もしも高専時代のさしす組と出会っていたら⑧

「あ、いたいた。オマエらがコーセンの生徒?」

「なんだよオマエ」

「お姉さんの付き添いだよ。蘭と竜胆に聞いたんだけどね、なんかお姉さんがセンセーしているところって本人の意思総無視で見合いだの入籍だの手回しするようなやつらがいるんだって?そこの生徒ってどんなやつかなって思って無理言って着いてきたんだよ」

「……初対面で随分な口を利いてくれるね」

「イザナ、それ姉ちゃんにバレたらぶん殴られるやつ。この前のやつだってバレたら吊るされんじゃん」

「お姉さんいねーからセーフだろ万次郎。この前のもバレてねえからセーフ、バレなきゃなかったことと一緒なんだよ」

とんでもねえやつが来た。
色素の薄い髪と紫の目、褐色肌の男。
それから金髪猫目で背の低い男。
蘭と竜胆のこと言ってたから知り合いかもな。
名前さんは後輩たちの授業だからグラウンドに出ている。
なんだよこいつ、初対面で好き放題言い過ぎだろ。
ムスッとした顔を隠さないまま、俺と傑は目の前の男たちを睨んだ。
そんなのは意に介さず、目の前のふたりは同じ東京でも長閑だななんて話していた。

「オレは黒川イザナ、蘭と竜胆のチームの頭してた。こいつは弟の佐野万次郎」

「どーも」

「……五条悟」

「夏油傑。君たち何しに来たの?」

「言っただろ、コーセンの生徒ってどんなやつかなって見に来た。あとお姉さんが教師してるの見れたらなーって」

蘭と竜胆は女の子たちの買い物に行ってるからその代わりだよ、と見定めるように俺たちを見る黒川。
……蘭と竜胆より、強いかも。
こっちの佐野ってちっこいやつも。
名前さんの周りの人間は蘭と竜胆を始め俺の六眼でも見抜けない呪力と術式持ちだから、今さら驚きはしねえけどさ。
でもいたら高専も気づくと思う。
なんで気づかないのかがわからない、いや、俺の六眼でもわからないなら気づけねえか。
カラン、風で黒川のピアスが揺れる。

「喧嘩でも売りに来たのかよ」

「いいね。オマエらの訓練って称せば喧嘩していいんだろ?じゅじゅつしだっけ?面白そうじゃん」

「表出ろよ、やってやる」

「悟!」

「イザナ、マジで怒られるって」

オレ姉ちゃんに吊るされんのやだよ……佐野が黒川の服を掴むけれど黒川はそんなの知ったことじゃねえらしい。
傑も止めはするけれど神経逆撫でにされたようでそれほど止めはしない。
じゃあお姉さんにバレないところでやろうか、黒川の言葉にグラウンドから離れた校舎の裏へ移動する。
オレ知らねえからな!吊るされんならイザナだけだからな!
うーん……ここでも垣間見える名前さんの弟分への徹底的な躾っぷり。
いや多分躾しているつもりはないんだろうけど、あの人無意識に周りの弟分躾てるような気がする……多分絶対間違いない。
こいつら多分名前さんの家によく遊びに来てるやつらなんだろうな、前に泊まった時に蘭と竜胆以外の男モンのスウェットとか、三人暮らしにしては多い食器あったし。

「どーする?オレはふたり相手にしてもいいけど」

「傑は手ェ出すなよ、俺がやる」

「……まさかと思うけど名前さんにバレたら私も吊るされる?」

「アンタもオレも止められなかったからって連帯責任で吊るされるんだろうな、オレらきっと泣き叫ぶよ、姉ちゃんなら絶対やる」

「だよねえー……」

おいそこふたり揃って遠い目をすんなよ。
じゃあやろうかと、動き出したのは黒川が先だった。
蘭と竜胆の相手をしているから呪力も何もねえのに速く動く相手を見るのは慣れたつもりだ。
呪力使わねえって伏黒甚爾じゃねえんだよ、あんなゴリラたくさんいてたまるか!
あのふたりは警棒使ったり関節技使ったり、トリッキーで不意をつく攻撃が多かった。
こいつは純粋に真正面から来てる、油断はしねえ。
蘭と竜胆、名前さんには効かなかったけど無限でガードできっかな……自分で避けることも視野に入れて術式を使う。
案の定というか、そんなものなかったかのようにパリンと音を立てて割られ、鋭い上段蹴りが向かってきた。
避ければ頭上を掠め、ヒュンと風を切る音と黒川のピアスが揺れる音がする。

