もしも灰谷蘭とそういう関係になっていたら②

目を開けると目の前にドアップの蘭の顔があった。
びっくりした……そうだ、昨日一緒に寝たんだわ。
なんか慣れない寝心地だなと思ったら蘭のベッドだ。
いつも布団の私にベッドはまだ慣れない。
すぅすぅと寝息を立ててる蘭を起こさないように体を起こしてカーテンに手をかける。
勢いよく開けはしないけれど、外を見れば今日もいい天気、晴れだ。
このまま起きようとも考えたけれど、昨日は作業を遅くまでしていたからなんだかまだ寝足りない。
時計を見てもまだ早朝だし、もう少し寝ていようかな。
のそのそともう一度ベッドに潜り込み、ふと蘭を見て起こさないように蘭の腕を動かした。
あれだあれ、ガキの頃に蘭と竜胆がやってたやつ。
寝てる私の腕に潜り込んできたことあったから、それやってみようかなと。
開けた蘭の懐に潜り込んで、蘭の腕を私の背に回るように位置を調整する。
うん、これでよし。
今では私の方が小柄だから、蘭の腕にすっぽりと収まるな。
足下が少し肌寒いから、自分の足を蘭の足に絡めれば少し身動ぎするけれど起きる気配はない。
温かいなあ、凄く心地いい。
そりゃ寝るわ、気持ちいいもん。
名前、と呼ばれた気がしたけれど、もう瞼は下りていたし上げる気はなかったのでそのまま睡魔に身を委ねた。

 

「名前が可愛すぎてどうしよう」

「はい解散」

「お疲れっしたー」

「頼むからちょっとは聞いてやって!オレだけじゃ捌けねえの!!」

「竜胆が聞いてやれよ、ふたりの弟だろ」

「さすがに蘭と姐さんの恋愛事情はなぁ……姐さんのイメージ崩れちまうし」

「頼むから!!オレ胸焼けするの!ねーちゃんからも聞いたりするから一番胸焼けするの!!」

オレの胸焼けなんとかするためにここにいろよ!!そう竜胆がモッチーと斑目を引き止めていた、ウケる。
六破羅単代のアジト、下っ端なんかが近寄り難い場所で、極悪の世代だけで集まっている。
もっぱらオレの話してるだけだけどな。
いやだって今朝やばかったもん。
名前の方が起きるのは早いけど、まさか二度寝キメる時にオレの腕に潜り込んでくるとは思わねえじゃん、足を絡めてくるとは思わねえじゃん。
手ェ出さなかったオレ偉くね?偉いだろ?
つーか顔覆うしかできなかったわ、可愛いが過ぎる。
今では大分慣れたけど、オレがねえちゃんから名前って呼び方変えた時の話してやろうか?
めちゃくちゃ顔赤くすんだぞ?すげー苦虫噛み潰した顔して顔真っ赤にすんの、器用かよ。
手を繋ぐようになってからだって、抱きしめるようになってからだって、名前すげー顔赤いの。
それが可愛くてからかってるとたまにオレにもやり返してくるけどさ、それも可愛い、オレの名前が可愛い。
そんなこんなでひたすら名前が可愛い話をしていると、竜胆とモッチー、斑目は胸を抑えていた。
なんだよ、可愛いだろ名前。

「素直に謝るわ、逃げようとしてごめんな竜胆」

「これが胸焼け……焼肉食べ放題でも味わったことねえのに……」

「オレこの二倍は胸焼けしてる」

名前の可愛さで胸焼けだってよ、ウケる。
そんだけ可愛いだろ名前はー。
オレしか見てねえって思うと自慢できんな、もっとしてやろ。

「つーかよォ、ぶっちゃけどこまで進んでんだよ姐さんと」

「……え」

「オマエのことだからやることやってんだろ?どうなの」

斑目の問いに自分の顔が熱くなるのを感じた。

「…………ねえ」

「あ?」

「だから、その……キス、までいってねえ」

思ったよりも小さな声で言えば、モッチーと斑目が信じられないものを見るような目でオレを見て声を上げた。
あの!蘭が!?
まさかキスもしてねえの!?
竜胆は呆れたように溜め息をひとつ。
あっ、ああ、あ、当たり前だろ!?
キス?無理無理無理無理、まだ無理!
恥ずかしくて死ぬ!恥ずか死ぬ!
そりゃあ名前からおでこやらほっぺやらにちゅーしてもらうことあるけど、オレからできねえし福寿だって唇にはちゅーしねえもん!
手ェ出さなかったオレ偉いとか言ってたけどむしろ出せねえわ!恥ずかしいわ!
健全な男だったらそりゃあ好きな女とセックスしてえって思うけど名前はまた違うんだよ。
なんか、こう、神聖なものに手ェ出せない的な、そんなやつ!
ちゅーできねえのにセックスできるわけねえじゃん!常識的に考えて!

