今日はいい天気だなぁ、雲ひとつない青空だ。
一緒に出かけたい!と言った蘭と竜胆が新品の服や普段あまり使わないブランドの化粧品を持ってきて私の話聞かないであれよあれよと私を飾り付けたのは三十分前の話。
サイズぴったりだし化粧品も私の肌に合うしなんなら私よりメイクするのがうまくてビビったけど。
ちょっとお揃いになっているところは脱帽する、用意周到だなオマエら、コンビネーションは喧嘩だけにしろとあれほど……
まあせっかくだしたまにはいいか。
ふたりに腕を引かれて街へ出た。
それはいつかできる彼女にしてやれ。
必要最低限のものが入った鞄は蘭が持っているし、竜胆は私が慣れないヒールで転ばないように気にしながらエスコートしてくれる。
ヒールまで用意してんの、ちょっと高いけれど可愛いしあまり痛くならないし、そういうところはできる男たちだよな。
「ねーちゃん足痛くねえ?」
「平気だよ、可愛いねこれ」
「だろ?オレと竜胆で選んだの」
コツコツと鳴る音も楽しいな。
出かける、と言っても慣れた街中ではあるけれどこうしていると特別なものに感じるな。
前より外に出る頻度は増えているけれど、三人で出るのは久々かも。
途中、気になった店に入って私がふたりに合いそうな服や靴を選んだり、反対にふたりが私に合いそうな服や靴を選ぶ。
時折蘭と竜胆の意見がぶつかるのは少し多目に見よう、せっかくのお出かけだしこんな可愛い服で乱暴なことはしたくないし。
周りに迷惑かけなきゃいいよ。
テイクアウトできる店で三人揃ってコーヒーやらカフェラテやら手にして歩き出し、店のディスプレイで足を止めては話をする。
うん、いいな、こういうの。
ふたりの舎弟というか下についているそういう男がたまに挨拶してるの見て、ほんとにこのふたりカリスマって言われてんだなって実感した。
だっていつも私の前ではただの年相応な男の子だ、やんちゃで甘えん坊で、怒られることの方が多い。
「ねえちゃん、連れて行きたいとこあんだけどいい?」
「ねーちゃん絶対気に入るところなんだけどさ」
そんなふたりに連れて行かれたのは美術館だ。
個展を開くことはあれど、美術館なんて行ったのはかなり久しぶり。
複数の展覧会をしていて、展覧会ごとに観覧料がかかるから全部見ようとすればそれなりにいい値段になる。
私が鞄から財布を取り出そうとする前に蘭が人数分の支払いをしてしまった。
いや、ほんと、そういうところはできるんだよなあ。
一歩踏み入れて、思わず「わあ……」と声が出てしまう。
だって、世界が変わるような感覚がするんだよ。
広いけれど、限られたこの空間だけ違う。
そんな私を見て蘭と竜胆が嬉しそうに表情を緩めた。
「ねーちゃんの好きなように回ってよ」
「オレらねえちゃん以外の絵とかわかんねえけど、ねえちゃん見てれば楽しいからさ」
「めちゃくちゃゆっくりだけどいい?日が暮れるレベルで」
「もちろん、ねえちゃん楽しんで」
「オレと兄ちゃんついてくから」
そんな顔したら甘えるぞ。
入口にあったパンフレット片手に順路通りに足を進める。
美術館って絵だけじゃないんだよ、彫刻なんかもあったりするし、建物自体が芸術だったりする。
絵や彫刻、有名な芸術家や建築家の手がけた建物の模型。
絵だって私がいつも描いているようなサイズじゃなくて、大きな絨毯かと思うようなサイズのものだってあって、その世界に惹き込まれる。
あくまで私は絵師だから、絵を描くのが好きなだけだったのがいつしか売れただけだから、こうなりたいとは思うことは少ないけれど。
でも、こうやって自分の描いた絵が飾られて、それにいろんな人が惹き込まれたらとても嬉しいだろうな。
