「チビ!おいで!オレんとこ!!」
「チビちゃんこっちこっち!!」
「……何してんの?」
「チビが蘭と竜胆どっちんとこに行くのか争ってんの。おかえり名前、イベント楽しかったか?」
「うん、久しぶりに楽しかったよ。任せっきりになってごめんねイザナ」
「チビ、ママ帰ってきたぞー」
「まぁま!!」
今日はいい天気だなぁ、夕焼け綺麗。
家に帰ると蘭と竜胆が来ていた。
それから何故か息子にこっち!と呼びかけている姿に首を傾げる。
指を咥えて蘭と竜胆を見ていた息子だけど、私が帰ってきたことに気づくと覚束無い足取りで私のところにやって来ては足にしがみついた。
笑顔でこちらに手を伸ばす息子を抱っこすれば、蘭と竜胆はめちゃくちゃ残念そうに項垂れる。
持っていた鞄や荷物はイザナが受け取ってくれ、それをリビングのソファーの横に置いた。
イザナと籍入れて、息子が生まれてどのくらい経つかな、二年くらい?
家も出てイザナと暮らし始めたし、イザナも独立してバイクショップを経営している。
家は渋谷、イザナが佐野家に比較的近い方がいいんじゃねえかって。
イザナのバイクショップも家から近いし、六本木じゃなくても蘭と竜胆は週末によく遊びに来てくれる。
息子は保育園通っているけれど、週末はこうして蘭と竜胆に遊んでもらって……いや、蘭と竜胆で遊んでが正しいか、のびのびと育っていて安心するわ。
私も家で絵を描いて個展やイベントに持っていっては購入してもらえるし、それなりに安定した生活は送れている。
そうそう、万次郎は佐野家に無事に戻ったし、今では龍宮寺と一緒にバイクショップで楽しそうにしているんだよ。
蘭と竜胆も、イザナとならって一緒にバイクショップで働いている、いつかは提携したバイクショップを六本木に開く予定だとか。
元天竺メンバーもそれぞれの生活を送っているってさ。
よくうちに来る、大体息子のアスレチック遊具になってんけど。
「やっぱチビはママが好きかぁ」
「チビちゃん、蘭ちゃんって呼んでみ?」
「らぁちゃ?」
「うわ可愛いが天元突破した」
「オレも!竜ちゃんって!」
「りーちゃ!」
「やべえ可愛い日本最強だわ」
「ほらご飯の支度するからパパとおじさんたちと遊んどいで」
抱っこしていた息子をイザナに受け渡し、上着を脱いで台所へ。
みんなよく食うからなあ、何にしよ。
息子にキャッキャと遊ぶ声を聞きながら冷蔵庫を開けた。
そこにイザナがやってくる。
「オレも手伝う」
「何食べる?」
「肉がいいな、この前でかいパックで買ってたろ」
「生姜焼きにでもしようか」
台所に置いてあるエプロンを身につけ、冷蔵庫から肉を取り出した。
イザナはコンロにフライパンを置いたり、ボウルを取り出していつもの調味料を慣れたように入れる。
なんかリビングから蘭の叫び声聞こえたけど気にしないでおこ、どうせ髪の毛引っ張られているんだろうし。
夕飯も終え、それぞれ風呂も終えてのんびりとリビングで過ごす。
いつの間にか息子は蘭と竜胆に挟まれるような形で眠っていた、もちろん蘭と竜胆も。
大きめの毛布をかけてやり、イザナとソファーで並んで座って適当にテレビを眺めていた。
蘭と竜胆は泊まるって、ちゃっかりうちに寝間着置いてるし本当にオマエらお泊まり会好きだな。
「なんかでけー息子が追加でふたりいるみてえだな」
「やだよふたりは産んだ覚えねえもん」
「……名前は、二人目とかどう?」
肩に腕を回したイザナが至近距離で私の目を見つめる。
綺麗な目に私が映っていて、なんだか不思議だ。
二人目ねえ……
「いいと思うよ。賑やかできっと楽しいし、イザナは家族に憧れているってのもわかってるからさ」
「……うん、ほんとそういうとこ好きだ」
「私も好きだよ、イザナのこと」
好きっていうか愛してるけれどさ。
唇の横にキスをすれば、顔を赤くしたイザナが誤魔化すようにコーヒーの入ったマグカップを口にした。
イザナの境遇をイザナの口からも聞いたし、なんなら万次郎とエマに見せてもらった真一郎さんの遺品にあった手紙も少し読ませてもらったんだわ。
一時は血の繋がりがないなんて孤独だ、とか言っていたけど少し変わったと思う。
それでも家族が、血の繋がった家族が欲しいと思うのは無意識なんだろうな。
別に子どもがいてもいなくても、もう私たちは家族なのにね、でも家族が増えれば楽しいし嬉しいのはわかっている。
私もひとりっ子だし、こっち来て蘭と竜胆とで過ごすのはなんだかんだ楽しかったから。
「女の子もいいな。チビはオレに似てるけどさ、名前に似てる女の子もぜってー可愛い」
「私に似ると大変なことになりそうだけどね」
怒った時の過激さがやばそう、いや自分でもキレっぷりやべーなって思うことあるもん、関東事変や三天に関わった時の自分のやばさ。
でも当時喧嘩に明け暮れていたやつらより優しいとは思うんだけどな、命は無事じゃん?
マグカップを置いたイザナが私の体に腕を回してしなだれかかる。
はいはい、と腕を回して応えてやれば表情を緩めて私の胸に顔を埋めた。
「……すげー幸せだ、名前もいてチビもいて、家族っていいな」
「ならよかった」
「名前は?幸せに思ってる?」
「当たり前じゃん。十分幸せだよ」
私だってこうして家族になると思わなかったしさ。
それからしばらくソファーでイザナと抱き合って、ふたり揃ってうとうとしそうなところで体を起こす。
息子と蘭と竜胆はそのまま寝かせておいてあげよう。
リビングの電気を常夜灯にし、テレビを消して私とイザナは寝室へ。
大きなベッドで身を寄せて、おやすみと口付けを交わして眠りについた。
灰谷兄弟の親戚のおねえさん
黒川イザナと入籍して子どもを授かった世界線。
三天軸から三年くらい経ってる、みんな平穏に過ごしている世界。
相変わらずではあるけれど、奥さんだしママさんしてる。
灰谷家から黒川家へ、そうなんです黒川名前さんになってるんです。
灰谷兄弟や元天竺メンバーが家に来たり、佐野家に顔出したりと交流の幅は広がったかも。
黒川イザナ
おねえさんと入籍して子どもを授かった世界線。
ドラケンくんのところから独立してバイクショップを経営中、ちなみに経営のアドバイザーの九井くんがいたりする。
奥さんも子どももいて家族ができて誰よりも幸せを噛み締めて日々を送る。
もうひとり子ども欲しいなーと思っているし、なんなら子どもたくさん欲しいなと思ってる、五人家族くらいになるかもしれない。
女の子を授かったら嫁にはぜってー行かせねえから!なんて言い出すはず。
息子
二歳くらい。
みんなからチビ、チビちゃんと呼ばれている。
ちゃんとお名前あるけれど、真一郎くんから一文字もらっているかな。
灰谷兄弟
大将とおねえさんが幸せそうでなにより。
頻繁に黒川家に遊びに来てはチビちゃんと遊んでいる、もしくは遊ばれている。