もしも呪いの世界と交わっていたら⑫

「ねえちゃん!落ちる!落ちちゃうよおおおおお!!」

「いやああああああ!空飛びたくないいいい!!」

「ぎゃあぎゃあうるせえなァ人間やりゃあなんとかなるよ多分」

「そんなああああああ!!」

「今ずるって滑った!!ねーちゃん落ちるううう!」

「……なんて地獄?」

今日はいい天気だなぁ、真っ青な空と照りつける太陽、最高だね、天気は。
あれから数日、大事を取って入院している私は今病院の窓から蘭と竜胆の足を持って逆さまにしている。
なんでって聞くな、うとうと昼寝していたのにテレビ見てぎゃあぎゃあ騒いでいたふたりが圧倒的に悪い。
私言ったよな?昼寝するって。
なんで騒ぐ?しかもテレビのチャンネル争いで。
ガキじゃねーか大人しくさせてやろうか。
そう思っているとドアがノックされて開いた。
ポカンと口を開けた五条、出直す?と五条が言えば蘭と竜胆はオマエでいいから助けろ!!と怒鳴る。
あーうるせーなー、離しちゃおっかなー。
手が滑ったーとかやろっかなー。
とまあ、そんなことを思いながら上げたり下げたりしていたら五条に止められた。
べしょべしょに泣きながら「今だけはオマエがいてよかったー!」「ありがとう!今だけは!」なんて蘭と竜胆は五条に泣きつく。
情けねーな、吊るされたくらいでピーピー泣いてんじゃねえよ。

「名前さんが元気そうで何より」

「まあ大分体力戻ってきたし明後日には退院だってさ」

備え付けの冷蔵庫にあったカフェオレを五条に渡し、私はブラックコーヒーを手に取る。
首に残っていた跡ももうほとんどない。
前に五条が連れてきた美人さんによれば後は時間が解決するそうだ。
その後高専の上層部のおじいちゃん方から「お願いします高専に来てあの馬鹿の手綱を本気で握ってください」と怒涛のお手紙がお見舞い品と一緒に来た、そっちにドン引きした。
一級呪術師として待遇はいいものにするからなんてよくわからんことが書いてあったけど全部目を通す前に蘭と竜胆が病院の裏庭で燃やして季節外れの焼き芋焼いて消防車来る騒ぎになった、ケツにタイキック決めてやっといた。
お見舞い品の中になんか良くないものがあったからそれは丁寧に送り返したことを五条に言えば「あーうん、それは合ってる」と煮え切らない返答。
なんか洗脳する類の道具だったらしいよ、知らねーけど。
それこそそんな暇あんなら教育的指導すりゃあいいじゃん、五条に。

「そうだ、絵ありがとうね。早速教室に飾ってるよ」

「そう?ならよかった」

「呪力込めただけでなんでああなるのか不思議だけど」

「だからそっちはよくわかんないって言ってんじゃん」

前に五条に依頼されて描いた絵はお気に召したようだ。
なんでああなるのかって言われてもいつも通りに描いてるだけだからなんとも。
ああそうだ、昨日は本人不在で夏油からもお見舞い品が届いた。
高そうなお菓子、コーヒーと一緒にどうぞとお大事にのメッセージカード付き。
あとやけに綺麗な花と果物がたくさん、これは夏油の連れからだそうだ、花はあの目から枝生えてたやつで果物は一つ目火山から。
水槽に入った綺麗な魚は蘭と竜胆に頼んだら梵天の事務所に置くってさ、それからお世辞にも綺麗な字とは言えないもので「また絵かいてね、まひと」って手紙も。
あいつら本当は人間だったりしない?むしろ人間より気遣いできてるんじゃね?
ああでも呪霊って言ってたな、人の負の感情から生まれたなら見た目はあれでも人間か。

「ねーちゃんこのチョコ食べていい?」

「うわこれいいとこのじゃん、オレも食っていい?」

「いいよ、私も食べる」

「僕もー」

「は?ねえちゃんのチョコなんだからオマエにはやらねえよ」

「カフェオレやっただけでも感謝しろよ、ねーちゃんに」

「たった三文字へのレスポンス酷くない?」

竜胆が開けた箱からチョコを取り、口の中に放り込む。
あー美味しいわ、コーヒーに合うね。
僕も食べる!と手を伸ばす五条と箱を遠ざける竜胆、五条の顔を鷲掴む蘭。
うるさくしたら揃って窓から放り投げんぞ。
まあぎゃあぎゃあ騒いでいたのでもれなく全員順番に放り投げようとしたら泣かれた。
もうしない!しないからぁ!!
変わらねーなオマエらはよぉ。
ちゃっかり満足そうにチョコを食べることができた五条は「ちゃんと口座に振り込んでおいたからね!またよろしく!福寿さんお大事に!!」と蘭と竜胆が投げる岩塩を避けるように病室から出て行く。
嵐かオマエは。
……でも、この日以降、五条や夏油を始めとする呪術師たちに会うことはなかった。

 

「ハロウィンに渋谷駅で大規模テロだってさ、なんか梵天の関連疑われてっけどオレら無関係」

「いつもよりサツの目が厳しいからって三途がイライラしてんだよなぁ」

「でもよかったよな、ねーちゃんが夏油からその日近づくなって聞いてたから下っ端何人か死んだけどオレらへーきだし」

「それなー。多分これ夏油だろ、テロの主犯。こえーこえー」

そんな蘭と竜胆の会話を聞きながらテレビの報道内容をぼんやりと眺める。
今いるのは梵天の事務所、久しぶりに九井と絵の取引で来たけれど、テレビの内容に少しだけ戦慄した。
確実に夏油じゃん、だから近づくなって言ったのか。
三途や鶴蝶はしばらく大きく動けないからどうするかと佐野と話をしに行っているらしい。
明司も悩ましげに煙草吹かしながら思案していたし、望月は渋谷駅周辺にある梵天傘下の店が無事か確認に追われている。
念の為五条に無事かメッセージを送ったけれど既読にもならん。
あーこれは五条たちも巻き込まれてんな。
普通の人間に見えないものを相手にしていたし、夏油が出てくるってことはそういうことだろう。
つーかそんなモン使って渋谷駅で何してんのあいつら。
報道内容によるとかなりの人が亡くなったみたいだし、そりゃあ世界も変わるわ。
過去最大最悪のテロだろ。
疑われている梵天はご愁傷さまとしか言えねえけど。