「竜胆オマエの兄貴大丈夫か?」

「大丈夫じゃねえな、末期」

「まあでもゆっくりでいいんじゃねえの?姐さんも蘭もペースがあんだろーし」

「ちなみにヤりてえとか思わねえの?」

「思うわ!思うに決まってんだろ!」

「兄貴とねーちゃんのそんな事情は聞きたくなかった……」

「オレらも姐さんの事情聞きたくなかったわ」

「これからどう姐さんと顔合わせろと?」

やるならホテル行けよ、なんて竜胆が煙草を口にして言う。
ちゅーすらできてねえのにそれはハードル高ぇです。
いや経験ねえわけじゃねえよ!?
誰だって本命には素人童貞になんだろ、常識的に考えて!
熱い顔を誤魔化すように持っていた炭酸飲料を飲み、視線を泳がせた。
……そういや、名前はそういう経験あんのかな。
…………ねえな、高校の時に何人か彼氏できたことあるけど最長で十日って言ってたわ。
名前は良くも悪くもマイペースだもんなあ、それが助かるというか、なんというか複雑。

「姐さんのいい年だろ?蘭はどこまで行きてえんだ」

「同じ墓に入るまで」

「おっも」

「竜胆も同じ墓だからな」

「まさかのオレも決定事項」

「おっっっも」

「名前をどうやって灰谷名前にしようかとは思ってる」

「ちゅーすらできてねえのにできんのかよ」

「やるんだよ!やるの!」

子どもはオレ似の女の子と名前似の男の子がほしい、将来このまま反社かもしんなくても名前を手放す気はねえし、多分名前も離れねえでいてくれると思うし。
基本的に受け身な名前だから、余程のことがなけりゃずっと一緒。

「まあ、オマエと姐さんの式には呼んでくれよ」

「モッチーと御祝儀持っていくわ、竜胆は家族席だろ」

「その場合兄貴の?それともねーちゃんの?」

「オレの家族席だろ、ねーちゃんとこは伯父さんな」

「将来設計はできてんのに実行できる気配ねえけど」

「うるせえ!!」

ぎゃあぎゃあと話をしていると、サウスと鶴蝶がなんだなんだと顔を出す。
モッチーと斑目が事のあらましを言えば、サウスは笑っていたし、鶴蝶は口元に手を当てて一歩引いた、引くな。

「あの、蘭が奥手……?」

「安心しろ、オマエに何かあったらオレがもらってやるよ」

「うるせえな!名前は!オレの!!」

誰にも渡すか!


親戚のおねえさん
灰谷蘭とそういう関係になったらな世界線。
あまり変わらないまま健全なお付き合い中。
言葉にするのは苦手、だけど行動で伝える人、蘭くんのところに潜り込んだのはそういうこと。
六破羅での話の間、家できっとくしゃみしてる。

灰谷蘭
おねえさんと健全なお付き合い中。
やることやりたいし行きたいところまで行きたいけれどなかなか手が出せない。
オレの名前が可愛い、やばい。
惚気けるだけがどうしてこうなった。
好きだの可愛いだのは口で言うけれど、いざ行動に……となると恥ずかしい、手を繋いだり抱きしめたりはできるけどちゅーは恥ずかしい、ほんとに恥ずか死ぬ。
将来設計は完璧なのに恥ずかしくて行動できない。

灰谷竜胆
兄ちゃんがねーちゃんと恋人なのはいいけれどオレにばっか惚気けるから胸焼けひでえんだけど。
煙草吸って胸焼け誤魔化しているけどそろそろ無理だな、ってことで望月くんと斑目くん巻き込んだ。
なんでオレが兄ちゃんとねーちゃんと墓に入んの決まってんの?

極悪の世代
竜胆くんに一緒に胸焼けしろ!と言わんばかりに巻き込まれた、胸焼けした、これが……胸焼け……!
蘭くんの奥手さにびっくりした。
本当に挙式の時は参列するふたり。

寺野南くんと鶴蝶くん
最後に巻き込まれたけど、寺野くんは微笑ましいなとか思ってるしからかう、鶴蝶くんはすぐ胸焼けした。

2023年7月29日