「こっわ!」

「蘭と竜胆ともやってんだろ?可愛いじゃねーか」

「佐野くん、もしかしてあのふたりが鑑別所に送り込まれたやつの関係者だったり……」

「オレもイザナもそれぞれのチームの頭だからめちゃくちゃ関係者だな。イザナは撃たれて入院していたから鑑別所には行ってねえよ」

「……私たちと同い年くらいのやつが撃たれるって何事?」

「喧嘩?」

「喧嘩とは」

まあイザナ撃ったやつは姉ちゃんがコンテナから逆さに吊るしていたけどな。
情報量ー!!
避けて攻撃してを繰り返していても自然と傑と佐野の話が入ってくるわけで。
こえーよ!なんだよ喧嘩で銃持ち出すって!

「ははっ!いいね!気圧上がる!!」

「上がんねーよ喧嘩狂か!」

試しに殴ってみれば簡単に当たった。
いや、こいつわざと殴られた。
口の中が切れてもこんなもん?と笑って黒川の蹴りを顔面に食らう。
いってえな!
こっちの術式総スルーってチートかよ!
蒼くらいやってもいいんじゃね!?
と、思って手を構える。
その時だ。

「なぁーんで黒川は五条と喧嘩始めてんのかなァ?黒川オマエ大人しくしてろっつったの聞こえてなかったのかそのピアス引きちぎって耳にぶっ刺してやろうか」

「ひっ」

「ねっ、姉ちゃん……!」

「あっ」

「やっべ」

「なぁーんで佐野も夏油も止めねえのかなァ?」

あちゃーと顔を覆った七海と灰原、それから、恐ろしく無表情の名前さん。
オレと黒川、傑と佐野の悲鳴が高専中に響き渡った。

 

「ごめんなさいごめんなさい兄貴を止められなくてごめんなさい……ぐすっ、ひっく……」

「すみませんでした親友を止め切れませんでした申し訳ありません」

「俺喧嘩売られただけ!俺無実!!」

「売ったけど買ったのこの白髪頭!」

「全員等しく悪いに決まってんだろ私が決めた」

私と佐野くんはそのまま近くの木に吊るされ、悟と黒川くんは逆さまに吊るされた。
佐野くんめちゃくちゃ泣いてるんだけど。
オレが兄貴を止められなかったからぁ……なんて顔ぐっちゃぐちゃ。
多分君のせいじゃないから……私も止められなかったし……というかそもそも喧嘩売った黒川くんと喧嘩買った悟が悪いから……

「つーかなんで私の弟分はいつもいっっっっつも喧嘩売りに行くの?在庫セールかなんかか?そんなもんさっさと廃棄処分しろ」

「だってお姉さんの弟分は蘭と竜胆とオレらなのに他にも知らねえ弟分いるっていうから!」

「五条と夏油は、つーかここのやつらは生徒だから。弟分もう要らねえよオマエらで腹いっぱいだし手一杯だっつの」

「万次郎聞いたか!?オレら弟分だってさ!」

「嬉しいけどぉ……そうじゃねえよぉ……うえぇぇぇぇん……」

わかる、とてもわかる。
そりゃあ慕っているお姉さんに弟分って言われたら嬉しい、けれど今はそうじゃない。
あああとね、最近硝子が名前さんから吊るし技を教わったから名前さんがいない時にくだらない理由で怪我すると私と悟は硝子に吊るされるんだよ。
それから私が保護して名前さんが引き取った双子のひとりの美々子もね、術式が相手を吊るすものでね、なんで周りの女性陣は吊るし技を極めようとするのかな?
いつか菜々子も吊るし技とか覚えてしまうのかな……美々子があの術式ならできなくはないよな……吊るすのとは無縁な術式だけど名前さんの娘になったんならないとは言えない、怖い。
ちなみに名前さんの授業があったらしい七海と灰原はこの有様を笑いながらケータイで写真を撮って任務行ってきまーす!と去っていった。
いつもより七海が愉快ですと言わんばかりの顔してた、多分悟のことだと思うけど。
佐野くんが可哀想なくらい泣いていたからか、早々に私と佐野くんは下ろされた。
ぐすぐすと泣いている佐野くんを慰めてやる。
というか佐野くんいくつ?え?七海と灰原と同い年?そっかあ。

