白い衣装に身を包んだ女が恥ずかしそうに頬を赤く染めた。
着せ替え人形のようにして悪ィが、さすがにこればかりはおれだけじゃ決められねェからな。
ウエディングドレスはもちろん、白無垢も合わせて女が気に入りそうなものを探す。
前のことを考えるなら白無垢なのだろうが、個人的にはドレスも捨て難い。
気に入ったのはあるかと女に声をかければ、顔を赤くしたまま選べない……と消えそうな声で口にして顔を両手で覆った。
だろうな。
レースをふんだんに使ったドレスも、シンプルではあるが重みもある白無垢も、こいつは選べないだろうな。
ふと、並んでいるドレスの中にカラードレスがあることに気づく。
赤や青はもちろん、ピンクや黄色、紫なんかもあった。
どうせドレスにするなら色づいていてもいいのかもしれねェな。
手にしたドレスをこれ着てみろと渡せば、何色?と女が首を傾げる。
……内緒。
そう言えば女は首を傾げたまま、濃い色かな、なんて言いながら試着室へ入った。
「……前から思っていたけどさ……あんた独占欲やべーな?」
「何今さら言ってんだ。お前がどうしても見たいって言うから連れてきてやっただろうが」
「そうだけど。シンプルに白じゃなくていいのかよ」
「……あれはあれで意味あるからな」
うわ……とおれから少し避けるように体を引くページワンがなんとも言えない顔をする。
お前が見たいっつったんだろうが。
撮影の日に同席するのはカイドウさんとオロチだけだ、写真でも見たいけど試着するの見たい!!って駄々捏ねたのはページワンだ。
なんでも、日和にマウント取るためだとか……
別に構わねェが後は知らねェからな。
あいつがいない日でもおれと日和は顔を合わせちゃいるが、最近はページワンもついて来てページワンと日和でよくわからねェ口論をする日が増えた。
どっちが親友だなんだ、ガキ共はマウント合戦が忙しいな。
まあ、ページワンはあいつと会ってから頻繁に出かけているらしい。
おれの手が離せない日は護衛代わりになるから重宝している。
そこへうるティも混ざることはあるが、三人とも楽しいようで何よりだ。
シャッ、と試着室のカーテンが開く音がしてそちらへ視線を向ける。
おっ、とページワンが声を上げ、試着室の中で女の手伝いをしていたスタッフがお似合いですよと女に声をかけた。
……髪や目だけでなく、肌も白いから選んだドレスがよく映えている。
白だと溶け込んでしまっていたが、これならいいだろう。
鏡を見ていた女も、これしっくり来る、と体を動かしてドレスを見下ろした。
「いいじゃねェか」
「うん、これ私でも綺麗に見えるね」
「それにするか?」
「これにする!」
で、これ何色?とにこにこしながら聞く女には当日まで内緒なと言っておく。
マジかよ、とページワンが据わった目でおれを見た。
いいだろ、本人もそれに納得しているんだ。
キングが言うなら、と全面的におれを信頼してくれているんだからな。
試着が終われば女は撮影の日にどんなヘアメイクをするのか打ち合わせがあり、日程や当日の流れの打ち合わせ、支払いはおれがやる。
ページワンは女について行った、雛鳥かあいつは。
当日は何も仕事を入れないように調整しているし、カイドウさんもオロチもそれは承知の上だ。
おれの打ち合わせが終わって少ししてから女とページワンが戻ってきた。
ブライダルエステの案内も手にしている。
「なんか、撮影の日に合わせて行ったらどうかだってよ。あんたが行けない日ならおれが付き添うけど」
ちゃっかり何してんだてめェ。
……まあ、女もそのつもりらしいからいいか。
なんでも、さすがにそこまでついて来るのは恥ずかしいらしい、ページワンならいいってか、友達は別?……わかったよ。
帰りは一緒に飯食おうな!と喜ぶページワンとどこがいいか一緒に決めようねと嬉しそうな女。
ちなみにこの後飯に行くんだけどな、お前らどこに行きたいんだ。
ページワンの希望でファーストフード店に向かうことになったが、山ほど注文したおれとページワンに比べて女はバーガーとドリンクだけだったのでおれとページワンがこれでもかとポテトを餌付けした。
そんなに食べられないと何度もギブアップしていたが、むしろ細すぎるんだからもっと食え。
「ずるーい!!なんで私も連れて行ってくれなかったの!?私だって友達なのに!!ずーるーいー!!」
声でっか。
鼓膜破れるかと思った。
今日は日和と買い物だ、服や化粧品買う時に選んでくれるのでとても助かる。
私は日和がキャバクラで話のタネになりそうな本を選んでくって言われているから選んでいるけど……日和はそんなものに頼らなくても大丈夫じゃない?
