もしも高専時代のさしす組と出会っていたら④

「なんでそうやって絡みに行くのかわっかんないんだけど」

「いたたたたたたた!!ねえちゃん締まる!締まってる!!」

「はわわ……」

「おい竜胆逃げんなよ!助けろよ!!」

「逃げても次オマエだからな」

「いやああああああ!!」

一体これはなんなんだろう。
一年生たちも呪力コントロールの訓練があるからとグラウンドに出たまではよかった。
臨時教員の女性が先輩方に呪力コントロールを教えている話は聞いている。
無意識に絵に呪力を込めている人、あとその弟さんたち。
よく校舎から五条先輩と夏油先輩が派手な髪のふたりにボコボコにされているのを見てあの人たちにも敵わない人間っているんだなと思った。
無表情の静かな女性、名前さんといったか。
お淑やかな方なんだろうなと思ったら、今目の前で起こっているのはなんなんだろう。
私たちに不良のように……いや実際不良なんだがこのふたり……灰谷さんたちが絡んできたと思ったら名前さんが金と黒のツートーン三つ編みの方にヘッドロックを決めた。
灰原も目が点になって固まっている。

「それが許されんのは五条と夏油までに決まってんだろ」

「いやほらだって……!」

「は?口答えオッケーした覚えがない」

「や、やめてねーちゃん!兄ちゃん痛そうだから……!」

「痛くしてんだよ次オマエだっつったろ竜胆」

「やだああああああああ!!」

酷い時間はきっと十五分くらいだったと思う。
地面に横たわってごめんなさいすみませんでしたと蚊の鳴くような声で謝罪をするふたりをスルーして名前さんは私たちに向き直った。

「改めて、いつもは二年生たちを主体に呪力コントロールの指導をしている臨時教員の者です。ちなみに今まで一年生たちにこの授業が来なかったのは五条が駄々を捏ねたからだそうです。呪術師ではないので不満はあるかもしれないけれどよろしくお願いします」

「あ、灰原雄です!」

「七海建人です」

呪力コントロール、ただ私のように武器に乗せるだけでなくその精度を上げることが目的だそうだ。
確かに二年生の先輩方は呪力コントロールがとても緻密だったなと思い出す。
特に家入先輩は反転術式の使い手ということもあって誰よりもコントロールに長けていた。
名前さん……先生と呼ぼうとしたら断られたのでそのまま名前さんと呼ばせてもらおう。
呪力を乗せて絵を描き、半永久的にその絵に呪力を残すことができる人。
しかもその絵は結界のような役割もするらしく、前にあった星漿体護衛任務では役に立ったんだとか。
無断で小さいとはいえ絵を持ち出した五条先輩が名前さんに蹴られているのを目撃した覚えがある。
無限あんのになんでええ!?と高専に響いた悲鳴に少しだけ同情した。
名前さんの弟さん、蘭さんと竜胆さんも無意識に呪力を込めているところがあるらしく、これまた五条先輩の俺の無下限どこおおおお!!と叫び声が響いていたような気がする。

「七海は鉈使うから元々できていると思うけど、そこにさらに呪力乗せて破壊力アップを目的にしてみようか。あと手加減する場面もあるだろうから微力なコントロールをつけよう。灰原は素手で戦うって聞いたから、自分の身を自分の呪力で守れるように自分の体に思うようにコントロールできるように。硝子のように反転術式とまでいかなくてもガードしよう。何か質問あったら聞いて、呪力コントロールしか答えらんないけど」

実戦に関してはそこに転がってるクソガキ相手にして試してね、そんな物騒なこと言われた。
そんな物騒な印象の名前さんだったけれど、指導内容はとても細やかで繊細だった。
灰原が名前さんはどうやって絵に呪力を込めているのか聞けば目の前でスケッチブックに簡単に絵を描いてくれたし、私の呪力コントロールも逐一こうしたら?とアドバイスをくれる。
蘭さんと竜胆さんは名前さんの言うことには忠実で、五条先輩と夏油先輩にはあんなに容赦ないのに助言は的を得ていた。
術式を使わない、あるのか自覚していないからなのかわからないけれど、術式ばかりを頼りにするな、正攻法だけが喧嘩じゃない、ああ確かにな。
蘭さんと竜胆さんの過去に犯した罪を知ってはいるけれど、喧嘩の強さはあの先輩方にはないものだなと変に納得する。

