「いだだだだだだだ!!ねえちゃん!ねえちゃん肩外れる!!」
「や、やめたげてねーちゃん!その技ガチで肩外れんから!!」
「何言ってんだコンクリブロック持つ腕でなんていらねえだろ」
「いっでえええええええ!!」
「に、兄ちゃああああん!!」
「次はオマエだ」
「ひっ……」
「ぎゃああああああ!!」
「はわわ……」
今日はいい天気だなぁ、土砂降りで大雨洪水警報出てるけどな。
三ツ谷さんと個人的な仕事の打ち合わせを私の個展で使っているギャラリーでしていると、蘭と竜胆が私の様子を見に来た。
元々今日はギャラリーで打ち合わせしているとは言ってたしなあ、ふたりは仕事の合間に来たみたいだ。
よかったら昼食わねえ?と聞かれたのでだったら三ツ谷さんも……と、言い出す前に三ツ谷さんの顔色が変わる。
蘭も竜胆も、三ツ谷さんを見て名前を呟いていたからもしかしたら知り合いなのかもしんない。
けれど、ただの知り合いとは思えない雰囲気、あっこれ不良時代か何かのですかね、まさかの三ツ谷さん不良でいらっしゃったやつ。
そりゃびしっとしたお辞儀に見覚えあるわ、六本木歩いていて蘭と竜胆の知り合いの人たちがそんなお辞儀してた。
だったら蘭と竜胆には奥の部屋で待っててもらおうとしたんだけど、ふたりの発言で私の動きが止まった。
は?コンクリブロックで殴った?
え?後ろからバイクで突っ込んで鉄パイプでぶっ叩いた?
何言ってんだオマエら。
しかも私がいるの忘れて言ってんけど、ほぉ?
なんならここでもっかいおっぱじめるか?って蘭が三ツ谷さんを煽ったところで私は椅子から立ち上がって蘭の腕を掴む。
そのまま背中に捻り上げた。
悲鳴が上がっても知るか、オマエら私の見てないところで喧嘩しろと言ったのになんでここでおっぱじめんだアホか、学習しろ。
私を止めようとする竜胆にも次だと言えば顔を青くして一歩引く。
すみませんね三ツ谷さん、ちょっと打ち合わせ待って。
両手で口元覆う三ツ谷さんを横目に膝をついた蘭の腕をさらに捻り上げた。
「ねえちゃん!ここで喧嘩しない!しません!!」
「しねえのが偉いんじゃなくて当たり前なんだよ」
「いだああああ!ごめんなさいごめんなさい!!」
半泣きになったので蘭から手を離し、蘭がいてえよお……と肩を擦りながら蹲る。
それから竜胆へ向き合えば、竜胆は青い顔のまま首をふるふると横へ振った。
一歩踏み出せば竜胆は一歩下がる。
繰り返せば、壁に竜胆の背がついた。
まだ何もしてねえだろなんでもう泣いてんだ。
これからするんだよ。
「いっ、言い訳は!?」
「目の前で喧嘩しようとしたやつに言い訳いる?」
「いらないですぅ……」
蘭と同じように肩を背中へ捻り上げればでかい悲鳴が上がった。
「お騒がせしてすみません三ツ谷さん」
「いっ、いえ……あの……喧嘩は昔のことなんで……それくらいで……」
「昔のことじゃなくて今のことなんで」
「アッハイ」
深々と頭を下げる名前さんに心臓はドキドキと不自然なほど音を立てたまま。
まさか名前さんが灰谷兄弟のお姉さんだったなんて……いや、昔に灰谷兄弟にやべーお姉さんがいるとは聞いたことはあるけど、てっきりそのお姉さんも不良なんだろうなとしか思ってなかったわ、こういう意味かー……知りたくなかった。
まさか担当さんが言ってた過激なところってこれ?やべー人じゃねーか。
ギャラリーの隅でぐすぐすと泣いては慰め合う灰谷兄弟、そんな灰谷兄弟のことは知らないとばかりに打ち合わせに戻る名前さん。
年の離れた弟さんいるんですね、と言えば従弟ですと訂正される。
