もしも明司武臣とそういう関係になっていたら③

「ねえちゃん調子どお?」

「安定期に入ったから大分調子もいいよ」

「ねーちゃん、これ九井とモッチーからプレゼントだって」

「……望月は大丈夫だと思うけど九井のは特に中身確認して」

「おー……うっわ、なんかとんでもねえ額の小切手入ってんだけど……」

「九井マジじゃん……モッチーのは可愛いベビー服だけど」

「やけに小さいし薄いと思えば……突っ返して平気……?」

「貰っとけば?多分これ、ねーちゃんが絵を描けない時あるからその手当て分も込みだと思う……ほらメッセージカード入ってんもん」

今日はいい天気だなぁ、ちょっと月に雲かかっているけど。
武臣が帰りが遅いってんで蘭と竜胆が仕事帰りに私の様子を見に来てくれた、たくさんの可愛らしい包装をされたプレゼントを持って。
安定期に入ったとはいえ、オマエらプレゼントの量えぐいな?
九井は回数少ないけれど中身がえぐい、そんな桁がおかしい小切手貰ってどうしろと……?
竜胆に渡されたメッセージカードには産休手当だから受け取ってくれと書かれている。
そんなこと言われたら受け取らざるを得ない。
一度武臣にも確認してもらおう……大分梵天に私も染まってきたとはいえ、金銭感覚は染まりたくない、後がこえーもん。
望月からは男の子でも女の子でも使えるベビー服の詰め合わせだった。
サイズも大きめだから長く使えそう、いかつい顔してなかなかセンスがいいな。
蘭と竜胆からはよく私が好きなお菓子の詰め合わせを貰う、今コーヒー控えているから一緒にコーヒーブレイクできないのはちょっと残念。
三途や佐野からはリラックスグッズ、鶴蝶からは可愛らしいおもちゃをよくプレゼントされる。
面白いのが私やお腹の子どもへのプレゼントはあるけど明司へのプレゼントがほとんどねえことかな、たまに事務所でココアシガレットやら禁煙グッズ貰ってるらしい、なんか笑える、別に私の前で吸うのは遠慮してくれればいいだけで事務所では吸っていいのに。
まあ、生まれるまでは頑張って禁煙するって言ってるし、たまにどうしても我慢できない時は私に抱きついてお腹に顔埋めて思い切り息吸ってる、猫吸いならぬ妊婦吸い、真面目な顔してやるからちょっと引いた、悲しいことに慣れた。
一通り梵天幹部陣からのプレゼントを開けると、蘭と竜胆の手によってリビングのプレゼントの山になっているところに運ばれる。
……芸能人のプレゼントか、めちゃくちゃ量やばいわ。
あいつらやべーな、と蘭が笑うけど笑えてねえよ、唇引き攣ってんもん。
竜胆はあからさまにドン引きしていた、わかる。

「まだ男か女かわかんねーの?」

「うん、少し動いてるのはわかんだけどね」

「ねえちゃん触っていい?」

「いいよ」

まだ子猫くらいの大きさだったかな、それでも少しだけ動いてるのがわかるから人間って不思議だ。
ソファーに腰かけている私の両隣に座った蘭と竜胆が恐る恐る私のお腹に手を乗せる。
そんなにビビらなくても平気なのにな。

「オレ妊婦の腹触ったの初めて」

「オレも。ねーちゃんよく撫でてるよな」

「なんか自然とね」

「悪阻ひでえからその時ねえちゃん死んじまうんじゃねえかなって思ってたけど」

「今マシだけどめちゃくちゃ飯食えなかったもんな。ちゃんと食えてる?」

ちゃんと食えてるしもう悪阻は落ち着いたよ。
武臣も私の悪阻の酷さに慌ててはいたけれど、武臣以上に蘭と竜胆がパニックになるもんだから一周回って落ち着いてたな。
自分より慌てている人間見ると冷静になるやつ。
当事者の私は全く慌てなかったけど。
まあ絵を描くどころじゃなかったな、あまり座りっぱなしもよくねえっていうから通っているジムでエクササイズみたいなものはやってた。
今でもだけど、蘭と竜胆を始めとした問題児たちは比較的騒ぎを起こさないようにしていたし、そんなに暴れてはいなかった……はず、多分。
夜も更けて、スマートフォンに武臣からもう帰ると連絡が入る。
蘭と竜胆はそろそろ帰るわー、と帰っていった。

「……ちょっとだけ寝てようかな」

まだ寝る時間じゃないし、武臣を出迎えてやりたいし。
体を冷やさないようにブランケットをかけて少しだけソファーに横になる。
きっと武臣は増えたプレゼントの山に溜め息吐いてあいつら限度知らねえんだな、なんて笑うんだろう。

 

帰ると名前がソファーで眠っていた。
土産のケーキは冷蔵庫に入れ、コートやらスーツやらを脱いで部屋着になってからリビングに戻る。
……なんかリビングのプレゼントの山でかくなってねえか?
ローテーブルに置かれているのはありえないくらい桁違いの小切手と九井からのメッセージカード。
いや、オレら何も名前だけの稼ぎで成り立ってるわけじゃねえんだけど……産休手当だとか書かれているけどオレオマエと同じ職場。
加減知らねえのか。
大きく溜め息を吐いて、それからすうすうと寝息を立てている名前に声をかけた。