「オレら喧嘩で警棒使うしそこら辺にあるコンクリブロックで殴ったりもすんけどさー、意地張るのは命懸けちまうんだよね」

「人を甚振るのがまあ好きっちゃ好きだけど。それがこの学校では訓練に使われんのすげー皮肉。五条と夏油の悔しそうな顔見りゃ飯うめーからいいけど」

とんでもないな。
ただの一般人の枠ならかなり強い、でもそのふたりよりも強い人もいるというのだから世の中わからない。
初日、私は竜胆さんに関節技を決められて肩を脱臼し、灰原は蘭さんにしこたま警棒でぶっ叩かれて意識を失って授業は終わった。
一般人とは?その答えは二年生になっても出てこない。

 

「蘭さん!竜胆さん!こんにちは!!」

「おー灰原じゃん、元気ィ?」

「こんにちは」

「七海なんか窶れた?」

「あれ?名前さんはご一緒じゃないんですか?」

「なんかねえちゃん夜蛾センと話してくるってさー」

「来る前にシュークリームお土産で買ってきたけど食う?」

校舎の近くにバイクを停めたふたりに声をかけた。
名前さんは補助監督さんの車で来るけれど、蘭さんと竜胆さんはそれぞれバイクらしい、帰りにご飯食べるんだって。
竜胆さんからシュークリームの入った袋をもらい、七海と中身を覗く。
たくさんのシュークリームだ。
僕たちがもらっていいんですか?と聞いたら硝子ちゃんには残してやってーと言われた。
うーん、当たり前のように夏油さんと五条さんの分がないのがふたりらしい。
自販機の並ぶ共有スペースで並んで座り、僕と七海はシュークリームを食べる。
めちゃくちゃ美味しい!
蘭さんと竜胆さん、それから名前さんは六本木に住んでいるって言ってたし、普段から美味しいものを食べているのかも。
服だってブランド物が多いしね。
それに不良だって聞いていたから最初はおっかなびっくりだったけど、意外と面倒見がいい。
但し夏油さんと五条さんは除く。
あのふたりと会うとこのふたりはすぐ喧嘩吹っかけるし、挑発に乗った夏油さんと五条さんと四人で乱闘起こして夜蛾先生と名前さんに怒られるまでがオチだ。

「オマエら今日はフリーなの?」

「明日から遠征です。今日は灰原とその打ち合わせをして早めに休もうかなと」

「七海は真面目だなぁ、もっと緩くやりゃあいいのに」

「そこが七海のいいところですよ!」

ふたりは緩過ぎるんですよ!と言ったらにっこり笑顔の蘭さんにアイアンクローをされた。
いやいつも思うんだけどその力って呪力込めてないですよね!?
ひいひいと七海に泣きつけば自業自得だと言われる。
竜胆さんは「兄貴、ねーちゃんに見つかったら怒られるよ」と窘めるだけだった。
シュークリームを食べながら七海と蘭さんと竜胆さんとで話をしていると、少し疲れた顔の名前さんがやってくる。

「あれ、七海と灰原も一緒?」

「はい!こんにちは名前さん!」

「こんにちは」

「はいこんにちは。探す手間が省けたわ」

そう言うと名前さんは肩からかけている鞄から何かを取り出すと僕と七海に差し出した。
ポストカードサイズの、絵だ。
僕のは綺麗な青空、七海のは綺麗な夜空。
なんでも夏油さんと五条さん以外の学生には名前さんの絵を渡すことが決まったらしい、でも名前さんも毎回毎回描くのは本業に影響があるから回数減らしてくれと夜蛾先生と上層部とお話していたんだって。
あと上層部からは五条さんの手綱握ってくれてめちゃくちゃ感謝しているので三十路突入直後でもいいからどこかの名家に嫁入りしないかと言われたらしい。
ねえ見た七海、今の話の時に蘭さんと竜胆さんの表情ごっそりなくなったよ?えっ?怖い。
そっちの話は丁重にお断りしたって。
それを聞いたら蘭さんと竜胆さんが「後でそのクソジジイ共どいつだったか教えてね?」「大丈夫大丈夫、大将たちに声かけて襲撃しようとは思ってねえから」なんて物騒なことを言う。
こわ。
いや名前さんじゃなくて蘭さんと竜胆さん怖い。

