牽制は目立つように

ただの飲み会だと思ったら合コンでした。
いや、あの、この歳で合コンはもうあれじゃない?
最近入ってきたばかりの人なんだけど、今日は予定ないからいいかーって思っていたらこれだ。
他に誘われた同僚も私のように「マジか」って顔している。
だってさ、吏来と付き合っているから合コンなんて興味ないんだよね。
正直合コンなんて大学時代くらいのイメージだったからなあ……
一緒に誘われた同僚も婚約している恋人さんいたでしょうに。
ただひたすらお酒を飲むしかできませんね……知らない人に話しかけられても話す気ないのに話すことはできないので。
うーん……吏来、LIMEしたら返信してくれるかな。
適当に声をかけてくる人たちを躱しながら吏来にLIMEを送る。
近くにいたら解散した時にでも合流したいなあ、こんなんだと楽しく飲めないしなあ。
そもそも、私と同僚を誘った人はどう見ても私と同僚をダシにしているような気がするんだよね……あまり好きな人ではないからなあ……仕事中はちゃんと話したりするけどさあ……
葛藤する、いい人でいたいと思うじゃない、人間って。

「ねえ、おねーさん!飲んで……ますね、すみません……」

「……名字さん、相変わらずすごい飲むじゃん」

「ちょっとした牽制になればいいかなって……」

私の席の前には空になったジョッキがたくさん。
こんだけお酒飲んでいれば「お酒飲んでるぅ?」みたいな絡みは少なくなると思う、経験則。
あーあ、いつも声かけない人のお誘いすんなり受けなければよかったな。
だったら吏来にLIMEして誘えばよかった……でも最近忙しそうだったしな。
とにかくひたすらビール飲もう……
でもなんであんなに誰でもいいんだろう、恋しがる人って。
……変に追及すると吏来にも刺さっちゃうか、やめとこ。
ビールを飲んで、それからおつまみをまくまく食べて、あっという間にラストオーダーの時間だ。
それまでの間にLIMEを見てくれた吏来から返信も来ていたの何度かメッセージのやりとりもした。
同僚も婚約者さんと連絡がついたのか、胸を撫で下ろしている。

「ちょっとぉ、ふたりだけ辛気臭くない?アタシが男性陣に声かけたんだからもっと楽しく飲もうよぉ」

……人って腹が立つと相手の顔面殴りたくなるんだなあ。
誘ったその人は、そんな言葉の後に「あ!でもふたりとも大人しいタイプだったもんね!」と付け足した。
元彼とは違って嫌な人だな。

「そもそも、合コンだって言うなら私も名字さんも来ないわよ。名字さん、お付き合いしている人いるし、私だって婚約者いるんだから」

「え!?本当のことだったんですか!?ごめんなさいてっきり嘘かと思ってェ」

「……名字さん、もうお店出ようか」

「うん、婚約者さん来た?」

「ええ、あなたは?」

「あと数分で来るって」

こういう時は相手にしないに限るよね。
私も同僚も財布から五千円札を取り出して、それからお釣りは結構なので、と上着と鞄を持って席を立つ。
呼び止められたような気がするけどさすがに無視しよう。
あの人、前の職場でもこういうことしていたのかな……なんか手段といい、嫌味といい、慣れていたけれど。
私たちは大人だからなかったことにしようか。
同僚は店の前で婚約者と合流し、そのままお疲れ様、と帰っていった。
手を繋いで、寄り添って、いいなあ。
こう、自分からアクション起こすのって苦手なんだよねえ。
吏来に幻滅されないか、とても心配になる。

「名前!」

「あ、」

吏来だ。
名前を呼ばれて顔を上げれば、吏来がいた。
少しだけ微笑むと、大丈夫だった?と首を傾げて私の顔を覗き込む。

「……なんかね」

「うん」

「普段仕事の話しかしない人に飲みに誘われたら合コンだった」

「それLIMEで早く言ってくれる……!?」

「いや、吏来も忙しいかなって……」

「平気、平気だから、名前のためならいくらでも時間つくるから」

もおー……それなら走ってくるからさ……と肩を落とす吏来に申し訳ないなと思いつつも、なんか嬉しかった。
自然と頬が緩みそうになる。
それも唇を引き結んで堪えていると、気づいた吏来が眉を下げた。

「……じゃあ、飲み直す?」

「うん……!」

「ちなみに今までは何飲んでいたの?」

「ずっと生ビール飲んでた、何杯かは忘れた」

「……俺の家、来る?」

今なら手作りのおつまみでも作ってあげるよ、と吏来の言葉に頷けば、吏来が私の手を取る。
あったかい。
ちょっとずつ握り返すように力を入れれば、吏来も嬉しそうな顔をしてくれて。
……いいかな、さっきの同僚みたいにくっついても。
ちょっとだけ、吏来にくっつくように距離を縮めてみた。
ふと、店から出てきた集団が目に入る。
私と同僚を誘ったあの人は、男性陣に置いて行かれてちょっとだけ肩を落としていて。
ぱちり、私と目が合う。
……自慢するわけでも、勝ち誇るわけでもないけれどさ。
私だって自慢の恋人がいるんだから。
吏来の腕に抱きついて、その人があんぐりと口を開けたのを見たらちょっとすっきりした。

「いつもより積極的だね?」

「恋人自慢したくて」

「……」

なんでそんななんとも言えない顔をしてそっぽ向くんだろうか。
あの人には見せつけたしいいか、と吏来から離れようとしたら「寂しいから離れないでね」と抱き寄せられた。

2025年11月15日