詐欺師は愛猫に嫌われている

吾輩は猫である。
名前はある、飼い主の名前に因んで〝ロク〟という。
最近飼い主じゃない人間が我が物顔でこの家に上がり込んできてちょっと不満である。
飼い主はいい、相変わらず吾輩の毛並みを整えてくれるしご飯もくれるし暖かい住処だって用意してくれている。
でもこの人間はダメだ。
飼い主はご飯を準備する場所や外に繋がる窓の外でたまにモクモク何かをしては変な匂いをさせている。
変な匂いは好きではない、けれどこの人間はもーっと変な匂いがする。
猫は匂いに敏感なんだぞ!
飼い主もモクモクやめてほしいけど、ご飯も住処も用意してくれるから……我慢してるんだぞ……

「お前俺の方に全っ然寄って来ねぇよなぁ」

うわあ来たあ!!
のんびり寛いでいた穴の中を急に覗き込まれ、思わず後ろに下がろうとすれば壁にぶつかって逃げ場がなくなって、そのまま丸くなるしかなくなった。
せめてもの抵抗で来るな噛むぞ引っ掻くぞと訴えれば溜め息を吐いて遠ざかる。
うう……飼い主はまだか。
水の流れる音が聞こえてくるからまだまだかかるのかもしれない、人間は身だしなみを整えるも大変だ、吾輩は念入りにぺろぺろするだけでいいのに。
視線を感じながら少しだけ固くしていた体から力を抜いた。
飼い主まだかな、そろそろ吾輩のご飯の時間だぞ。
パタパタと無意識に尻尾を動かしていたからか、あの人間のその尻尾を目で追っていた。
変な人間、猫でもないのに目の色が左右違うなんて。
いや、猫でも特別多くはないけど、吾輩は野良時代人間で目の色が違うやつは見たことない。
はあ……それにしてもお腹空いたなぁ、飼い主まだかなぁ。
なんて思ってると人間が動き出す。
なんだ?また吾輩のところに来るのか?
隅っこに縮こまりながら穴から観察すると、人間は飼い主がご飯を準備するところに行った。
それから聞き慣れた音……ご飯の封を開ける音ご飯のお皿が置かれる音、カラカラとご飯がお皿に乗る音……ご飯だ!!
高いところからピョンと降りて、その音がする場所へ行けばあの人間が吾輩のご飯のお皿を持って立っていた。
……う、うう……こいつから貰うのか……!?
飼い主は、飼い主はまだ出てこないのに……?

「ほれ、腹減ってんだろ。腹鳴ってんぞ」

目の前に置かれたのは飼い主が用意してくれるご飯で。
でも実際用意したのはこの人間で。
さらに言うなら吾輩、お腹ペコペコ。
人間の視線が刺さっていたけどそのままご飯に顔を突っ込んだ。
うん、美味しい、いつも通りのご飯だ。

「……猫の方が可愛げないもんかね」

ご飯用意してくれたことはありがとう。
けれど食べてる時に撫でるな!
わしっ、と大きな手を頭に乗せられた瞬間に威嚇した。

2023年7月25日