バイクの修理に来たけど店員に絡んだらタイキックされた灰谷兄弟

「絶対爆発したんだけど!?えっオレのケツ二つに割れてねえ!?」

「ひえ……!」

「爆発してねえし元々ケツは二つに割れてるっつーの。で、なんでオマエは逃げようとしてんだよ」

「逃げねえとねーちゃん同じことすんじゃん!!」

「そもそも店員さんに絡むんじゃねえ……よっ」

「いっだあああああああ!!」

「り、りんどおおおお!!」

「……え、えぐい……!」

「ここはただの地獄か……?」

今日はいい天気だなぁ、ツーリング日和ってのは私でもわかる、実際気持ちよかったし。
蘭と竜胆がツーリングしようぜ!とせっかくだから一緒にツーリングしていた。
行きは竜胆の後ろ、帰りは蘭の後ろの予定。
ちゃんと体冷えないように上着も着たし、自分のヘルメット被ってたし、蘭と竜胆もヘルメット被った、私の前でノーヘルしてたらラリアットじゃ済まさないところだ。
途中まではよかったんだよ、都内をツーリングしていたら蘭のバイクから変な音がするってんで一度停めた。
どうやら蘭と竜胆の手に負えるものではないから近くのバイクショップで見てもらおうかと提案したのは私。
予約も何もないから先に電話で飛び込みでバイク見てほしいって連絡して、そこまで押していったところまでもいい。
そこが蘭と竜胆の顔見知りの店って以外は。
私もひとりは知ってる顔だったわ、二年前にてるてる坊主量産騒動の時に頭下げた辮髪の男の子。
なんだっけ、龍宮寺だっけ。
ふたりはドラケンって呼んでたかな。
もうひとりは知らないな、綺麗な顔で火傷の痕がある子は一度見たら忘れないと思うし。
龍宮寺は何か言いたそうにしてはいたけれど、店員らしく対応しようとしていた。
うん、偉いと思うよ。
なのに蘭と竜胆があーだこーだ絡みに行くんだもんオマエらほんと私の前だってのに学習しねえな?なに?わざと?そんなに怒られたいわけ?
一触即発になりそうなところで近くにいた蘭のケツに思い切り蹴りを入れて止めた。
最近ね、通ってるキックボクシングのジムにムエタイの経験があるトレーナーさんが入ったんだわ。
蹴りが綺麗だったし驚くくらいサンドバッグが浮くもんだからぜひ教えてくださいとお願いしてものにした次第。
有名なタイキックって呼ばれる蹴りはバラエティー番組だから競技経験のない芸人さんに指導しながらやってるだけだから人には向けちゃいけないですよ、と丁寧に注意点も教わったんだよ。
ケツ押さえて仰向けで悶えている蘭を見て竜胆が逃げようと私から距離とったけど逃がすか。
竜胆にもちゃんと蹴り入れた、ふたりで絡んでいたのに蘭だけは不公平だもんな、あー私優しいなあ。
竜胆もケツ押さえて地面に転がったところでお騒がせします、と店員さんたちに頭を下げる。

「すみません、あの馬鹿共放っておいていいでバイク見てもらってもいいですか」

「アッハイ」

「タダイマ」

なんで顔青くすんのかな、私は蘭と竜胆に蹴り入れただけなのに。
それぞれ改めて店員さんが自己紹介してくれたので私も自己紹介した。
龍宮寺堅と乾青宗ね。
ねえちゃあん……ねーちゃああん……と泣き言聞こえたけど知らん、しばらく反省してろ。
バイトなのか正規の職員なのかは知らないけれど、龍宮寺と乾の手際はバイクをよく知らない私でもわかるくらいにはよかったと思う。
蘭がテメェ変な細工したら殺すからな……と地を這うような低い声で言っていたけど涙目で転がってるから覇気も何もねえな、目の前で乱闘起こしたら私がオマエを沈めんぞ。

「これならすぐ直せるんで少し待ってもらってもいいっスか?」

「店の中で座っていいんで」

「あー……興味あるんで見てても?」

「どうぞ」

ちょくちょく蘭と竜胆に乗せてもらうことはあるけれどちゃんと見たことはなかったな。
意外とパーツは大きいようで細かいし。
今度の絵にバイクも描き込もうかな、青空とバイク、映えるね。
蘭と竜胆は起き上がったけどケツ痛くて椅子に座れねえよ、なんてケツ押さえながら店の中に入っていった。
たくさんバイクあるし見るのも楽しいらしい。

