スゥゥゥゥゥゥゥゥ。
そんな音が合うだろうな。
名前の部屋に上がってリビングで見たのは飼い猫の腹に顔を埋めて深呼吸をする女の姿だった。
白い飼い猫が犠牲になっている。
そんな飼い主の姿を見た新参者の黒い飼い猫はキャットタワーの上で怯えたように身を縮こまらせていた。
白い方は所謂スペキャ状態。
丸い目をさらに真ん丸にして、飼い主にされるがままだ。
「あー……名前?」
「スゥゥゥゥゥゥゥ──」
「……うわ」
引いた。
悪ィが引いた。
仕事から帰ってきてそのまま飼い猫とっ捕まえて吸ってんだろう。
コートとハットをハンガーにかけて、それから台所へ入る。
飯の時間だってのに何もしていねえみてえだ、というか何もできねえだろうな。
冷蔵庫を開けば、上の棚にずらっとビールや缶チューハイが並んでいるだけで、飯らしいモンはない。
どーすっかなぁ、あ、棚にインスタントラーメンがあっから作ってやるくらいはできるか。
卵とネギとハムくらいはあるし、問題なさそうだ。
ゴソゴソと台所で準備をしていると、ぶみー、と可愛くねえ声で鳴きながら黒猫がやってきた。
お前のはねえぞ。
署に泊まるって言って、たまに洗濯や猫たちの餌を準備しに帰ってきていたくらいだ。
猫たちの飯はちゃんと用意されてるからお前別に腹減ってないだろ。
名前がボストンバッグに着替えやらなんやら詰め込んで出たのは数日前。
以前も似たようなことがあってから、猫たちの飯は自動給餌器やら給水器やら置いてあんしな。
なんなら自動掃除機も一緒に買ったからか、自分の洗濯や飯以外は本当に問題ない。
鍋に水を入れて火にかける。
黒猫はぶにゃぶにゃ鳴きながら俺の足に前足をかけてでかい体を伸ばした。
「あんだよ、お前の分じゃねーぞ」
「なぁーん」
「……あーはいはい」
適当にあしらってもよかったが、ずっと留守番してたんだから何か寄越せとばかりに訴える黒猫に棚にあった猫のおやつを取り出す。
個包装のスティックになっているウェット状のやつ、テレビでも名前のうちでも猫たちはこれが好きなんだってな。
お湯が沸くまで、黒猫にそれを差し出せば黒猫は前足で俺の手にしがみつきながら一心不乱にそれを舐めていった。
白い方はあまり俺に近寄ってこねえけど、黒いのは寄ってくんだよな。
……名前は特に言わねえけど似てるからだろうか。
お湯が沸いたのを見て、残った分を小皿に出して黒猫の前に置いてやる。
手早くインスタントラーメンを入れて、しっかり火を通してから卵を落としてネギとハムをトッピングした。
まずは名前の分からな、名前に簡単に飯作ったぞと声をかければぴくりと動いて顔を上げる。
……うっわ、めちゃくちゃ疲れてんなぁ。
心做しか髪も乱れているし、なにより顔色やべーわ。
「食えるか?」
「たべる……ありがと……」
覇気もねえな。
テーブルに作ったラーメンを置いてやるとのそのそと名前は起き上がって席についた。
その隙にと言わんばかりに白猫は逃げるように走り出し、黒猫だけおやつをもらっているのに気づいたのか台所に一直線。
にゃあにゃあなあなあ、白猫の文句を言っているような鳴き声が聞こえる。
「お疲れさん」
「ん……美味しい……」
「そりゃよかった」
向かい側に座り、名前の顔に白猫の毛がついているので手を伸ばして取ってやった。
その後、自分にもおやつ寄越せ!と白猫が俺の足に猫パンチをしたわけだが、白猫にも同じものを出してやれば大人しくしたとだけ言っておく。