館内ではお静かに、なんてところどころに書いてあるからか、蘭と竜胆が私に声をかけて話をするのは小声。
私も美術や芸術特有の言葉に詳しい訳じゃないけれど、絵について話をするのはとても楽しい。
「……ねーちゃん目がキラキラしてる」
「わかる。なんか子どもみてーで可愛い」
「それな」
そりゃ目がキラキラする自覚もあるわ。
ひとつの展覧会を見たら次の展覧会へ、やっぱり財布出す前に蘭か竜胆が支払い終えるから立つ瀬がねえんだけど。
それに関して少し唇を尖らせて言えば、デートは男の奢りだろ?と言われた。
のんびりゆっくり、楽しみながら歩いていればいつの間にか全部の展覧会を回っていて、最後のところでは私もよく描く空の絵もあった。
しかもここ、天井いっぱいの空の絵もあって、本当にその空の下にいるみたいな感覚になる。
いいなあ、今度大きなキャンバスか紙を買って好きなように大きな空を描きたいな。
青だけじゃなくて、蘭と竜胆みたいな色や、なんなら私みたいな色も取り入れて描いたらきっと楽しい。
「やればいいじゃん」
「いいな、でっけー空の絵。ねえちゃんが描いたやつ見てみたい」
思ってたことが口に出てたらしい。
なんか恥ずかしいな、でも、やりたいな。
最後の展覧会を見終えて、美術館を出る前にミュージアムショップに立ち寄った。
どうせなら何か欲しいね。
ふたりにもいつものメンバーにお土産買っていけば?と声をかければ楽しそうに品物を見ていく。
せっかくだからあの天井いっぱいの空の絵がポストカードになってるやつとか、キーホルダーとかないかな。
いくつか手に取ってはカゴに入れていると、ふたりがいくつかインテリアオブジェを持ってきた。
聞けばいつものメンバーにあげるらしい、うん、まあ、個性的なものを選ぶ予想はしてたわ、相撲取りのスノウドームとかウケ狙いに買いそう。
何これとかわかんねえけどウケるとか、笑いながらカゴの中へ。
私もポストカードや表紙が美術館デザインのクロッキー帳、シャーペンや消しゴムを追加でカゴに入れて選び終わった。
ミュージアムショップっていい値段のものが多いんだよね、さすがに自分用のものはお金出した、いくつかの袋に分けられて、それは蘭と竜胆が持つ。
すっかり日も暮れて、閉館時間になった美術館を後にして私たちは夕飯に行こうと家の近くのレストランに向かった。
「ねえちゃん楽しかった?」
「凄く楽しかった、ありがとう」
「よかったー!兄ちゃんと話は前からしてたんだよ、一緒に出かけてえなって」
それぞれ食べたいものを頼んで、談笑して過ごす。
うん、めちゃくちゃ楽しかった。
いつもとは違う服装で、メイクで、ふたりにエスコートしてもらって、好きな空間に行くのは楽しい。
「また行きたいなあ」
そう零せばふたりは嬉しそうに笑って「行こうな!」と口にした。
親戚のおねえさん
灰谷兄弟にあれよあれよと服をコーディネートされ、メイクされ、エスコートされてお出かけした。
凄く楽しくて、あまり表情変わらないのに自然と綻ぶし、ふたりに子どもみたいと形容されるくらいには、楽しかった。
また行きたい、美術館じゃなくても六本木じゃなくても、ふたりと出かけるのはとても特別に感じて好き。
灰谷兄弟
おねえさんに似合う服や靴、化粧品を選んでコーディネートしてエスコートしてデートした。
着ている服の色やスタイルがお揃いなのは外せない。
どうやったらねえちゃん喜んでくれるかな?何がねーちゃん好きかな?とそれなりに日数使って計画してた。
美術や芸術はわかんねえけど、おねえさんが楽しいのはわかるからよし。
ちなみに展示物を模したオブジェは六波羅単代のメンバーにお土産として渡されるし、こっそりおねえさんと三人でお揃いのコップなんかも買ったりしてた。
次はどこに行こうか?