「おねえさんは灰谷兄弟のお姉さんっスか?」

「従姉、今は同居してる」

「……え、灰谷兄弟と?」

「おねえさん苦労してそうっスね……」

そうなんだよめちゃくちゃ苦労してるんだよ。
成人してからか、六破羅単代のメンバーと飲んで帰ることが多いふたりだけど、数日前なんか帰ってきて特攻服脱いで全裸で廊下に倒れるように寝落ちしてたんだから。
私も寝る直前で面倒だったからそのまま放置した、そしたらふたり揃って鼻風邪引いてた。
従姉とはいえ全裸で廊下に転がって寝落ちするってどういうこと?どうしてそうなった?
他にも数え切れないくらいあるけど、苦労することなんて。
でも楽しいよ、なんて言えば龍宮寺も乾も目を丸くする。

「……まあ、あれくらいやらなきゃ灰谷兄弟とはやってけねえか」

「ドラケン何か知ってるのか?」

「前に東卍の下っ端がおねえさんの絵をぐちゃぐちゃにしちまっておねえさんにてるてる坊主にされてたんだよ」

「……人がてるてる坊主になる……?」

何言ってんのかわかんねえ、そんな顔した乾に龍宮寺は苦笑した。
それから龍宮寺はてるてる坊主量産騒動やばかったんだよなぁ、遠い目をする。
雨の日だったりすんのか?と聞く乾、なんか情報処理できてねえみたいだけど大丈夫?別に雨の日ではなかったけど。
それから龍宮寺と乾の手によって蘭のバイクの修理が終わった。
店の中にいた蘭を呼んでバイクのエンジンをかけて少し噴かせばさっきまでの異音は綺麗さっぱりなくなっている。

「へえー!なんか朝より調子いいわ」

「そりゃあよかったよ」

「会計するから中入ってくれ」

龍宮寺と乾に促され、バイクのエンジンを切って店に入った。
竜胆は相変わらずキラキラした目で陳列されているバイクを眺めている。
なんかおもちゃ屋さんのショーケース見てる子どもみてえだなあ。
会計もスムーズに終わり、ツーリングの続きしよ、と蘭と竜胆に腕を引かれヘルメットを被って竜胆の後ろに跨った。

「突然なのにありがとう。最初はふたりが変な絡み方してごめんね」

「気にしないでください、慣れてるんで」

「オマエら素敵なおねえさんいんだからあんま迷惑かけんなよ」

「ねーちゃんが素敵なのはいつもなんだよ」

「迷惑かけるわけねーじゃん。……いや、かけてるけど!」

それな。
ありがとう、と龍宮寺と乾に手を振ればぎこちなくもふたりは手を振る。
掴まってろよ、竜胆に促されたので腰に腕を回せば同じタイミングで蘭と竜胆はバイクのアクセルを回した。

「……なあ、兄ちゃんケツ痛くね?」

「めちゃくちゃ痛えよ。バイクが苦になんの初めてなんだけど」

「帰ったら冷やせば?」

「ねえちゃん他人事のように言うけどやったのねえちゃんだからな!?」

「マジで痛えんだけど!どうすんの飯食う時立ち食いじゃん!!」

「私立ち食いは立ち食いそば屋以外では許さねえから」

「ひっでえ!」

「鬼!」

「ちゃんと前見て運転しろ」

まあ夜もケツは痛いままだったのか、泣く泣くちゃんと食卓に座ってご飯食べながらめそめそしている蘭と竜胆がいた。


親戚のおねえさん
蘭くんのバイクから異音がするってんで近くのバイクショップに持ち込んだらドラケンくんとイヌピーくんのお店だったし蘭くんと竜胆くんが絡み出したので遠慮なくタイキック決めた。
若いのに大したもんだなあ、とか思ってる。
もしもふたりに何かバイク用品プレゼントするような機会があったらドラケンくんとイヌピーくんに聞くかもしれない。
立ち食いは立ち食いそば屋以外では認めないタイプ。

灰谷兄弟
ドラケンくんとイヌピーくんのバイクショップでふたりに絡んだらおねえさんにタイキックされてお尻押さえて地面に転がって悶えていた。
学習しないんじゃなくてもはや絡みに行くの不良の本能かもしれん、じゃなきゃこんなに頻繁にやられない。
ちゃんとお尻は爆発してないし元々二つに割れてるから大丈夫、家帰ったらふたりで腫れてねえ?って確認する。
酔っ払って帰ってきた時に特攻服脱いで全裸で廊下に転がっていた日があった、次の日鼻風邪引いたしおねえさんが寝る直前じゃなかったら多分全裸のまま引き摺られていた。

ドラケンとイヌピー
灰谷兄弟に絡まれたと思ったらおねえさんが目の前で灰谷兄弟にタイキック決めたからやべえ人が来たと思った。
ドラケンくんの脳裏にてるてる坊主量産事件が蘇るしイヌピーくんは人がてるてる坊主になるの?とスペキャになった。
この先おねえさんと付き合いがあるかもしれない。

2023年7月29日