デパートの化粧品売り場で、確かビューティーアドバイザーだかカウンセラーだか……そんな名称だったような気がする……店員さんが日和にお試しで新色のアイシャドウを施しているっていうのに日和が声を上げる。
やってもらっているのに動いたら台無しになるだろうに。
私も行きたかったとか、そもそも先に友達になったのは私なのにとか、私にってよりは主にページワンとたまにキングへの文句がすげーすげー。
……ま、どっちが先に友達になったのかは私からは言わないけれどさ。
思い出したって言っても、ほとんどキングのことだけだし、前に日和やページワンと関わりがあったのかは知らない。
ふたりの様子から関わりはあったのかなって薄々勘づいてはいる。
でもさ、わざわざ言うことじゃないよね。
キングだって私にわざわざ言わなかったし、正直前のことは前のこと、今は今だからさ。
なのでクイーンが「お嬢ちゃんの力で小紫たんに取り次いでくれ!!おしるこあげるから!」と私にめちゃくちゃおしるこセットを渡そうとしても取り次ぎません、友達をおしるこセットで売るわけねェっての。
キングにバレて尻を蹴り上げられていたっけな。
「試着したドレスの写真なら撮ってきたけど」
「見せて!」
食いつきが凄いな。
店員さんにお騒がせしてます、と声をかけてスマートフォンの写真アプリを開いて日和に渡す。
その間に店員さんから口紅をいくつか見せてもらった。
そうそう、今度ウエディングフォトを撮るんだけど、ヘアメイクやってくれるスタッフがお好きな口紅持ってきてもいいんですよって言ってくれたから、日和がアイシャドウやチークを選ぶ傍ら私は口紅を見に来たわけだ。
何色のドレスかは当日まで内緒だって言っていたから、パッと見た印象で口紅を決めようかと思う。
結構色の濃いドレスだったな、色素のほとんどない私にも映えてくれるドレス。
スタッフは濃いめの鮮やかな色がおすすめって言っていたっけ。
アイシャドウはなしで、アイラインではっきりさせればいいとも言ってた。
「……ね、ねえ」
「なに?」
「本当にこれ着るの?」
「変だった?」
変じゃないけど、と口篭る日和に色は言わないでねと口止めしておく。
店員さんもそれを覗き込んで、似合いそうな色をいくつか選んでくれた。
「いっそここまで来ると潔いわね……」
「そのドレスだったらどの口紅がいいかな?」
「あなたのそのマイペースさも凄いわよ。そうね……キングもページワンも、私が口紅選んだって言えば少しは悔しそうな顔するかしら……」
なんて?
