「へー、私の弟たちだけじゃなくて弟分にも手ェ出すんだ、ふゥん……」
「……なんっでねえちゃんがここにいるんだよ!!」
「偶然って凄いよねェ、補給兼ねてG-5にちょっと寄ってたんだよ。そしたらいつも居留守する基地長が本当にいねェし?スモーカーもいねェし?どこへ行ったのか通信記録やら何やら諸々見せてもらえばパンクハザードだって言うじゃねェか。新世界は何があるかわからねェモンな、処す」
「あらら……姐さんまでいるなら過剰戦力かね」
「別にお前がやらなくてもいいよ。こいつは、私が、やる」
「絶対殺るの間違いでしょうよ……」
「まず一発ド玉に食らっとけクソガキ」
「ぎゃああああああああ!!あっぶねェなババア!!」
今日も海は綺麗だなァ……くっそ寒いけど、そりゃパンクハザードの寒い方だからか。
巡回の補給ついでにG-5に立ち寄ったら嫌な予感するから途中まで軍艦で来たんだよ。
船の指揮は副官に投げて月歩でここまで来た。
そしたらドフラミンゴはいるわクザンがいるわスモーカーや他の海兵がやられているわ……
いつも海兵で遊んでいたドフラミンゴがこれをやるってことは余程のことが起きているな。
とりあえず挨拶代わりにライフル向けて引き金を引いたら避けられた。
まあただ何もせず撃っただけの弾を避けられねェならそれまでだ。
一度クザンとぶつかったみたいだけどそんなん知るか処すぞクソガキ。
剣持ってくればよかったかな、ペーパーナイフしか持ってねェや。
「待て待て待て待て……!おれはこれから帰るんだよ!!」
「へー」
「興味のねェ返事だなァおい!」
「お前がどこに帰るの?海の底?手伝ってやるよ」
恨みはらさでおくべきか。
いや別に弟たち無事だけど。
今も元気にすくすく育ってます。
海賊になりたいって言い出したら私が捕縛してインペルダウンにぶち込むぞって言ったらちゃんと頷いてました。
オレたちいい子だから!そんなことしません!
なんて言いつつも悪いことは隠れてしているみたいだけど。
私の見えるところでやったらシバくぞ。
私がライフルを構えた姿を見てさすがにドフラミンゴも私が本気だと思ったのか、腹を括ったように能力を使う。
糸って離れていると見えにくいんだよなァ、そのくせ切れ味抜群で範囲も広く、応用も効くときた。
厄介なんだよな、マジで。
ペーパーナイフを取り出して私を絡め取ろうとする糸を巻き取ってそれを引っ張る。
ドフラミンゴの体はよろめいたけれどその勢いでこちらへ突っ込んできた。
足を振り上げたのを見て、それを私も足を振り上げて迎え打つ。
「弟たちは無事だったんだからいいだろうが!!むしろこっちの部下がボコボコにやられて挙句の果てにねえちゃんに捕まってインペルダウン送りにされたんだぞ!?」
「一般市民に手ェ上げるクソ野郎を捕縛するのが私の仕事なんでね」
「そもそも二年前のことをネチネチネチネチと……しつけェんだよ!!」
「はァ〜?お前から引いた引き金だろうが被害者ヅラしてんじゃねェよクソガキ」
ライフルを反対に持ってそれをバットのように振り上げればあぶねェ!!と叫びつつも顎の先を掠めるだけに留めたドフラミンゴに思わず舌打ちをひとつ。
私情の喧嘩だ……あの人あの姐さんだよな……何したんだドフラミンゴ……とザワついているけど、クザンが「刺激するな!姐さんおこだから!」と静めた。
そうだよ、怒ってるんだよ。
誰が何が大切なのか聞かれれば、私の大切なものは一も二もなく弟たちだ。
無事でも平穏を脅かされれば怒るだろうが。
ここで仕留める、この前アラマキに説教した手前立つ瀬はないけど、そこはサカズキも承知の上だ。
それに、弟たちってのは海軍の弟分や妹分も含まれてるんだよ。
今テメェはスモーカーたちに手ェ出してたよな?
