詐欺師と吸血鬼の刑事(パロ)

暗い寝室のベッドで毛布を被って蹲る女を見下ろす。
外は快晴、だというのにこの寝室は遮光カーテンが日光を完全に遮っていた。
陽の当たるリビングでは女の飼い猫が心配そうに鳴いている。
女は吸血鬼だ。
このご時世に、しかもこんな存在がいるなんて始めは信じられなかったが、知ってしまっては信じるしかできない。
蹲る女の背に触れれば、逃げるように距離を取られる。

「名前、飯は食っても必要なモンは飲んでねえんだろ」

どうせ弱っていて逃げきれないんだろうに、女をベッドの端まで追いかけるように距離を詰めれば、今度はベッドから転げるようにして女は部屋の隅へ縮こまった。
滅多に見られない姿に加虐心が覗くが今は閉まっておく。
なるべく穏やかに名前を呼べば、いつもの青みがかった瞳ではなく本来の真っ赤な縦瞳孔の瞳がこちらを覗いた。
相当弱っているんだろうな。
以前聞いた話によると、弱っていなければ普通の人間と変わりないが弱っていると吸血鬼らしい特徴が現れてしまうらしい。
目の前にしゃがみ、真っ白な頬に手を伸ばすとそれすら距離を空けようと動く。

「いつから飲んでないのかおじさんに教えてくれよ」

「……4日、か5日」

「あー……大分飲んでねえじゃねえか。呼べって言ったろ」

吸血鬼、なんて言うもんだから主食はもちろん血液だ。
レバーやほうれん草、鉄分サプリメントで誤魔化してはいるが血液に比べたら似て非なるもの。
今までどうしているのか聞いたことがあるが、懇意にしている病院で輸血パックをもらっているとか。
上手くないから好きじゃない、らしい。

「ほら、名前」

好きじゃないから、なんて理由で血液を飲むことを拒否しているから頻繁にこうやって弱る。
嫌がるのもお構いなしに口元に指を差し出して唇に触れれば、おずおずをそれを咥えた。
ぬるりと舌が這った直後、鋭い痛みが伝わる。
それからちゅうちゅうと、可愛らしい音を立てて鋭い犬歯でつくった傷から血液を吸う音が聞こえてきた。
相当飢えているのか、俺の顔なんて一切見ない一心不乱ぶり。
しばらくそのままでいたが、俺の指から口を離したところで女の体を抱き寄せる。
首筋に口が当たるように誘導し、逃がさないように腕に力を入れた。

「飲むんなら一気に飲んじまえよ」

「やだ」

「お前と違って俺はサプリメントでもなんとかなんだから」

「いやだ」

強情だなあもー。
やだやだと愚図る女の髪を撫で付け、うっすらとまだ血の滲む指先を自分で咥える。
鉄の味、そりゃあ好きになれねえよな。
血液を舐め取り、堪えるように歯を食いしばっている女と唇を重ねた。
堪えようとしても本能は抗えないのか、難なく口を開いて血液にありつこうと女の方から舌を差し込んでくる。
積極的だなぁ、なんて茶化したら拗ねるだろうな。
もうとっくに血液を舐め取っているのに舌の動きは変わらない。
がっつくように唇を重ね続けていると、ガリ、と女の牙が俺の唇に当たった。
女もそれに気づいて一度唇を離し、呆然と俺を見る。
いって。
結構派手に出血しているのか、血液が顎を伝う感覚が少し気持ち悪い。
拭おうと俺が動く前に女から動いた。
遠慮なく俺の顎に舌を這わせ、それから先程と同じように唇を重ねる。

「ん、ちょ……待てって」

「なんで」

「飲むなら首噛めっつったろ」

「やだ」

これがいい。
赤い目をかっ開いて熱に浮かされたような表情の女に何も言えなくなる。
そうかい、なら好きにしろよ。
一度大きく息を吐き、俺の血液で濡れている唇に乱暴に噛み付いた。

2023年7月25日