもっと叩き込む?」
「いただきます!」
「美味しいです!」
たんこぶの上にたんこぶ作りたいなら言えよ。
私も自分の分を食べ終えて台所に空の食器を下げて冷蔵庫からデザートのフルーツを取り出し、用意していたコーヒーを淹れた。
切り分けたりんごをフォークで口に運び、しゃくしゃくと咀嚼する。
ふたりとも美味しそうに食べるんだよな。
私からしたらそれを見ているだけでかなり十分、食べ盛りは違うな。
あっという間にアジフライもカキフライも食べ終えたふたりはフルーツに手を伸ばした。
「そういやさねえちゃん、今度あいつらうちに来るんだけど、新しいやつ連れてきてもいい?」
「ちゃんとねーちゃんに対する礼儀は教えとくからさ」
「今まで私にやらかしたことしなけりゃいいよ」
増えんの?マジで?クソガキが?
ぜってー何かやるじゃん、頼むからもう三十路直前の私に苦労かけさせんな……
クソガキ共がやらかした今までの内容を思い出す。
夜中に騒いだ、取っ組み合いしてた、未成年飲酒してた、ノーヘルしてた、あとあれだ、前に喧嘩に巻き込まれたんだわ、吊るしてやろうかと思ったけど私が殴られた時は私もう意識なかった。
そんなのが増えんの……?いっその事ジムとか行って鍛えようかな。
「せめて鶴蝶くらい礼儀正しいやつにしてくれ」
「うーん……」
「暴君にそんなのできんの……?」
決めた、ジム探そう。
親戚のおねえさん
ノーヘル二ケツの灰谷兄弟を目撃してラリアットキメた、その後太ったとか言われたのでヘッドロックした後にデリカシー物理で叩き込んだ。
この歳にしては細めだったけど、標準体型に近づきつつあるので悲観するようなことじゃないけど蘭くんと竜胆くんに言われてなんかムカついた。
恐竜みたいな名前の六波羅単代総代が来ることを前もって言われたけれど嫌な予感しかしない。
灰谷兄弟
ノーヘル二ケツを見られてラリアットされ、竜胆くんの迂闊な発言でさらにヘッドロックされてデリカシー叩き込まれた。
ヘッドロックされたりすると胸当たるよね、ねーちゃん最近胸でかくなって柔らかいんだよなあ……余計なこと言わなきゃラリアットだけで済んだ、戦犯は竜胆くん、でも蘭くんも胸柔らかいとは思ってた、言わなかったけど。
基本的におねえさんの作ったご飯は苦手なものあっても完食する、しなかったらねえちゃん残念そうな顔するから。
新しいチームの総代が来ることは伝えた、多分あいつに必要最低限の注意事項言っても多分やられんなあとか思ってる。