「万次郎を下ろすんならオレも下ろしてよお姉さん!」

「そーだそーだ!全員等しく悪いなら俺も下ろせ!!」

「反省という言葉と無縁だからあと三十分そのままな」

「死ぬ!死んじゃう!!ごめんなさいもうしません!」

「ごめんなさいもう無闇矢鱈に喧嘩売りません!」

「それ何回聞いたか覚えてねえんだなあ」

逆さまになっているのをいいことに名前さんはふたりを小突いて揺らす。
怖い怖い!
こんなバンジー嫌だ!
そんな悲鳴に名前さんが耳を貸すわけもない。

「……姉ちゃんここでもあんな感じ?」

「うん。臨時教員として就任した初日五分で私たち吊るされたからね」

「うわあ」

「名前さんは佐野くんたちの前でもあんな感じ?」

「まあオレはイザナ程知り合って長くねえけどあんな感じだよ」

聞けば名前さんは佐野くんの妹さんを助けた恩人なんだとか。
例の関東事変だっけか、佐野くんの妹さんが殴られそうになったところに名前さんが居合わせて助けたんだって。
で、腕折れたけれど関東事変の真っ只中に乗り込んでそれぞれチームの頭であるふたりを吊るす前に掻き回した黒幕と共犯を逆さまに吊るすわワンパンで沈めるわ……待って名前さん本当に普通の一般人?

「オレの妹はイザナの妹だし、オレらは姉ちゃんに頭上がんねえの。尊敬してる、ああやって怒るところもさ」

「……わかるよ、私も名前さんの言葉に心が軽くなったことあるからさ」

呪術師の世界に入っていても、喧嘩ばかりの弟分たちに囲まれていても名前さんはずっと大人として私たちや彼らを怒ったり、助言をくれたりする。
きっと名前さんみたいな人は、探してもいないだろうから。

「そろそろ君のお兄さん助けてあげたら?」

「無理無理、姉ちゃんには敵わねえ。そういうアンタも親友助けてやったら?」

「無理だね、名前さんの横から口を出すだなんてさ」

それこそまた吊るされるかもしれないからね。
お互い遠い目をしながら悲鳴を上げているふたりと容赦のない名前さんを見て大きく息を吐いた。
余談だけど、私たちが吊るされた画像は硝子や蘭と竜胆に送られていて、それぞれ爆笑していたらしいよ。


親戚のおねえさん
蘭くんと竜胆くんがミミナナちゃんとお買い物に行っているので代わりに行くよと言った黒川くんと佐野くんを連れてきてた。
いやまさか二年生と一年生の授業中に喧嘩始めているとは思わないじゃん。
吊るしました。
硝子ちゃんの吊るし技と美々子ちゃんの術式を無意識に鍛えている人、他の人からしたら戦犯、とんでもねえしそのうち菜々子ちゃんも吊るし技覚えるよ!

最強コンビ
おねえさんの付き添いが知らないふたりで首を傾げていたら黒川くんに喧嘩売られた、五条くんが買った。
案の定最終的に吊るされたので止め切れなかったとはいえ夏油くんは五条くんに文句言っていい。
なんだかんだ五条くんは黒川くんと、夏油くんは佐野くんと仲良くなりそうな気がする。

黒川イザナと佐野万次郎
何?蘭と竜胆が付き添い行けないの?オレら行こうか?そんなノリで着いてきた。
本音はおねえさんに持ちかけられていたお見合いの件諸々でそいつらの生徒見に行ってやろって気持ちもあった。
案の定喧嘩売った、買われた、よし喧嘩しよーぜ!
止められなかった佐野くんは泣いていい。
関東事変ではエマちゃん無事、黒川くんが撃たれた後におねえさんが来たから救急車の手配が早かったので黒川くん無事、なぼんやりとした流れです。
ちゃんと黒幕と共犯は吊るされたしワンパンで沈められました。

灰谷兄弟とミミナナちゃん
何欲しいー?ねーちゃんがなんでも用意してやってって言ってたから好きなモン買おうなァ。

 

おねえさん二児のママになったんですよ今さらだけど、詳しくはいろんな伝手を使ったということで……
保護者仲間?ヒモは仲間じゃないんですよ?な感じで伏黒パパのお宅へ突撃訪問するおねえさんと灰谷兄弟の話も書きたいな……
メロンパンさんとお話をするお話も書きたい……

2023年8月3日