「集合!」
「なんだよオマエら珍しいな」
「そんなに慌ててどうした」
「ねーちゃんに男ができたかもしんねえから潰すぞ!!」
「はい解散」
「お疲れっしたー」
「集!合!!」
「解散許さねえからな!」
オレらには一大事なんだよ解散すんな!
最近ねえちゃんの様子がおかしい。
ぼーっとすることが増えた、飯作る時にミスることが増えた、出かける頻度が増えた、余所行きの化粧をして服を着るようになった、個展やイベントもねえのにひたすら絵を描く、やけに色が偏っている、などなど。
極めつけは、まるで恋しているような顔をしていること。
は?ねえちゃん男できた?いやでもねえちゃんだぞ?え?ほんとに?男?……ねえちゃんに、男!?
無理無理無理無理解釈違い過ぎて無理!
ねえちゃんが花も綻ぶように笑うとか、絶対ない!
笑っても鼻で笑うか少し口角上げるだけなのがねえちゃんだぞ。
ハグしたりちゅーしたりいちゃいちゃもない。
動きやすいラフな格好じゃなくて可愛らしいワンピース着るとかも解釈違いにも程がある。
ねえちゃんの口から好きとか愛してるとかも無理!それはオレらも言われてねえから!!言われててもオレらだけのねえちゃんだから!
なので男だったら殺します潰します。
一大事だから極悪の世代集合。
そう言えばモッチーと斑目は呆れたように溜め息を吐いた。
「姐さんに男ができたのが事実でもそうでなくても確実に吊るされる未来しか見えねえよ」
「別にいーだろ、姐さんも女なんだからよォ」
「よくねえ!オマエらだってわかんだろ!?」
「ねえちゃんがオレと竜胆と絵以外を見るのは!解釈違い!!」
「ひでえ解釈」
「自分の行動が解釈違いって言われる姐さん可哀想」
まず姐さんが男と笑っている姿が思いつかねえよ、なんて溜め息と共に斑目が言う。
それはそうだけど実際にいつもと様子がおかしいんだよ!
伯父さんにこっそりねえちゃんの男のタイプとかオレらと同居するまでに彼氏いたのか聞いてみたけど伯父さん爆笑するだけで話にならなかった。
じゃあ惚れたものがあったんだろうなって言われた時のオレと竜胆の気持ちがわかるのかオマエら……!
最近やけに不良ホイホイになってるねえちゃんだぞ、先週絵を描いてたら明司に遭遇して連絡先押し付けられたって言ってたねえちゃんだぞ、知らないところでオレらと似たようなやつらを引っかけるねえちゃんだぞ。
とりあえず連絡先渡した明司潰す、ねえちゃんは明司なんて眼中にないだろうけど潰す、オレらの知らねえところで連絡先渡すな。
久しぶりに腕が鳴る、なんて竜胆が念入りにストレッチを始めた、オレも警棒が火を吹くぞ。
「なんで明司」
「この前姐さんに落とされそうになったのに」
「物理的にな、ワカもいたんだろ」
今日はねえちゃん池袋に出かけるって言ってどっかに行ってるからな、ねえちゃん探すところからか。
……池袋って、梵の拠点近くね?新宿の隣じゃん。
よし、やっぱり明司潰そう。
「ほら行くぞ!」
「ちゃんとヘルメットしろよ!またラリアットされんから!」
「……え、オレらも行くの?オレら関係なくねモッチー」
「斑目、こいつら止めねえと連帯責任で姐さんに吊るされんぞ」
「どの道被害がオレらに降りかかる件について」
「それな」
いそいそとヘルメット被ってバイクのキーを手にし、これから抗争始まる気分で乗り込んだ。
「姉貴分の解釈違いでオレのところに乗り込んでくるオマエらの行動力どうなってんだよ」
明司を見つけるのは思ったよりも早かった。
兄ちゃんが運転してたバイクから飛び降りて逃がさないように掴みかかる。
逃がすなよ!と声をかけられたけど当たり前だ。
オレと兄ちゃんがこいつに的を絞った理由はねーちゃんに連絡先渡しただけじゃない。
そもそもこいつとねーちゃん年近いんだよ!
