詐欺師とダイエットする②

「……」

「……」

「……天谷奴さん」

「言うな、皆まで言うな」

言うつもりはないんだけどさァ……
筋トレまではよかったんだよ。
運動前にストレッチして、解れたところでマシン使っての筋トレまでは。
天谷奴さんベンチプレスめっちゃ上げられんの凄かった、月並みの言葉しか出ないけど凄かった。
私もベンチプレスできるけどさすがに負ける、ほんと天谷奴さん何者……?
とまあそこまでは置いておいてだ。
筋トレの後にトレッドミルで走った。
ちょうど隣同士のトレッドミル空いてたし、お互いのペースは気にしないでやろうって決めて。
まずはジョギングのペースで、それから段々とランニングペース。
いつもより息切れがするのと、体が重い感じがして煙草の量も控えなきゃだめかな、なんて思って思い出すように横を見た。
そしたら天谷奴さんがなかなかしんどそうな顔で走ってる姿でした。
スピードの調整を見ると、私とあまり変わらないくらい。
……え、えー……?お互いのペースでって言ったじゃん……
とまあ、20分走ったし休憩……で冒頭に戻る。

「なんでお前はケロッとしてんだよ……ああ現役だからか?」

「まあそりゃそうだよね、案件によってはパンプスで走り回るし」

「……」

「はい水」

「……悪ィな」

ボトルを渡せば受け取ってくれた。
私も休憩にしよ、天谷奴さんの隣に座って肩からかけたタオルで汗を拭う。
汗も出が悪いからほんと年取った気がする……二十代の時はもっと汗だくになってたから。

「この後どうする?シャワー浴びて帰ろうか?」

「そうだなァ……おじさんキツいわ……なまったなぁ」

じゃあ帰るか。
そこからの行動は早かった。
ジムのそれぞれのロッカールームにあるシャワーで汗を流して、着替えた後にメイクで顔を整えてからジムのロビーに行く。
いやあドライヤーあると便利だね。
ロビーの一角にあるベンチで大きな背中が項垂れていた。
……お、おお……年齢が出てる……
鞄を持ち直してベンチまで駆け寄り、そのまま隣に座った。
するとずしりと私に天谷奴さんが寄りかかる。
めっちゃお疲れだ……珍しい……あれ、ってことは今とても珍しい天谷奴さんの一面を見ているのでは……?
髪も生乾きだし、そんなに疲れたのか。
天谷奴さんの肩にかかってるタオルでわしゃわしゃと撫でるように髪の毛の水気を取っていく。

「ジムじゃなくて夜に家のベッドで運動すりゃいいだろ……」

「何言ってんの」

運動の意味が違うっつの。
次の土日も来ようかな、と呟けば顔を上げた天谷奴さんが心底嫌そうな顔を浮かべた。
だって私の場合元の体重まで落とさないと仕事に支障をきたすし……
天谷奴さんは?と聞けば嫌そうな顔をしたまま俺も来る、と呟く。
無理に付き合わなくていいんですよ?

「ただ走んねえけどな」

「あ、じゃあエルゴやろエルゴ」

「……まあそれなら」

自転車ならいけるでしょー。
後日、エルゴでも肩で息をする天谷奴さんを見ることになるんだけどね。
週一とはいえ、ジム通いをして無事にお互い元の体重に戻りました。
……もう太らねえ、なんて天谷奴さんが呟いていた。
私も気をつけよ……

2023年7月25日