「待ってオレら無実だってええええ!!」
「引っかかって取れねえんだけど!!」
「足!足浮いてる!!マイキー助けて!」
「ごめんなさいごめんなさい弁償するんで許してください」
「うっわ……」
「無実だと思わねえし許す気もねえからそのまま売られろよ」
今日はいい天気だなぁ、たまに太陽隠れるけれど。
まっさらなスケッチブックにデカデカと言葉を書いて、絵を展示するのに使った紐を結びつけてぶら下がっている四人の首に順々にかけていく。
書いてある内容は一緒、私はギャラリーで暴れました、って一文と値段、こいつらワンコインでいいよ500円。
いつもと違うギャラリーで個展を開きましょう、知り合いが声をかけてくれたしいつもと違うところってのが魅力的で二つ返事でおっけーした。
そこはいい。
いつものように蘭と竜胆が手伝いに来てくれて、最近何か壊したり揉めたりもなかったから助かる。
そこはいい。
見たことある男の子が派手な頭の男の子ふたりと個展に入ってきた。
そこまではいい。
そこまでな。
まさかふたりとその男の子たちが梵とは別のチームで対立しているからってここで乱闘おっぱじめようとしなけりゃな?
ギャラリーの中だろうが外だろうが関係ねえわ、吊るした。
追加で絵を展示しようとしたフックが四つ余っていたから順番に吊るしたんだわ。
お互い掴みかかってたから後ろから膝に蹴りを入れて怯んだ隙に襟首を引っ掛け、今に至る。
見たことのあるポンパドールの男の子は引いたような顔してた。
あ、ちなみに一度ギャラリーは閉めたよ、準備中って札かけて。
知り合いもスタッフも顔青くしてたけど、私が収拾つけるんで、と声をかければご飯食べに出ていった。
「吊るされた兄弟リターンズなんかでどうかな、人生二回目のオブジェ自信作なんだわ」
「ぜってーやだああ!!」
「そんなリターンズいやああ!!」
「よかったな、ワンコインだからすぐ買ってくれる人いるよ。大切に飾られてね」
「マイキー!マイキー助けて!!売られる!!オレ売られちゃう!!」
「オレの価値ぜってーワンコイン以上なんで!勘弁してください!!」
「……お、おねえさん……すみませんっした、もう三途も九井も暴れさせないんで下ろしてやって……」
マイキーと呼ばれた男の子が私の服を掴んで言う。
本来ならオマエも吊るすところだぞ、フック足りねえから無事なんだぞ。
じとりと男の子を睨めば、男の子は肩を跳ねさせて私から一歩引いた。
全くさァ、血の気が多いんだよ最近のクソガキ共は。
いっその事献血に出せば大人しくなるんじゃねえかなぁ、世の中に貢献するし大人しくなるしで一石二鳥、やったね。
倒されたテーブルやパンフレットを片付けていると、男の子が屈んでそれを手伝う。
びくびくしながら私の顔色を窺いながら。
吊るされた四人はべしょべしょと泣き始めているけれど知らん、しばらくそのままでいろ。
粗方片付いたところで大きく息を吐く。
絵はだめになったものはない、いいのか悪いのかよくわかんねえけど。
時計を確認すれば、そろそろ知り合いやスタッフも帰ってくる頃だろうな。
べしょべしょの顔をした四人を下ろせば、首からかけられたものはそのままに自然と正座した。
蘭と竜胆は深々と頭を下げてごめんなさい、すみませんを繰り返す。
シュールな光景なのは今さらだ。
「こ、このババア!!」
「あっ馬鹿三途!」
「やめろ返り討ちにされんぞ!」
「ふーん……」
吊るされただけじゃ堪えなかったと見えるな。
正座していたところから私に掴みかかってこようとする顔は綺麗なやつに向かって遠慮なく足を振り上げた。
「ナマ言ってすみませんでしたおねえさま」
「ねえちゃんやめてあげて!!下ろしてあげて!!可哀想!」
「可哀想!さすがに可哀想!!磨きかかった蹴りは可哀想!」
「吊るされた後に金蹴りしてまた吊るすの可哀想!!」
「おねえさん!ほんっっっとにごめん!!許してやって!三途可哀想!!」
「サンドバッグ家に欲しいなあ、ちょっと吊るすと高さちょうどいいよね。あ、部屋にそんなスペースねえかーうっかりー」
もう一度フックに吊るした内股の男の子を横目にスケッチブックに文字を書いて二枚目を首からかける。
値引きセール、100円。
どうせなら持ってってくださいにすればよかったかな。
暴れた挙句初対面の人間をババア呼ばわりするやつにはこれくらいでも足りねえわ、私は100円でもいらねえ。
可哀想可哀想と連呼されすぎて可哀想のゲシュタルト崩壊が起きそうなんだが。