「名前、寝んならベッド行こう」

「ん……あ、おかえり武臣」

「おう、ただいま」

寝ぼけ眼の名前の頬に唇を落とせば名前は擽ったそうに笑う。
付き合って、結婚して、大分表情豊かな名前を見れるようになったなと感じる。
意外とよく笑うんだ、いつもの無表情というか鉄仮面どこ行ったと思うくらいには。
その度にあの弟たちには羨ましいだのなんだの言われちゃいたが、うるせえオレの特権だっての。
体を起こした名前の隣に腰かけて腰に腕を回して少し目立ってきた腹をそっと撫でた。
外からはわかりにくいが動くことも増えたんだと。
もう少ししたらもっと動くしわかるよ、と穏やかな表情をしていた名前はとっくに母親の顔をしていた。

「蘭と竜胆がまたプレゼント届けに来てくれてた」

「見た、あいつらほんと限度知らねえんだな。九井のこの小切手はやべーだろ」

「やっぱりそうだよなあ……突っ返すのもな……」

「あー……落ち着いたら欲しかったモン買えばいいさ、それ元手に旅行行くのもいいだろうし」

「まだ少し先になると思うけど?」

「ガキ生まれて大きくなったらな、ありがたく資金にさせてもらえばいい」

梵天の相談役に落ちつくまではよくあちこちに旅行行ってたからな。
名前はよく絵を描きに旅行していたのか、険しい山道が歩いている時オレがひいひい息上げてるのにケロッとした顔でオレを心配していたし。
地方の都市部よりも穏やかな、けれど力強い自然の溢れる場所を好む。
絵を描いていい?と名字がスケッチブックを持って鉛筆で描き込むのを見るのが旅行の時の一番の楽しみだ。
真剣な、でも楽しそうにキラキラとした目で真っ白なスケッチブックを鉛筆で埋めていく名前は本当に輝いている。
それはもちろん今も、座りっぱなしはよくねえからって回数は減ったけど、自分の作業部屋で相変わらずキラキラした目で絵を描いていた。

「ケーキ買ってきた。どうする?今食う?」

「明日の昼間にしたいな、明日武臣休みでしょ」

そうそう、名前が妊娠してからは少し休みが増えたし取りやすくなった。
主に灰谷兄弟からの希望で。
ねえちゃんといる時間増やせよ、まあ武臣が休まねえんならオレらがねーちゃんと一緒にいるけど。
そう言われたら断れるわけがねえ。
旦那より弟たちが嫁と一緒にいるってなんなんだ、ちゃっかり春千夜も加わろうとするなオマエは休みが欲しいだけなの知ってんだよその足で新しい薬探しに行ってんの知ってんだぞヤク中キメた状態で名前には会わせねえからな。

「武臣風呂入れば?先にベッドにいるよ」

「そうするわ、待たねえで寝てろよ」

「多分寝る、さすがにそろそろ眠い」

ふわ、と欠伸をした名前を寝室まで送ってオレは風呂へ。
さっさと体を清めて風呂から上がり、髪を乾かして寝室に行けば名前は丸くなるようにして眠っていた。
定位置として違和感を覚えなくなったところへ潜り込み、穏やかに眠る名前の頬を撫でる。

「……おやすみ、名前」

どうせ夢を見るなら穏やかなモンがいいな。
男でも女でも、オレと名前に似た子どもがオレらの手を引いているような、そんな夢。
オレも名前も完全に穏やかな立場ではなくても、普通の親子みてえな夢は見てもいいだろ。
温い名前を抱きしめるように腕を回し、目を閉じればあっという間に眠ることができた。
きっと穏やかな夢を見ても朝には忘れてしまっているかもしんねえけど。


灰谷兄弟の親戚のおねえさん
明司名前。明司武臣の奥さんで新米ママ。
妊娠わかってからは周りの問題児たちが大人しくなったのであまり怒ってはいない、たまにあっても言葉で黙らせる、物理的な力以外にも強くなったかもしれない。
たくさんのプレゼントの山は嬉しいけど内容も量もちょっともう、お腹いっぱいかな。
穏やかに武臣さんと過ごしている、この先もきっと穏やか。

明司武臣
明司名前の旦那さんで新米パパ。
おねえさんが妊娠してからお休み増えたし取りやすくなった、ありがたい。
少しでもおねえさんが体調崩せば慌てる人、けれど自分以上に灰谷兄弟が慌てるもんだから一周回って冷静になる人。
プレゼントの山おかしくね?
禁煙頑張っている、けれどたまに無性に吸いたくなるのでおねえさんのお腹に顔埋めて吸う、猫吸いならぬおねえさん吸い。
最近ココアシガレットの量増えた。

灰谷兄弟
おねえさんのところに梵天の皆さんからのプレゼントを届けに来た。
オレらもたくさんプレゼントしてるけどあいつらおかしいよな、内容も量も。
蘭くんと竜胆くんはおねえさんの好みわかっているしなるべく食べてなくなるものを選んでいる。
初めておねえさんのお腹触った、なんか感動した。

2023年7月29日