「明日任務なんでしょ、ふたりなら大丈夫だと思うけど何が起こるかわからないから持って行きな。そのまま持って帰ってもいいし、返してくれてもいいから」

捨てられるのは悲しいけれど。
そんな名前さんの言葉に今度は蘭さんと竜胆さんが僕たちを見てカッと目を見開く。
何も言ってなくても伝わった。
は?オマエらそれ捨てるの?ねえちゃんが描いてくれたのに?ねーちゃん悲しませたら殺すぞ?
名前さんの手前物騒なことを言えないふたり、僕と七海は少し青い顔で頷く。

「いーなァ、ねーちゃんに絵描いてもらうのォ」

「いーなァ、お役御免になんてならねえだろうなァ」

「名前さんありがとうございます。大切にします。ほら灰原オマエも」

「ありがとうございます!とても綺麗です!今度妹にも見せます!!」

「いいよ。あ、何か飲む?」

名前さんが自販機に小銭を入れて僕たちに聞く。
それぞれあれがいいです!ありがとうございますと名前さんにジュースやコーヒーを奢ってもらい、今日授業のない名前さんと蘭さんと竜胆さんと五人で談笑してその日は解散になった。
今度飯食いに来いよと蘭さんと竜胆さんが誘ってくれたので、明日の任務終わって、落ち着いたら行こう。
ちなみに次の日、二級案件だったのが実は産土神、つまり一級案件で、名前さんの絵によって僕の上半身と下半身がさよならするのを防がれ、七海と命からがら高専に帰還できたと言っておく。
よかったあああ!!名前さんの絵がなかったら僕死んでたああああ!
七海と抱き合って号泣し、夏油さんにはよく帰ってきたねと褒められ、家入さんに治療してもらい、後始末に向かう五条さんを送り出した。


親戚のおねえさん
蘭くんと竜胆くんが七海くんと灰原くんに絡んでいるのを見てそれは五条と夏油だけにしろっつったろーがとそれぞれ締め上げた。
このくらいになると呪力コントロールの助言もわかりやすくなっているし、呪力もちゃんと見えるので指導力アップ。
星漿体護衛任務の時に絵に結界のような力があるとわかったので最強コンビ以外には渡すことが決まったけれど、そんなんしてたら本業に支障出るわって夜蛾先生と上層部とお話してた。
さらっとお見合い組まれそうになったけど灰谷兄弟と極悪の世代が殴り込みに行ったとか行かないとか。

灰谷兄弟
最強コンビの時と同じように絡んだらおねえさんに締め上げられた。
七海くんと灰原くんは最強コンビより素直だから可愛がっているよ!今後高専来る時にお土産は硝子ちゃんと七海くんと灰原くんの分を用意する。
目の前でおねえさんがふたりに絵を渡すのを見て「いーなァ」って笑ってない目でガン見した。
尚、おねえさんの嫁入り話は大将と極悪の世代たちとで殴り込みに行ったとか行かないとか。
大丈夫!おねえさんにはバレてないよ!!

七海建人と灰原雄
物騒な人たちだなぁって思っていた。
でも先輩たちに指導するより丁寧で助言も的を得ていたので懐いてくれた。
七海くんは一般人とは?とずっと困惑してる。
灰原くんはでもほら福寿さんと灰谷さんたちだから!って納得。
おねえさんからもらった絵で灰原危機一髪を乗り越えた。
この後泣きながらおねえさんにお礼を言う。

最強コンビ
俺たちには絵はねえの!?なんで!?私も!私も欲しい!!と駄々を捏ねた。
おや、夏油くんの様子があやしいぞ?

 

星漿体護衛任務や灰原くん危機一髪の件でいろんなものが揺らいだ夏油くんの話を聞くおねえさん。
辺鄙な村に何しに来たんですか?え?絵を描きに来た?しかもここ来るの二回目?住民さんとのクッションになってもらっても?
尚、檻に閉じ込められている双子の女の子を見て真っ先にブチ切れたのはおねえさんでした。
誰か!!この人止めるの手伝ってくれ!
夏油くんの頭と胃が痛い。
その次は五条くんとおねえさんでお話するよ!最近親友との折り合い悪いんだって!

2023年8月3日