ねーちゃんの普段の様子を見れば年下なんて眼中にない、不良だってほとんどねーちゃんより年下だからもっとない。
でもねーちゃんだって大人の女だ。
もしかしたらがあるかもしれねえ。
それにこいつねーちゃんと年が近いしあん時もなんか馴れ馴れしかった、オレらにはそう見えた。
ねーちゃんに男はいらねえ、オレらだけがいればいい。
そういう関係になりたいわけじゃねえ、そういう関係になろうしてるやつ、なるやつは潰す。
「ねーちゃんに連絡先渡しやがって……ねーちゃん忙しいんだけど」
「オマエらの相手してるから忙しいんだろ。姉貴分の恋沙汰に横入りしてやんな、蹴られんぞ」
「もうそのままやっちまえ竜胆!」
「兄貴に言われなくても……!」
「待った待った!!」
「ここで始めんな!」
バイクを停めて降りてきたモッチーがオレを明司から引き剥がす。
ちなみに警棒で殴りかかろうとした兄ちゃんは斑目に止められた、オマエら離せよこいつ殺せない!
明司は咥えていた煙草を持っていた携帯灰皿に押し付けると懐からケータイを取り出す。
何か操作するとモッチーと斑目にオレらを押さえておくように言ってどこかに電話をかけた。
「あ、もしもし?オレオレ、今暇か?……切りやがった」
オレオレ詐欺かよ、びっくりだわ。
ツーツー、と電話を切られた音がするケータイを見つめ、明司は大きく溜め息を吐く。
……もしかしてだけど今オレらの前でねーちゃんに電話した?
明司は次の煙草を咥え、火をつけると一言。
「オマエらの姉貴、今暇じゃねえってよ」
「何電話してんだ潰す!」
「ねえちゃんに話しかけんな!」
「なんでオマエは火に油を注ぐんだよ!」
「痛い痛い!暴れんな!!」
もーゆるさねえ!!
モッチーの腕から抜け出そうともがくけど、オレより体格のいいモッチーからはなかなか抜け出せない。
兄ちゃんも斑目の腕から抜け出そうと警棒振り回しているけれど斑目が意地でも離さねえから抜け出せない。
明司はどうしたもんかと頭を悩ませていた、おいオマエは悩まねえでオレらに潰されればいいんだよ!
すると、明司のケータイが鳴る。
明司はケータイに視線を落とすと目を丸くしてそのままその電話に出た。
「あー悪いな、オレだよ。……あん?詐欺じゃねえよ、明司だ明司。オマエんとこの弟たちがなんかオレんとこに乗り込んで来たんだけどなんか知らねえか?……お、おう……オマエ絡みのことらしいから……うん新宿……手加減くらいしてやってくれ……」
みるみる顔を青くさせた明司は電話を切ってオレらを見る。
ねーちゃんかな。
「オマエらの姉貴分、今からここ来るってよ」
今日はいい天気だなぁ、干してた布団で寝たらきっと心地いいだろうな。
なんで出かけてんのにこうなるんだ、蘭と竜胆には首輪かなんかつけた方がいいの?やだよそんな面倒なの。
出先で楽しんでたら明司から電話が来た。
一度は室内だったからすぐ切ったんだけど、外へ移動して改めてこちらから電話をする。
なんでも蘭と竜胆が明司のところに乗り込んで来たとか。
なんで?
別に見えないところで喧嘩すんのは構わねえんだけどなんで私のところに連絡寄越した?
まだ楽しく回りたかったのになあ、名残惜しく明司に指定されたところへ急いだ。
三十分もかかってないと思う、電車なのに急ぐってどういうことだどこに出かけるかは言っただろうが。
「……で?何事?」
「ねえちゃん!!」
「ねーちゃん!!」
駆けつけたら蘭と竜胆の首根っこを望月が掴んでいて、それを呆れたように見ている明司の前に斑目が立っていた。
何事かと人集りができていて場所の特定はしやすかったけど、オマエらこの往来で何してんの?