無事だった四人が私に縋り付いてくるのを引き摺りながら他のフックに絵を展示していく。
ここの壁は時間で変化する空を描いた場所だから、こうやって並べると統一感あっていいよね、人も混ざってるけどそれはちょっとしたアクセントってことで。
「びっくりなんだよなあ……人目気にせず暴れんの」
絵の下にタイトルを貼り付けながら淡々と言う。
「やんちゃすんのはいいけどTPO弁えてやれよなあ……いやーびっくりびっくりー」
最後に三途と呼ばれた男の子の下に手書きのタイトルを貼った。
吊るされた馬鹿、値引き交渉可。
「そんな抑揚のないびっくりがただの恐怖でしかない」
「灰谷兄弟いつもこんなんやられてんの?ただの処刑じゃねーか」
「今日は一段とサービスされ過ぎてるわ!しかもセール中!!」
「ねーちゃん舐めんなよ!?サウスでさえ沈められてんだから!!」
「六波羅単代に同情しかない件について」
「ほんとそれな」
「…………ケテ……タスケテ……」
いろいろと言いたいことはあるけどスルーの方向で。
あーひと仕事終えたわー。
ちょっと休憩しようかな、と思ったら吊るした三途が私の袖を掴んだ。
縋るような子犬の目をしてる。
「大丈夫、私の個展に来る人は九割いい人だから大切に飾ってくれんよ。一割は変態かもだけど」
「やだああああ!!ごめんなさい!ごめんなさいおねえちゃんもうしません!!」
「ごめんなさいもすみませんももうしませんも聞き飽きてるし人は過ち繰り返すのも知ってんだわ」
「ほんと!ほんとにしない!!おねえちゃあああん!!」
「は?何あいつねーちゃんをおねえちゃんって呼んでんの?」
「そのまま吊るされとけよ」
「何?吊るされた兄弟リターンズしたいって?」
「ごめんなさい」
「すみません」
どうしよっかなー、なんて考えていると九井と呼ばれていた男の子が私の肩を叩いた。
振り向けば肩を跳ねさせたけど、九井はひとつの絵を指差す。
ああ、あれね、一番大きく描いた自信作。
「あの、あれ買うんで三途下ろしてくれませんか……」
「……あれそれなりにいい値段だけど」
「あれがいいんです!この中で一番綺麗だから!!」
なあボス!と話を振られたマイキーも首が落ちる勢いで頷いた。
そこまでされたらなあ……
ぎゃんぎゃん泣き喚く三途を下ろしてやると、三途はマイキーに泣きつく。
さすがに可哀想だからなのか、よしよしと撫でる様子は寂しがっていた子犬を慰める飼い主みたいだ。
その後、九井と絵を購入してもらう時の注意点や支払い方法を話し、その場はなんとか収まった。
絵が九井のところに送られるのは個展が終わってから、SOLD OUTと赤字で書かれた札を絵のタイトルのところに貼っておく。
「おねえさん」
「ん?」
「今度はちゃんと静かに個展に来る」
「そうして」
「騒がせてごめんなさい」
ぺこりと深く頭を下げたマイキーと、まだ涙目の三途と、ちょっと満足げな九井をギャラリーから見送った。
蘭と竜胆は何か言いたそうにしていたけれど、個展を再開するからと言えば奥の控え室に引っ込んでいく。
あーなんか疲れたなあ、でもあの絵が誰かの手に渡ったと思うと嬉しかった。
親戚のおねえさん
乱闘起こしそうになっていた灰谷兄弟と三途くんと九井くんを吊るした。
フックが余っていたら佐野くんも吊るしていた。
私の周りにはTPO弁えないクソガキしかおらんのか。
流れとはいえ絵が購入されてちょっと嬉しい。
未来ではおねえさんの絵は犯罪組織の取引に使われるんですよ、今は知らない。
灰谷兄弟
三途くんと九井くんと乱闘起こすかと思ったら吊るされた兄弟リターンズになった。
今日は何も壊してねえよ!?そこだけ自慢できるけど違うそうじゃない。
ワンコインで売られそうにもなった、500円。
総代がおねえさんに沈められたことぽろっと零しているけどそれが三天に恐怖しか与えないことをわかっているようでわかってない、だってねえちゃんだからなあ。
一番綺麗なおねえさんの自信作が目の前で買われてちょっと複雑、いーもんねーちゃんの絵はオレらたくさん見れるし!
関東卍會の皆さん
灰谷兄弟と乱闘起こしそうになった三途くんと九井くんは吊るされた、ババア呼ばわりした三途くんは蹴り上げられてまた吊るされて値引きされた。三途くん100円。
佐野くんはフックが足りなくて吊るされるのは回避。
三途可哀想だけど六破羅単代もっと可哀想……佐野くんと九井くんシンクロした。
三途くんはギャン泣き、おねえちゃんって素で呼びそう。