「……何してんの?」
「竜胆が忘れ物したって言ってたから届けに来たら絡まれたので教育的指導してた」
「名前に絡んでいたから締めたついでに関節技教えてた」
「竜胆、ねえちゃんをこれ以上やべえねえちゃんにするな……!」
「名前が楽しそうにしてるからつい」
「竜胆の関節技講座わかりやすいよ」
「そうじゃねえの!!楽しそうなのはいーしわかりやすいのもいーけど!ねえちゃんがやべえねえちゃんになっちまうの!!」
今日はいい天気だなぁ、快晴ではあるけど風強い。
竜胆が忘れ物したって言うから六破羅単代の溜まり場に届けに来たんだよ。
こういうところあまり来ないしな、さっさと渡すもん渡したら帰ろ。
そう思っていたんだけどなぁ、なんか絡まれたんだよ、六破羅の下っ端に。
まずアンタとかテメェとかオマエとか挙句の果てにババア呼ばわりされた、アウト一つ。
竜胆の忘れ物届けに来たって話してもいるはずなのにいないって嘘つかれた、アウト二つ。
何なのって言われたから恋人だけどって言ったら勘違い女みたいな扱いされた、アウト三つ。
野球もアウトは三つまでだし仏の顔も三度までって言うだろ?大分堪えただろ?
なのでジムで鍛えた蹴りが火を噴いた、そこからは阿鼻叫喚だったかもしんねえ。
絡んできたやつらが泣き叫んでごめんなさい!を連呼したとこで止める。
で、竜胆は?いるんだろ知ってんだよ竜胆から連絡来たから。
問い詰めれば走って竜胆を呼んで来てくれた。
竜胆に何かあった?と聞かれたので素直に言えば今度は竜胆が私に絡んできたやつらに関節技をし始めたんだわ。
いつもは私の前で乱暴事起こしたらもれなく締めるけどこいつらアウト三つ取ったので特に止めない、いや竜胆が腕や足折りそうだったら止める。
そのまま見てたら竜胆による関節技講座が始まったわけだけど。
へー割りとコツいるんだなーいつも見様見真似だったから勉強になるわーと眺めていたら外に出てた蘭が戻ってきて、冒頭に至るわけよ。
「ちなみにねえちゃん何か言われた?」
「ババア呼ばわりと竜胆いないって嘘と恋人なんて何勘違いしてんだよって言われた」
「はァ?ねえちゃんババアじゃねえしオレの弟とねえちゃん本気の付き合いなんだよ何が勘違いだオマエらが勘違いじゃねーかぶっ殺すぞオレも混ざる」
「今度は警棒の使い方講座ってか、蘭それブーメランっぽいから」
普通に警棒持ったけど蘭はやめとこうか。
私も気が済んだし関節技講座わかりやすかったので竜胆にもういいよと声をかけた。
竜胆は気が済まなさそうにしているしなんなら蘭もだけど。
絡んできたやつらがひいひい言いながら他のメンバーに回収されるのを見て、竜胆に忘れ物を渡す。
忘れたのは財布だ、寝惚けたまま出たからケータイとバイクの鍵しか持ってかなかったんだって。
さんきゅ、とはにかむ竜胆。
蘭はそれくらい忘れんなよと呆れたように肩を竦めた、それな。
あまりここに長居する気もないので帰るねと言えば竜胆が引き止めるように私の服の裾を掴む。
「もう大方の用は済んだから飯行かね?財布忘れてたから何も食ってねえ」
「済んだならいいけど……蘭は?」
「オレ?あー……オレはまだ用あんから竜胆とねえちゃんで飯食って帰んなよ」
「な?飯行こ名前」
気ィ遣わなくていいのになあ。
嬉しそうにする竜胆が私の手を握ったので、蘭に先帰るねと声をかけて私と竜胆はその場を後にした。
……なんか、悲鳴聞こえてきたんだけど何事?
そんな悲鳴を竜胆は気にする素振りはなく、溜まり場にあったヘルメットを適当に取ると自分のヘルメットは私に渡してそれを被る。
私がそのヘルメットでもいいよと言ったら名前がこれ被んのはやだ、と返された。
そういうモン?つーかそれ誰かのじゃないの?