それが答えだっての。
「姐さん!それ以上は大事になっちまうから一旦ストップ!!」
ドフラミンゴの腹に蹴りを叩き込み、膝をついたところをライフルを振り被れば私の体を強度のある氷が包んで止めた。
……別に動けなくは、ないけど。
何もしなくても動く首を動かして後ろを向けば、焦った顔をしたクザンと目が合う。
「やめよう、姐さん。まだ姐さんは海兵だし、そいつも七武海でしょうよ。スモーカーだってそのままにしたくねェだろ」
「……退役したお前からそういう言葉が出るのは複雑だよ」
それ、せめて大将の時に言えよ。
ちっ、と隠さず舌打ちをすればドフラミンゴはふらつきながらも立ち上がり、捕らえられていた知らないふたりを引き連れて去って行った。
元々とても穏やかとは言い難い人ではあった。
サカズキが捕縛ではなく殲滅すれば関節技キメるし、おれがサボればめちゃくちゃ怒って射撃訓練の的にするくらい、そのくらい怒る人。
けれど今日の姐さんは本気だった。
頂上戦争前の、ブチ切れた姐さんと同じ。
弟たちが絡むと姐さんの激情が露わになる。
同時にちょっと安心する。
姐さん自身も曖昧になるくらい生きている人が、ずっと人間らしいままでいられるんだなと。
姐さん以外の海兵たちにおれのことを口止めしてから機嫌が悪そうにしている姐さんに近づいた。
割りと本気で止めたんだけどな、おれが何もしなくてもあの氷からまるで脱皮するみたいにひとりで抜けられるんだから相変わらずだ。
「止めたこと怒ってるでしょ」
「当たり前だろ。どれくらい怒ってんのかわからないとは言わせないよ」
「ごめんって。でもさ、どうせドフラミンゴを討つなら海軍らしい正義があったら素直にできると思って」
「人間変わるんだな……なんでそれを海軍時代に言わないんだか……」
「それはマジでごめん」
でも海軍にいなくても見えるものは増えるし見方も変わるんだよ。
そう言えば、姐さんはそれはそうだと肩を竦める。
むしろ姐さんほどずっと海軍にいてたくさんのものが見えてたくさんの見方ができることが凄いと思うけど。
年の功ってやつだろうか。
あっ、変に年齢に突っ込んだらどつかれるな、黙っとこ、おれ姐さんの前ではなるべくいい子にしてるわ。
海軍にいた時はいい子じゃなかったかもだけど。
「姐さんは元気そうだ」
「そりゃそう。弟たちを見送るまでは元気だよ」
……最近、というかここ数年姐さんの口癖って程じゃないけれど終わりを感じさせる言葉が増えたような。
巨人族よりも長く生きているとか、不老不死だとか、嘘のような本当のような話に背鰭尾鰭がついて時にはオカルトチックな話まで出回る姐さんだ。
二十年経たないくらい前に〝弟たち〟を育てるようになってからは、姐さんに終わりがあるような気すらする。
強い姐さん、カイドウと大看板相手にほぼ無傷で追い返した姐さん。
優しい姐さん、厳しくもあるけれど間違いなく弟分と妹分を生き延びられるように戦い方や礼儀なんかも叩き込んだ姐さん。
はァ、と白い息を吐き出した姐さんはおれに背を向けて「はよ行け、G-5から応援の軍艦が来る」と手を払う。
「私もサカズキにクザンがここへ来ていたことは言わない。お前が退役する時にも言ったけど、体に気をつけて悪いことは私の見えないところでやってればいいよ」
「あらら……姐さんこそ、それ中将の言葉?もしかして弟たちが悪いことしてても見えなきゃ何もしない感じ?」
「見えるか証拠がなきゃ動かないんだよ。何もかもを疑いながら生きるのは面倒だ。なるべく長く悔いのないように生き抜いてくれりゃ、私はおねえちゃんとして満足だよ」
……まあ、姐さんだからの一言で済んじまうよな。
姐さんこそ、無理はするなよ、しねェと思うけど。
そう言って待たせているキャメルのところへ向かった。
うーん……姐さんとこの先出会したら多分追っかけられそうな気がするな……無茶はやめておこう。
海軍のおねえさん
いろんな偶然が積み重なってパンクハザードに。
割りと本気でドフラミンゴを処そうとしていたけれどクザンに止められた。
弟たちに手を出された恨みはらさでおくべきか。
もしかしたらこの後イッショウとドレスローザに行くかもしれない。
銃は鈍器、ペーパーナイフは刃物になる便利な道具。
ドンキホーテ・ドフラミンゴ
クザンがいなかったらドフラミンゴ危機一髪状態だった。
クザン
立ち寄ったらまさかのおねえさんもやってきて気が遠くなるかと思った。
おねえさんに殴られるのを覚悟でおねえさんを止めた功労者。
クザンがいなかったらこの話にドレスローザ編は訪れなかった。