「私もしばらく個展は開けないからなー」

「担当巻き込まれたんだっけ?」

「そう。生きてはいるらしいけどほぼ植物状態だってさ」

「こっわ」

ねえちゃん何もなくてよかったー、と隣に座る蘭が私に寄りかかる。
竜胆は水槽にいる魚に餌をあげるとそのまま蘭とは反対の私の隣に座って同じように寄りかかった。
重い。
あと変わったことがある。
あの変な生き物をぱったりと見なくなった。
それはいいことだよな、また襲われたらたまったもんじゃねえ。

「五条とか死んでんのかな」

「あーゆー変なモンあったりすんならあいつどっかに封印されてんじゃね?」

「ウケる。僕最強って言っておいて封印されてんのいい肴じゃん」

「竜胆今度会ったら聞いてやろうぜ、僕最強ーって言っておいてねえどんな気持ち?ってさ」

「あと夏油もだろ?大規模テロの主犯さん今どんなお気持ちですかァ?って」

ふたりならそう言うと思ったわ。
ハロウィン狙うとかめちゃくちゃ計画してんじゃん、コスプレした人たちでごった返しているだろうからこんだけ犠牲者出てんだろうし。
運がないな、としか思えない当たり私も毒されてる。

「主犯が私たちと面識ある時点で梵天が主犯って疑われんのは納得する」

「それな」

「ずっと間接的にオレらと関わってんじゃん」

あいつらオレら大好きかよ、なんて笑う蘭と竜胆。
そのまま縁切れりゃいいんだけどな、どうせこの騒動落ち着いたら五条も夏油もいつも通りに顔出すんだろ。
蘭と竜胆とあいつらがぎゃあぎゃあ騒いで私がキレて、それに慣れたのは複雑だ。

「今日夕飯どーする?ねーちゃん久しぶりにこっち来たから食って帰る?」

「家で食べるなら買い物しなきゃ何もないよ」

「じゃあ食って帰ろーぜ。この前竜胆と行った店よかったからさぁ」

まあ、あいつらいてもいなくても私たちは変わらないからな。
蘭がこの店、とスマートフォンを出したのを見て生きててはほしいなと思った。


親戚のおねえさん
めちゃくちゃ元気。
病み上がりでも蘭くんと竜胆くんを病室の窓から吊るすくらいには元気。
渋谷事変で一度縁が切れたので連絡先知ってる人間に連絡しても繋がらない。
蘭くんと竜胆くん、それから呪術界と関わってその度に吊るしたりシバいたりするのに慣れていたので何日かはちょっと寂しいなとか思っていたりするかも。
ついでにおねえさんの術式は呪術廻戦の世界への防衛手段として呪術界のどんな術式にも干渉できるもの。
絵もそう、呪術界の敵意や殺意、悪意を削ぎ落とすもの。
物理に関してはほら、無意識とはいえ呪力込めれば勢いでいける。
東卍世界に関しては相変わらず、生意気な野郎は吊るすのがデフォなので。
ちなみにお見舞い品の内容。
五条さんからは絵の代金にちょっと色を乗せて、一年生たちからはコンビニのお菓子や缶コーヒー類、七海さんからは囁かなお花。
夏油さんからは高級お菓子の詰め合わせとメッセージカード、真人くんからは手紙、漏瑚さんからは果物セット、花御さんからは綺麗なお花のブーケ、陀艮ちゃんからは綺麗な熱帯魚。

灰谷兄弟
病室でチャンネル争いしてたら病室から吊るされてやってきた五条さんに泣きついた。
今だけはオマエがいてよかった!!今だけは!!
渋谷駅で大規模テロとかこえーなー。
五条封印されてたらウケる、正解。
ふたりの術式もおねえさんと変わらないもの、ただ絵は描かないので物理に全振り。
後半になると投擲する鈍器や銃にも呪力込めたので立派な呪具扱い。
おねえさんに届いたお見舞い品を検品して呪術界上層部からのお手紙は季節外れの焚き火の元になりました。
もしも呪術師だったら取り扱い注意ってされてそう、確実に一級ですね。反社だから呪詛師扱いされてそうだけど。

五条悟
おねえさんのお見舞いに来たら灰谷兄弟が吊るされている現場でとんでもねえ地獄見た。
渋谷事変では封印されたので、今後出てきて灰谷兄弟と出会ったら封印されてんのどんな気持ち?って聞かれる未来が待っている。
そんな日来るといいね。

 

今回のクロスオーバーの解説的な
夏油さんがおねえさんのギャラリーに来たのがきっかけでクロスオーバーした感じ。
だから灰谷兄弟や梵天が見えるし呪力あるしに今まで気づかなかった。交わらない限りはその世界はないからね。
縁が切れたのは夏油さん(中身はメロンパン)が呪物とかの封印解いた時に一緒におねえさんの縁も切れたから。
東卍世界では渋谷事変は大規模テロとしての認識で、死滅回遊とか政治的空白とかはなにもない。平和。
今後全てが終わったら別の形で世界が交わるかも……?
とまあぼんやりな感じです。

2023年8月3日