マジで何競ってんのかわからないんだけど、キングもページワンも日和も。
私からしたら、一番はキングだけどさ、日和とページワンは友達じゃん。
とても親しい友達だから親友なんだし、私は私にとても親しくしてくれるふたりは親友だと思っているんだけど。
旦那が親友と親友に、親友の親友が親友になれるかは別として。
というか絶対無理だな。
キングとページワンだって、この前ファーストフード店でご飯食べた時に競うように私にポテト食べさせるんだもん、マジで何を競ってんだ。
「そうね……これなんかどう?」
そう言って日和がひとつの口紅を指差した。
鮮やかそうな濃さだ。
店員さんがお試しで塗ってみましょう、とその口紅をリップブラシに取ると私の唇に滑らせる。
鏡を見れば、思った通り鮮やかで濃いのか私には少し薄い黒を口紅に乗せたようにしか見えないけれど、日和がうんうんと頷いた。
ってことは間違いないんだな。
正直、前も今も化粧をするのは苦手だ。
だって、色がわからないから墨を塗ったようにしか見えないもん。
日和が似合うとか似合わないとか教えてくれるから、なんとか人並みに化粧はできている、と思う。
思えば日和と友達にならなかったら眉毛書くだけだっただろうな。
「とても素敵。それにしたら?」
「うん、これにする」
「じゃあそれは私からあなたにプレゼントするわ。ささやかだけど、結婚祝い」
「……いいの?」
「もちろん!」
日和からのプレゼント……嬉しいな。
日和はにっこりと満足そうに笑い、私がいるのに店員さんにラッピングはどれでとか話を始めた。
せめて私が見ていないところでやろうよ……
まあ、そんなの今さらか。
そんなこんなでふたりで一番の目当ての買い物を終えて帰路に着く。
お試しで塗った口紅はそのままだ。
日和曰く、今の格好でも十分似合うって。
……これ、選んでくれたのキングだって黙っておこうかな。
あの人私に自分好みの服を着せるの本当に好きだよね。
膝より少し下の白いワンピース、黒いジャケットにショートブーツ、髪型もおれがやるって言ってハーフアップだし。
日和はこのまま出勤だと言うのでとりあえず店の前まで行くことにした。
「そう言えば、誰かがあなたに私へ取り次ぐようにお願いしているってお話を聞いたのだけど、別にいいのよ?あなたのお友達なら」
「……クイーンですけど」
「断ってくれてありがとう!」
清々しい程の笑顔だなあ。
そこまで惚れ込んでいるなら金づるじゃないの?と聞けば、もう私のお父さんがよくしてくれているからそれで十分なのだと言う。
まあキャバクラではあるけど健全なお客とキャバ嬢の関係だしな、同伴がたまにあるくらいでアフターもない、月に一度盛大にシャンパンタワーやるくらいだったかな。
私には何が健全なキャバクラの遊び方かは知らないけど、お父さんも日和もそれでいいならいいかな。
それに、もしもお父さんが日和にベタ惚れでも不思議と納得するんだよね、なんでだろう。
過度な接触もないし、ちゃんと指名を入れて日和が来るまで待っているって言っていたからそんなに心配はしていない。
むしろ私がいないところで親馬鹿言ってないかがこう……ちょっと小恥ずかしいというか……
そんなところで情報交換せんでもろて……
ちょっとだけ面白いと思ったのはクリスマスとかバレンタインとかのイベントの時にお父さんが私に無難な差し障りのない大勢向けのプレゼントを選んでくれって言って、それをイベントの時に日和に渡したら日和からお父さんと私にお返しがくるところかな、なんて回りくどい……
もうちょいそれをキングと日和で平和にやってくれねェかな、無理か。
日和と店の前まで行くと、店の前でキングと狂死郎がいた。
何やらふたりで話しているみたいだ。
スルーするのも失礼だしな、日和はキング見てすげー顔してんけど。
仮にもナンバーワンキャバ嬢のする顔じゃねェ、仲悪いの知ってるからその顔やめよ?
「狂死郎さん、こんばんは」
「ああ、お嬢さん。こんばんは」
「……」
「……」
私と狂死郎は普通に挨拶するのにふたりだけこの温度差よ……
どうすればいいのこれ?
拙者も知りたいでござる。
そんな会話を狂死郎と目でする。
ふと、私と目が合ったキングが私の唇に手を伸ばした。
「いい色だな、似合う」
「そうでしょうそうでしょう、私が、わーたーしーが!彼女に選んでプレゼントしましたからね!」
「……あ?」
「うふふ」
なんでそこでバトり始めんの?わかんねーんだけど?