私の姿を見ると蘭と竜胆がこちらへ走ってきて、竜胆は私にタックルを決める勢いで抱きついてきたし蘭は私の顔やら体やらぺたぺたと触る。
やっと来た、と言わんばかりに望月と斑目、明司は大きく息を吐いた。
「オマエこいつら躾てんならもっとなんとかしてくれ」
「は?」
「すんません姐さん……止めたんス」
「止まらなかったんス」
やけに私にくっつきたがるふたりを適当にあしらいつつ、聞いた話はこう。
いつもと様子のおかしい私に男ができたんじゃないかと思ったふたりが暴走した。
とりあえず連絡先渡した明司を潰すってんで私を探すついでに明司のところに乗り込んだと……うん……何してんだオマエら。
「だってねえちゃんおかしかったから!」
「今日だってめかしこんでんじゃん!」
「別に男はいねえし」
「オレ立候補するか?今フリーだぞ」
「明司黙ってて話拗れんだろ」
「ハイスミマセン」
恋する乙女の顔してたって言われてもなー。
オレらだけでいーじゃん!と私を揺さぶるふたりを大人しくさせるために一言。
「絵師さんの絵に恋したのは確かだけど」
「……」
「……」
「……え?」
「……エ?」
「絵。凄く綺麗な絵でさ、その人海を題材にたくさん描いていて、私も描いてみたいと思って参考にしようと池袋の水族館に行った」
私は空を題材に描いているからそれなりに青の画材も多いけど、海とはまた違った色だからここのところ青の画材をたくさん買い込んではいた。
思うように色を出せないから同じ色もたくさん。
水族館は都心にいる私に身近な海だから最近よく出かけていたし、人の少ない時間帯にはスケッチブック片手に描きながら回ってたな。
めかしこんでるって言うけど、そりゃあ人も多いしいつものラフな格好は場違いになるだろ、服を変えたらメイクが変わるもんだしな。
ご飯作る時にミスるのはどんな色で塗ろうか考え過ぎていたのもあるし。
そう説明すれば、蘭と竜胆はへなへなと座り込み、他の三人は大きく溜め息を吐いた。
「紛らわしいんスよ姐さん!」
「解釈違いとか言ってるこいつら止めるの大変なんスよ!」
「男の影もねえのに掴みかかられたオレの立場……」
「知らんわ」
私のせいではないだろ。
座り込んだ蘭と竜胆はよかった……と心底安心しましたと言わんばかりに私の手を握る。
別に男をつくるつもりねえのに、面倒見んのはふたりで十分。
「オマエほんっとそいつらの手綱握っとけよ、オマエ絡みで抗争とか嫌だぞオレは」
「私も嫌に決まってんだろ、見えねえとこでやれ」
さて、解決もしたし帰ろうかな。
明司と望月、斑目には悪いねと声をかけ、座り込んだままの蘭と竜胆を立たせる。
ただし、頬を摘み上げてだ。
「いだだだだだだ!!」
「ちぎれる!ほっぺちぎれちゃう!!」
「よかったな、抗争になんなくて」
「オレのほっぺ食べれねえから!」
「国民的なアンパンヒーローになっちゃう!」
「帰って来る時はちゃんとヘルメットして乗ってこいよー」
「わかった!わかりました!!」
「静かに安全に帰ります!!」
私を理由に抗争始めたら簀巻きにして山手線の線路に放置してやる。
じゃあ帰るわ、とふたりの頬から手を離して駅へ足を向けた。
水族館のお土産は帰ってきたら開けてやろう。
親戚のおねえさん
惚れたのは海の絵、描いてみようと思って水族館に通いつめてた。
自分を理由に抗争なんぞ始めたら片っ端から山手線の線路に並べてってやる。
灰谷兄弟
おねえさんの様子がおかしい!!と思って暴走してた。
恋する乙女の顔をするねえちゃんは解釈違いです!!ぜっっってーない!それはオレらだけにして!!
恋した相手は無機物の絵で安心した。
けれど仮にも梵のNo.2に掴みかかるもんだからそれで抗争始めたら怒られる、実際にほっぺ摘み上げられた。
アンパンでもないしヒーローでもない。
巻き込まれた人たち
モッチーと斑目くんがストッパーしてたけど無理だった、でも抗争止めたから誇っていい。
別になあ、姐さんも女だから男いるくらいいいよなあ。
今回は武臣さんが的になってたからその発言は見逃してもらったところある。
武臣さんは本当に巻き込まれただけ。
連絡先は千咒ちゃんがお礼言いたいから渡しただけ、立候補も茶化しただけ。
けれどおねえさんと年近いからってやけに警戒されてる、未来でもそう。