愛のためなら地位なんてくれてやる

※くっ付いた後のお話
※名前が正十字学園を卒業した設定

「君と本部で会うときは医務室が多いような気がする」

「……多分、多いかなーなんて……」

「……」

ベッドの上で起き上がり、苦笑を浮かべる名前の腕には見慣れた点滴。
ついでに今回は怪我もしたのか襟からは包帯が覗き、顔には小さな切り傷と擦り傷が痛々しく残っていた。
頬を掻く指も、細かな傷とひび割れた爪が目に留まる。
もらった報告書には味方祓魔師の攻撃に巻き込まれて負傷したとあった。
もちろん、討伐対象だった悪魔から受けた傷はあるだろうがそれにしては重傷じゃないか。

「ちゃんと薬飲んだから大丈夫かなって思ってたんですけど、途中でふらっときて……避けようとした味方の攻撃に当たっちゃいました……」

しゅん、と肩を落として俯き、今はピンで留められていない長い前髪の間からオレの顔を伺う。
怒っていたわけじゃない、心配していたんだ。
無意識に顰めっ面になっていたらしい自分の表情をなるべく柔らかいものにして名前の隣に座るようにベッドに腰かけた。
肩に手を回して引き寄せると、薬の匂いが強くなる。
オレが少しでも名前の傍にいてやれれば。
そうすればこの子は傷つくことは少なくなるのではないか。
もう既に体はぼろぼろなのに、これ以上傷つく必要はない。
きっと祓魔師であることをやめることはない、ならばせめて自分の目の届くところに。
いつまでも日本支部にいなくても、本部へいればいい。
異動させてしまおうか。

「名前、今から異動手続きしよう」

「はい?」

「聖天使團に異動してオレの下で動けばいい」

「何がどうなったらいきなりそうなるんですか」

「君が心配だから傍に置いておきたい」

肩を抱いたまま名前の頬に触れ、小さな傷の下を親指でそっと撫でる。
オレの言葉に白い肌を真っ赤にさせた名前は目を逸らした。
本人に自覚はないだろうが、目を逸らして眉尻を下げて唇を結ぶのは大分恥ずかしがっている時。
……まあ、顔がこんなに真っ赤ならそんな些細なことを知らなくてもわかるが。
オレも名前といられる時間が増えるからその方が嬉しいぞ、と畳み掛けるように言うと視線をこちらに戻して名前がへにゃ、と笑う。

「私も嬉しいです。けれどまだしばらくは日本で修業兼ねて頑張りたいな」

「ならオレが日本支部に、」

「いやいや、聖騎士でしょう……」

「君のためなら聖騎士じゃなくても祓魔師としてやれるさ」

「そこまでしなくても……!!」

できるさ。
聖騎士に拘らなくても名前の傍にいることができるのだから。
絶対だめですよ!ほんとに!!アーサーさんのこと好きですけど!聖騎士として輝いてるアーサーさんもっと好きですから!!
そう必死そうにオレを止める名前が可愛らしいなと思いながら傷に障らないように抱きしめた。

2023年7月28日