コーヒーぶちまけたら落とされそうになった灰谷兄弟+‪α

「ごめんなさいごめんなさい!!」

「すみませんすみません!!」

「これシャレにならねえんだけど!?」

「足下は!?足下あるか!?」

「はわわ……」

「お、おねえさんやめたげてくれ……」

「コーヒーブレイクが台無しじゃねえかそのまま落ちて埋められろいや私が落として埋める」

今日はいい天気だなぁ、傘いるかいらないくらいの小雨だけど。
両手で計四人を工事現場の穴に落ちるか落ちないかの位置を保っているけどそろそろ疲れたなー離そうかなーなんて手を動かそうとするよ四者四様の悲鳴が上がる。
ジムの帰り、蘭と竜胆が迎えに来るって言ってくれたから待ち合わせをしてた。
雨が降り始めたからコーヒー片手に傘差していたら知らないボーイッシュな女の子が近くの私のところに雨宿りさせてくれと駆け込んできた、それはいい。
女の子も待ち合わせしていて、同じ場所だから何かの縁と思って待ってた、それもいい。
女の子の待ち人たちと蘭と竜胆が同じタイミングでやってきた、まあそれもいいな、ただそこまでだ。
どうやら蘭と竜胆、女の子たちは敵対するチームらしくてみんな特攻服着てないのに睨み合いやらが始まって、女の子と私が止めるのも聞かずにここでやっちまうかと喧嘩しそうになったんだよ。
なんでそうなる?目が合ったらバトルすんのか?ポケットなモンスターたちに謝れ。
近くが水道管工事現場だから危ないし、女の子に声をかけて距離を取ろうとした時だ。
どっちかわかんねえけど私にぶつかって持ってたコーヒーを私が被った、ただでさえ汗でベタベタなのにさらにコーヒー被るってなんだ、ちょっとした休憩だったんだぞ。
コーヒーがスマンやでと謝っても悪くなくても私が許さん、そのまま落として埋めてやんよ。
蘭と竜胆が落ちないようにバランスを取り、もう二人……黒髪に金髪のメッシュを入れたオールバックと細身でポニーテールのやつはバタバタと抵抗する。
女の子とガタイのいいやつは恐る恐る私に声をかけるけど、据わった目で見ればナンデモナイデス!と姿勢を正した。
ちなみに私の傘は女の子に渡した、両手空いてないとこいつら落とせない。

「ねえちゃん落ちる!落ちるってえええ!!」

「やめてやめて怖いからああ!!」

「当たると思わなかったんだ!オレら無実!!」

「オレ浮いてる!浮いてるんだけど!!」

「知ってる?オマエら落ちても私がコーヒーぶちまけられて被った事実は消えねえんだよよ無実なわけねーだろ常識的に考えて」

「た、武臣ー!」

「ワカー!!」

なんか小学校の組み体操で似たような体勢があったような気もするけど落とすから関係ねえか。
本気でやりかねないと思ったのか、女の子とガタイのいいやつが必死に止めたので舌打ちをしながら四人を穴から引き上げるように横に放った。
それぞれひしっと抱き合って泣きそうな顔で私を見上げる。

「ねーちゃんごめんなさい!」

「次は気をつけます!!」

「ふたりともその言葉私に何回言ったか覚えてんの?」

「ぴえ……」

「ぴい……」

なんか鳥の雛みたいな弱々しい鳴き声が聞こえた。
スポーツウェアは見事にコーヒーまみれ、新しい柄みたいになってる。
汗臭いのとコーヒー臭いのが混ざってなんとも酷い状態だ、やっぱり落とさねえと割に合わねえよな?ウンソウダヨ!とコーヒーが言った気がするのでどうしてやろうかな。
考えている最中に思わず空になった紙のカップを握り潰せば抱き合ったままの四人がひいと悲鳴を上げた。
まあ女の子とガタイのいいやつに止められたのでそれ以上は叶わなかったけど。

 

「本っ当に申し訳ない」

「ゴメンナサイ」

「オマエらが頭下げてもコーヒー返ってこないし私の惨状も変わらねえんだけど」

「お、おねえさん……その、ごめん。ジブンの身内がとんでもないことを……」

「すまん、クリーニング代出させてくれ……」

蘭と竜胆が私に抱きついてめちゃくそ重いだっこちゃん人形になってるのをそのままに他の四人を見る。
黒髪に金髪メッシュは明司武臣、細身ポニーテールは今牛若狭、ガタイのいいやつは荒師慶三、女の子は瓦城千咒と名乗った。
なんでも梵というチームの首領とそのNo.2と大幹部らしい。
蘭と竜胆がいる六破羅単代とは他のチームを入れて三天と呼ばれる三大勢力だとか。
……いやそんなん関係ねえからな?私のコーヒーを私にぶちまけた罪は重いからな?
荒師のクリーニング代の申し出は断った、ちゃんと漂白すれば洗濯で落ちるし。
それに瓦城は私と待ち人待ってただけなのでほぼ無関係、謝る必要はない。
そのままはまずいと思った蘭と竜胆が私にそれぞれの上着を肩にかけたけどコーヒー臭移っても文句言うなよ。

