もっと早く言ってくれればもっと豪勢にお祝いしたのに。
そんな顔を隠そうともしないで頬杖をついた女が俺とグラスをぶつけてから俺をじとっと睨む。
ンなこと言われてもなァ、おじさんが自分の誕生日を自分から言うのってなかなか勇気がいるもんだぜ?
明日は休みを取れたらしいが、その分定時で上がれないまま案件を片付けたんだとか。
お疲れさん、ともう一度グラスをぶつけてそのまま煽る。
名前が持ち寄ってきたのはそれなりにいい値段のする酒とつまみ。
俺の好んで飲んでいるものまで、短時間で探すのに苦労しただろうなと思いながらテーブルに並べられたそれらを順々に眺めた。
さりげなく名前の好きなモンも混ざっているし、本当に値段大丈夫か?と気になるモンも並んでいる。
「高かったんじゃねえかこれ」
「いいの、天谷奴さんの誕生日だし」
心配されるほど稼いでないわけじゃないから、と鼻を鳴らす姿に思わずこちらも鼻で笑ってしまった。
ああ、やっぱり連絡を入れて正解だったと思う。
今日この1日をもらうことはできなくても、俺のために、なんて考えで仕事を片付けてせめて明日を、と休みを入れてくれた。
それだけでいいな、あまり高望みはするモンじゃねえし。
俺そっちのけで酒を進める名前の頬に手を伸ばす。
髪を耳にかければ、いつだったか俺が開けたピアスホールには俺が渡したピアスが鎮座していて、気に入ってくれてんだなと口角が上がった。
耳に指を滑らせ、軟骨のピアスをなぞるように触れてからゆっくり下ろし、耳朶のピアスにも触れる。
それから首に手を回して名前を引き寄せればされるがままになっているのか、特に抵抗もなく体を寄せ合うことができた。
ほんのりいつもより熱く感じるのは酒のせいだろう。
「……お酒しか用意してないの、いつもとあんまり変わんないじゃん」
「なんだ?気にしてんのか?」
「そりゃあ……気にするって」
珍しいな、ここまで気にするのは。
肩に回した手で名前の顎を掬い、上に向けてそのまま唇を重ねる。
いつも恥ずかしそうに顎を引くのに、むしろ従順な気もするな。
舌を這わせればおずおずと口を開くし、相変わらず慣れないのか拙く舌を絡める。
しばらくその拙い動きを楽しんで、唇を離せばアルコールとはまた別の要因で顔を赤くする名前が。
「……あの、さ……零さん欲しいものある?」
「……それは、お前が欲しいって言ったらくれんのか?」
「……いいよ、好きにして」
……ほお?
さらに顔を赤くする姿に何もこないわけがない。
言ったな?
撤回はさせねえぞ?
俺のグラスも女のグラスもテーブルに置いて、女を脇の下から抱えながら椅子から立ち上がる。
……やはり特に抵抗はないな。
そのまま寝室に向かって、あまり乱暴にならないようにベッドへ下ろした。
「じゃああれだ、名前が誕生日プレゼントでいいんだな」
「他にすぐ渡せるものないし……」
ただ、酷くしないでね。
一体どこで覚えてきたのか、可愛らしい言葉に急くようにその体を押し倒してもう一度唇を重ねる。
「お誕生日、おめでとう零さん」
「……ああ」
やっぱり連絡して正解だった。
この女とこの夜を過ごすなんて、何よりのプレゼントだろう。