名前は引きこもりというやつだった。
いや、家からは出るが範囲が狭い。
せいぜい家の周りか家の前の海辺だ。
よくも俺を見つけられたなと思う、あんな野性のポケモンがいるところまで。
名前が寝静まる頃に名前の兄がやってきては俺に話をすることがある。
名前は人間に対してあまり興味を持たない、俺を見つけた時もなぜだか制止の声を振り切るように草むらへ進んでしまったのだと。
だから、俺が良ければ名前の傍にいてやってくれと。
それに肯定するように応えたら次の日に名前に兄がモンスターボールを渡し、彼女が俺を捕まえた。
ボールの中は窮屈だが少しだけ心地よく、悪くはなかった、はず。
あまりボールの中で過ごすことはなく、兄に連れられてポケモンセンターに行く時だけで後は外に出ていた。
「あ、あった」
砂浜にしゃがみ込んで何かを探している名前が声を上げる。
その手には小さな青い欠片。
それを太陽に透かすように頭の上に翳して、それから小さく笑った。
珍しい、あまり表情も変わらないのに。
だが兄の言うにはもっと表情が乏しかったというのだからそれにまた驚く。
持ってきていた大きめの瓶にそれを入れて、カラカラと揺らす名前。
瓶の中は青の他にも赤や黄色の欠片が入っていた。
「たまにね、なみうちぎわのすなのしたにかけらがあるの」
あおいのはうみみたいでしょ?
楽しそうに笑う姿は何も変哲のない幼い人間の子どもだというのに。
みてみて、と俺の前に瓶を差し出してカラカラ揺らすもんだからそれを近づいて見る。
ああ確かに、青は海のようだし赤と黄色は混ざって太陽のような橙にも見えるな。
……人間に興味を持たないのではなくて、人間より自然やポケモンに興味を持っているのだろう。
兄はああ言っていた、確かに表情は兄や父母に比べると乏しく感じるが、何もないわけではない。
俺と話している時、こうやって何か欠片を探している時、生き生きしているじゃないか。
──なるほど、人間は自分らの中にあるものでしか他を測ることは出来ないのか。
『何も、それだけが測るものではないのに』
「?」
さすがに俺の言葉はわからないだろうが。
とりあえず撫でとけ、のように少し砂に塗れた手が俺の毛並みを撫でていく。
きっと。
きっと、こいつの世界が広がれば、もっと笑顔が見れるんだろう。
それがいつ訪れるかはわからないが。
わしわしと俺の毛並みを乱す名前の小さな手に寄り添いながら目を閉じた。