「本っ当にごめんなさい……」
「片付けようとしてたんです……」
「思ったより散らかしてしまったんです……」
「すみませんでした……」
「そもそもそんなに大掃除レベルの片付けにならないようにしようとか思わねえのかクソガキ共」
「すんません、せめて……せめて灰谷たちを解放してやってください……」
「ぴくりとも動かねえの心配なんで……」
今日はいい天気だなぁ、少し湿度高くてジム終わりには不快だけど。
ジムから帰ってきたらリビングがめちゃくちゃ散らかっていた。
いや、片付けるなら好きにしていいとは言った、私だけの家じゃねえし。
出前のピザ頼もうが昼間っから酒盛りしようが煙草吸おうが別にいい。
ただ、めちゃくちゃ酷い散らかり具合で私が帰ってきたからって焦って片付けるのはあまりにも遅いし馬鹿だし、オマエら……
ビニール袋片手の全員が急いでゴミを纏めようとしていたんだろうけど、もう見ちゃったしさ。
何なの、まだ夏前なのにもううちは年末なのか?大掃除ってか?アホか?
片付けしながら好きにしろ。
ジムで習得したてのグーと蹴りをそれぞれの腹に入れて床に沈めた。
蘭と竜胆は積んでその上に乗る。
ぴくりとも動かないのはそりゃ思い切りグーパンしたからな、腹に。
腹を押さえて蹲る残りのクソガキ共に一言、片付け、と言えば慌てたように素早く片付けを始めた。
私と顔を合わした直後のアルコールで真っ赤になった顔はあっという間に真っ青。
鶴蝶は今回飲んでないようで最初から真っ青だったけど。
手際の良さになんでそれを最初からしなかったのか私には理解できない、なんで?
寺野と望月は纏めたビニール袋を持ってマンションのゴミ捨て場に行ってくると駆け足で出ていったし、斑目は缶や瓶を持って台所で濯いでいるし、鶴蝶は廊下の収納棚から持ってきた掃除機をかけている。
蘭と竜胆?相変わらず私の足の下で動かないわ。
一度ふたりの上から下りてつんつんと強めにふたりの頭をつついた。
「……はっ!ね、ねーちゃん……!」
「おっ、おかえり……!」
「ただいま」
竜胆も顔を上げれば、その動きで上に乗っかっていた蘭も顔を上げる。
それからふたりで私を見るとサッと顔を青くした。
おーおー、私が何言いたいのかわかんのかな?
「……」
「……」
「……」
「い、言い訳は……」
「していい……?」
「したところで意味あると思う?」
「思わないです」
「ごめんなさい」
訓練した覚えはないけれどふたりは姿勢を正すように正座をすると深々と頭を下げた。
ふたりにも片付け、と言うと素早く立ち上がってそれぞれ斑目と鶴蝶の手伝いに行く。
私はその間に着替えてシャワー浴びようかな。
部屋に戻り、鞄からタオルやアンダーウェアを取り出して部屋着を持ってから脱衣所へ。
洗濯機に突っ込むものは突っ込み、服を脱ぐ前にシャワー浴びてるから、と声をかけて風呂場に入った。
全くさあ、散らかし方にも限度があるでしょうよ。
手早く髪も体も洗って、少し温めのシャワーで温まってから出る。
部屋着に着替え、ドライヤーは後にしようとバスタオルで髪を拭きながらリビングに戻れば、全員正座していた。
それを横目に台所でコーヒーを淹れ、今日の作業を考えながらマグカップ片手にもう一度リビングへ。
「何してもいいけど度が過ぎていたとは思わねえ?」
「めっちゃ思います……」
「すみませんでした……」
「以後気をつけます……」
「申し訳ありません……」
蘭と竜胆以外も訓練してねえのに見事な頭の下げ方だな。
つーかそう思うなら最初からするなと……言おうと思ったけどやめた、言ってもこいつら絶対繰り返す。
まあ年相応っちゃ年相応だけど。
そこが憎めないっちゃ憎めねえ、やんちゃな弟分がたくさんいると苦労するわ。
……それが悪くねえなって思うところ、私も見事に毒されてるな、あー変わるって怖いねえ。
はあ、と大きく息を吐く。
それに私より体格のいい全員が肩を跳ねさせるけど、知らんわ。
「昼間っから酒盛りしてたってことはオマエらもう外出ねえだろ、バイク停まってんのは見えてたからこれで帰るっつったらもう一発やるけど」
「姐さんの前で飲酒運転はしません」
「またラリアット食らいたくねえんで!」
「じゃあ泊まりでしょ、まだ夕方前だけど……飯食うなら手伝いして」
もう怒ってねえから続きしなよ。