さすがに風強いとバイク乗ってんとさみーな。
後ろの名前は寒いからかいつもよりオレに密着するように腹に腕を回している。
いや邪なこと思ってねえよ胸柔けえとか思ってねえよ考えねえようにしてるけど。
飯食う前に名前のウインドブレーカー買ってやんなきゃなあ。
あと手袋もな、レザー生地だったら風通さねえだろうし。
……いや暖かくしたらこんなに密着しなくなるだろうなって残念がってないほんとだよほんと。
雑念を払うように無心でハンドルを握っていた。
飯の前に福寿のウインドブレーカーと手袋な、近くの店の前にバイクを停めて降りる。
「別に帰ればあるからいいのに」
「だって名前さみーだろ?メールした時に一緒に飯行こうって言やあよかったな」
どれにしようかな、と陳列されているものを名前が見始める前に名前の腕を引いた。
着てほしいと思ってるモンあっからちょい待って。
メンズのやつだけどオレとお揃いにしよ。
いくらジムで鍛えていても細いのはあんま変わらねえからSサイズでいいか。
ウインドブレーカーを手に取って着てみて、と名前に渡す。
名前の鞄をオレが預かって、名前はオレが差し出したウインドブレーカーに腕を通した。
うん、ぴったりだな。
袖が少し余って裾も少し長いのはしょうがねえ、つーか可愛い。
萌え袖だっけ?よく兄ちゃんしてるけど名前がやると可愛いな。
「いいじゃん」
「メンズ滅多に着ないんだけど、変じゃない?」
「変じゃねえよ、似合ってる」
照れ臭そうにする名前ににやけそうになる顔を誤魔化すようにキュッと唇を結ぶ。
めちゃくちゃ可愛い……いや知ってたけど、前から知ってたけど、めちゃくそ可愛い。
会計してくる、とそれを脱いだ名前からウインドブレーカーを受け取ってレジへ。
私の鞄、財布、ねえ会計私がするから、そう言ってオレの服を掴む名前の言葉は聞かないふりだ。
オレがこれって選んだんだから買うのもオレな、レジの途中で手袋も手に取って名前の言葉は知らんぷりしてさっさと会計を済ませた。
外に出て、バイクに乗る前にウインドブレーカーを着せて手袋を渡す。
名前は財布を出すどころか鞄すら渡されなかったことにぶすくれているけど、それも知らんぷり。
あーめちゃくちゃ似合う、表情可愛い。
まだねーちゃんって呼んでいた時なんてそんな顔しなかったのにさ、関係変わるとこんなに得なことあんだな、兄ちゃんには悪いけど……いやなんだかんだ兄ちゃんオレと名前を見て微笑ましそうにしているからいっか、全く悪くなかったわ。
「自分で買うのに……」
「いいだろそんくらいさ。ほら飯行こ」
アジトから適当に持ってきたヘルメットを被り、オレのヘルメットは名前に。
多分これ斑目のだな、最近オレらがノーヘルになんないのは名前にバレたらラリアットされんからだけど、まあ斑目ならいっか、名前にラリアットされてたら笑ってやろ、爆笑してやる。
オレがバイクに跨がれば名前もそのまま後ろに座った。
それからさっきのようにぴったりと密着してしっかりとオレに腕を回す。
思わず名前を見れば、苦しかった?と首を傾げた。
いや違う、ウインドブレーカーあればそんなに密着しねえかなって思ってたけどでも密着してくれたからなんていうかちょっと頭が邪なことばかりで埋め尽くされそうでですね?
「あー……なんでもねえや、いつものとこでいい?」
「いいよ、竜胆たくさん食べるでしょ」
「名前もちゃんと食えよ」
「食べてる」
「ジム後のプロテインはカウントなしな」
むしろジム後でもプロテインはやめてほしい、それ以上力つけたらやべえ名前になる。
……あ、兄ちゃんが言ってたやべえねえちゃんってこういうことか。
相変わらず背中の柔らかな感触をなるべく気にしないようにエンジンをかけた。
親戚のおねえさん
竜胆くんにお財布届けに六破羅単代のアジトに言ったら下っ端の人たちにババアだのなんだの言われたので遠慮なく締めた。
相変わらず竜胆くんとは清い関係。
竜胆くんの関節技講座で関節技に磨きがかかる、蘭くん涙目。
灰谷竜胆
お財布届けに来てくれたおねえさんが絡まれていたので参戦して締めた。
竜胆くんの関節技講座、おねえさんが楽しそうにしていたから気合い入れた、誰の骨も折ってないだけ良心的。
バイクでご飯に行くのはいいものの、風強くて寒いからおねえさんがいつもより密着するので気が気じゃなかった。
竜胆くんがウインドブレーカー買ったお店で同じやつをおねえさんに。
お揃いお揃い!ちなみにおねえさんはまだ気づいていないけど気づいた時赤い顔するからなんか竜胆くんまで照れて顔赤くする。
灰谷蘭
竜胆くんの関節技講座を一度は止めたけどおねえさんがババア呼ばわりされて竜胆くんと恋人関係なのに勘違い女って言われたのに頭に来て参加しそうになった、蘭くんの警棒講座。
竜胆くんとおねえさんを見送ってからしっかり下っ端の皆さんは警棒の錆になりました。
オレの弟とオレのねえちゃんどう見ても恋人だろうが目ェ腐ってんのか。
ふたりが仲睦まじいのでいつもにっこり。