「ねーちゃん、そいつらもう放って帰ろーぜ」

「そうそう、帰ったらオレが美味しいコーヒー淹れるから」

「そのコーヒー台無しにした一端は?」

「オレらです」

「すみませんでした」

ごめんって!ねえちゃんに当たると思わなかったの!なんて駄々を捏ねるように謝るふたりに思わず溜め息を吐いた。
まあでも蘭と竜胆が淹れてくれるコーヒーが美味しいのは本当だし、さっさと風呂入ってすっきりしたい。

「なあ、あんた噂の灰谷のねえちゃんだろ」

「何が噂になってんだか」

「絡んできた不良吊るしたとか、灰谷兄弟を躾てるとか」

明司が愉快なモン見れたなあと笑っているけどオマエもその愉快なモンに入ったこと忘れんなよ。
つーか前者は事実だけどふたりを躾けた覚えはない、ただ私が怒ることやってんからその都度やることやってるだけだが?
まじまじと今牛と瓦城が私を見る。
似てないなって言われたけど従姉だからな、実の姉ではない、名字だって違うし。
まあ面影は少しあるかもしんない、従姉だし。

「今日は本当に悪かった、千咒も雨宿りさせてもらったってのに」

「あ、おねえさんこの傘……」

「あーいい、瓦城が持ってきな。高いモンでも思い入れがあるモンでもねえし」

「オレらねえちゃんから傘もらったことねえんだけど」

「オレらも傘欲しい」

「いらねーだろ自分で買ってこい」

こいつだけずるい!オレも!オレらも傘欲しい!
よくわからんことで喚き始めたのでふたりの両頬を鷲掴めば「しゅみましぇんでした」と蘭と竜胆は速攻で謝った。
そんなふたりと私のやり取りを見てまた明司が笑う。
今牛も荒師もきょとんとしてるのに。
見せモンじゃねえぞと言えば四人は揃ってすみませんと首を横に振った。

「帰る。風呂入りたい」

「はい!ねえちゃん!」

「おう!帰ろねーちゃん!」

「おねえさん、傘ありがとう」

頭を下げる瓦城に軽く手を振れば、武臣や今牛、荒師も軽く手を振る。
ねーちゃんに気安く手ェ振ってんじゃねえよと凄み始めた竜胆の脛を軽く蹴り、ふたりの腕を引いて帰路に着いた。
ジムに行っただけなのになあ、なんでコーヒーぶちまけられなきゃならんかったのか。
少し強くなった雨足に溜め息を吐いて、少し駆け足で家路を急いだ。


親戚のおねえさん
千咒ちゃんと雨宿りしてたら蘭くんと竜胆くん、武臣さんとワカくんが喧嘩始めそうになって誰かの手が当たってコーヒーぶちまけられたので四人を工事現場に落としてやろうとした。
千咒ちゃんと止めようとしたベンケイくんは無罪、残りの四人は落とす、絶対にだ。
コーヒーぶちまけられたスポーツウェアはちゃんと綺麗になりました。
というかそろそろ不良ホイホイになりつつあるので自覚した方がいい、しないと思うけど。

灰谷兄弟
おねえさん迎えに行ったら梵のやつらがいたからここでやってやろうかと思ったらコーヒーぶちまけて落とされそうになった。
バランス取るのはコンビネーションばっちりなふたりには朝飯前、でも多分落とされる時は落とされる。
ねえちゃんごめんねって蘭くんがコーヒー淹れて竜胆くんはお高いチョコを用意した。
多分おねえさんに躾られている、おねえさんが怒ることはなるべくしないように、無意味かもだけど。

梵の皆様
武臣さんとワカくんが落とされそうになったし千咒ちゃんとベンケイくんは頑張って止めた。
千咒ちゃんはおねえさんの折りたたみ傘をもらった。
ベンケイくんはクリーニング代出そうとしたけど断られた。
武臣さんとワカくんは今度会ったらコーヒー奢ってくれる、尚ふたりとも愉快なモンの仲間入り。
なにあのおねえさん怖いんだけど。
ちなみに「はわわ」はベンケイくん。

ぶちまけられたコーヒー
スマンやで。

Q.そう言えばなんでおねえさんキックボクシング始めたの?
A.灰谷兄弟に太ったって言われたから体引き締めるため、あと年下を吊るす機会が増えそうなので体力づくりのために。決して天下取るつもりはありません。おねえさんは普通の絵師さんです。

2023年7月28日