私は作業あるから部屋戻る、そう言ってマグカップ片手にテーブルにあったお菓子をひと袋だけもらって私は部屋に戻った。
部屋に行けば、リビングからはぎこちなくも場を再開する声が聞こえる。
昨日の続きしちゃおう、次の個展まで時間あるし、最近買ったパソコンとカメラでメイキング撮って投稿サイトに上げるのも楽しいし。
さあやるか、とローテーブルに向かって筆を取った。
「……ね、ねえちゃーん」
「ねーちゃん……飯作ったんだけど……」
ドアをノックされる音で我に返る。
壁の時計を見れば、もうすっかり夜になっていた。
やば、めちゃくちゃ没頭してた。
慌てて筆を置いて乾いてしまった髪を簡単にヘアゴムで括ってから部屋のドアを開ける。
蘭と竜胆が困ったような顔をしていた。
「ごめん、夢中になってた」
「だと思った」
「邪魔してごめん、あいつらと飯作ったんだけど部屋で食う?」
「いや、ちゃんと向こうで食べる」
ふたりに腕を引かれてリビングに向かう。
いやそんなことしなくてもちゃんと行けますけど。
めちゃくちゃ没頭してご飯のこと忘れてた、そう言えば蘭と竜胆は集中してたからあまり声かけられなかったと言いながらオレらが作ったんだ!と得意げに笑う。
この前みたいに電子レンジ爆発してなけりゃいいよ。
電子レンジのことを引き合いに出すと、ふたりはバツが悪そうに視線を逸らした。
ちなみにちゃんと買い換えたし、今度は取説は台所に纏めて置くようにしたし、もう爆発することはない……と信じたい。
リビングに行けば、寺野は既に缶ビール開けてたし、望月も斑目も食べ始めたし、鶴蝶だけが私を待っていた。
気にしないで食べ始めればいいのに。
「もしかして出前も取った?」
「サウスが出前分奢ってくれるって言ったから、適当に作ったのと出前取ったのと両方な」
「煮物なんかは作り置き出した!偉いだろ?」
偉い偉い、頭を撫でてくれと言わんばかりに身を屈めたふたりの髪を乱すように撫でればふたりは嬉しそうに笑う。
「姐さんは飲むか?」
「遠慮しとく、今日は作業するから飲んだら寝ちゃう」
「あ?姐さん酒よえーのか」
「そういやオレら来てる時飲んだことねえな」
「ねーちゃん弱いよ、缶チューハイ一本開けたら顔真っ赤」
なんだよ飲めねえのか、なんて缶ビールを煽りながら残念そうに言う寺野に悪いねと口にした。
ソファーに座り、皿と箸を手に食事に手を伸ばす。
……なんか、焦げてる肉っぽいのあるけどこれは何を作ろうとしたんだろう。
まあいっか、私を待たないでこいつらが作ったり用意したりしてくれたものだから、文句なんてないし。
いただきます、とちょっと焦げた肉っぽいものを口にしたら焦げの苦味に噎せれば鶴蝶が慌てたような声を上げる。
いや、うん、食べるから気にしないで。
こいつらに飯の作り方教えることになりそうだなあ、なんて思いながら食べ進めた。
親戚のおねえさん
ジムから帰ってきたらリビングが凄い有様になっていたので灰谷兄弟+αにそれぞれグーパンや蹴りを決めて床に沈めた。
ピザの容器や缶や瓶、食べかけのスナック菓子がこんなに散らばるなんてどんな食べ方したんだ……
全員が綺麗に揃った正座をするけど特に訓練した覚えはない。
ちなみにおねえさんが食べた一口目は鶴蝶くんが作った野菜炒めでした。
他にもそれぞれ用意してくれたものがたくさんあるので選び放題。
灰谷兄弟
六破羅単代メンバーと昼間っから酒盛りしつつ食べ散らかしてたらおねえさんが帰ってきて、慌てて片付けようとしたけど間に合わなかった、床に沈めた挙句竜胆の上に蘭が積まれて乗られた。
やっちまった感半端ない。
おねえさんが部屋に引っ込んでからは散らかさないように再開した。
ご飯の支度をする時間に声かけても生返事だけだったので作ったり出前取ったりで夜ご飯の用意をした、偉い!?
おねえさんに撫でられてご満悦。
味噌汁作ったり煮物出したりしたのはこのふたり。
六破羅単代の皆さん
全員おねえさんによって床に沈められた。
他人の家ではお行儀よくしましょう、と物理的な指導された。
出前は寺野くんの奢り、飲み物は望月くんと斑目くんが買いに走ったし、焦げの多い野菜炒めは鶴蝶くんが作った。
今後灰谷家でご飯作ったり家事したりと自然とおねえさんに叩き込まれる未来があったりなかったり。