目が合ったらバトルって、何のゲーム。
そこでメンチ切らないで……あっ、狂死郎が頭抱えた。
言っちゃあれだけど、キャバクラの前で美男美女がバトルするってなかなかな修羅場の図。
定期的にバトルしないと死ぬんかあんたらは。
はあ、と溜め息を吐いたのは私と狂死郎どっちだったか。
「日和、今日はありがとうね。また遊びに行こう」
「キング殿、御足労ありがとうございやした。またよろしくお願いいたします」
意図せずそれぞれに声をかけ、それから私はキングの袖を引く。
帰ろうよ。
狂死郎に促されて不貞腐れながら店内に入る日和に手を振れば、日和もにっこり笑って手を振ってくれた。
キングも不機嫌そうにしているけど、私がお揃いの指輪をしている手を取れば目を丸くして、それから表情を緩める。
「日和がね、キングが選んでくれたドレスに合う色を選んでくれたの」
「……あいつが?」
「うん。ドレスの色は言わないでねって言っておいた」
まあそれなら、とキングは呟いて私の指に指を絡めた。
そりゃあ、ふたりは何をどうすればそうなるのか知らないけれど仲悪いけれど、なんだかんだ気が合いそうな気が……やっぱしねーわ、今のなし。
でもさ、私は幸せ者だと思うよ。
本当に恵まれている。
上手く言葉には言い表せないけれど。
「今日は歩きなんだ、悪ィ」
「全然、だって一緒に歩けるし」
「……そういうところなんだよな」
「何が」
「なんでもねェ」
前は一緒に手を繋いで歩くのはできなかったから、私はこうやって歩けるのだけでも嬉しいんだけどな。
距離が近いっていい。
決して前が悪いわけじゃないけれど、やっぱり違うじゃん。
……恥ずかしくて口にはできないけど。
意識してストレートに言うのは苦手なんだよ、はい。
言わなくてもキングは、アルベルは知っていると思うけどさ。
ゆっくりとお互い同じ歩調で他愛ない話をしながら我が家へ足を向けた。
元黒炭の女の子
ウエディングフォトするって言われた時はしばらくスペキャしてた。
試着してもどれも綺麗なドレスだから選べない……と思ったらキングが選んだものがとても綺麗に映えて見えたので即決。
色は当日まで内緒だって。
日和とページワンはふたりとも親友なんだけどな、なんで争うんだ……
ドレスと組み合わせて映える色の口紅を日和にプレゼントしてもらってとても嬉しい。
キング
ウエディングドレスか白無垢か悩んだ。
でも目についたドレスの色がいいなと思って試着させたらとても映えて綺麗だったので満足、おれがこいつを染めるって決めてるからな。
なので色は当日まで絶対言わない。
日和と買い物していた嫁がとてもいい色の口紅をしていたのでとてもにっこり……だけど日和が選んだのは複雑、先を越された。
ちゃっかり付き添いするページワンは正直このガキ、と思うけどお互いお友達なのを知っているから特に何も言わない。
ただし日和とはバチバチしてる。
ページワン
うわ、キングほんとにやべーわ……ドン引きした。
これが旦那の独占欲……こっわ。
女の子とはお友達!遊びに行こうぜ!仕事?付き添うよ!!
たまにお姉ちゃんも参加するけど、お姉ちゃんと女の子も友達になってほしいのでとても嬉しい、にっこり。
日和
私も!ドレス!生で見たかった!!
なのでせめて口紅は選ぶわね、みたいねノリで選んだ。
試着した写真見てうわ……とドン引きした。
わかっていたけど親友の旦那の独占欲がやばい。
狂死郎
またこのふたりは修羅場を作り出す……あっ、頭痛と胃痛が……!
黒炭オロチ
とても健全にキャバクラで飲んでいる。
横暴さはなりを潜めているので良客。
娘の親友だからな、せめて金は落とす。