名前さんの年齢は聞いてはいたけどさ、実年齢より若く見えるしキリッとして綺麗でオレらがやんちゃしていた頃からもこういう人だったんだろうなと感じた。
打ち合わせ自体は順調だ。
ぐすぐすと泣いている灰谷兄弟がたまにオレを睨むように見ては名前さんが顔を向けるとさっと顔を逸らすことはあったけど。
そうそう、少し前にオレと名前さんが作った服は完成して、来週にでも一般販売されるんだよな。
ワンピースをお試しでともらったので、ルナやマナ、ヒナちゃんや柚葉に渡した。
名前さんは有名な絵師さんで、四人とも知っていたのか渡した時はすげえ喜んでいたなあ。
パーカーは男性陣に、ユニセックスなデザインのそれはかなり好評だ。
「ドレスとタキシードの進捗どうですか?」
「あ、かなり進んでます。これ撮ってきたんですけど……」
スマートフォンを操作して、製作途中の衣装を名前さんに見せた。
名前さんがせっかくだからと描いてくれた眩しいくらいの絵を素にしてデザインしたもの。
鮮やかな青の空を表現するのは思ったよりも難しく、それを絵で表現する名前さんすげーなと感じながら作っている。
名前さんは画像を見ると、おお、と感嘆の息を漏らした。
「綺麗ですね。淡い青のレースも下地に映えるし、タキシードの色もドレスと同じで素敵」
「来週末にそれぞれ着てもらおうと思っていて、よかったら名前さんにも見てほしいんですけどお時間ありますか?」
「ありますよ。いいんですか?私なんかが見て」
「描いてくれた人には見せたいんです。ふたりも歓迎してくれます」
タケミっちとヒナちゃんの式には来れないだろうから、だったら試着の時に実物を見てもらいたい。
楽しみ、と穏やかな表情の名前さんにほっとする。
それからタキシードとドレスに合う装飾品の花やアクセサリーがどんなものがいいのか話をして、打ち合わせは終わった。
ちなみに名前さんが描いてくれたものの原画はオレの仕事場に飾ってある。
ふたりのお色直しの衣装を試着する時に、この絵が元になったんだぞと教えたくて。
「じゃあ次は来週末に」
「はい!無理言ってすみません、ありがとうございました」
「あ、あとこれ三ツ谷さんに渡しておきます」
「?」
ギャラリーを出る前に、スーツの内ポケットから封筒を取り出した名前さんがそれをオレに渡した。
御祝儀、と書かれたそれに思わず目を丸くすれば名前さんは「私からそのタキシードとドレスは御祝儀ってことで」と笑う。
「え!?めちゃくちゃ額やべえのに!?」
「気にしないで。私も素敵な仕事をさせてもらったので、お礼に」
誰かの素敵な晴れの日に力になれてよかった。
そう言う名前さんに胸がきゅうと締まる。
ここで突っ返すのは男じゃねえな。
それを両手で受け取り、もう一度ありがとうございましたと深く頭を下げてオレはギャラリーを後にした。
窓から名前さんに泣きつく灰谷兄弟に、あいつら弟なんだなあと思いながら。
親戚のおねえさん
三ツ谷くんと打ち合わせしてたら灰谷兄弟が喧嘩吹っかけたので締め上げた。
コンクリブロックで殴ろうがバイクで突っ込んで鉄パイプでぶっ叩こうが見てないところでの喧嘩だったから言うだけなら見逃してやったけど目の前で喧嘩吹っかけたなら話は別だ。
三ツ谷さんの目の前では吊るさなかったら優しいな私、とか思ってる。
タキシードとドレスの料金はおねえさんからの御祝儀。
三ツ谷隆
灰谷兄弟に喧嘩吹っかけられたら目の前でふたりがおねえさんに締め上げられて変な声出た。
やべー人だ、過激なところってこれか……ちょっと宇宙猫っぽくなった。
灰谷兄弟とおねえさん見てすげー姉弟だな、と思う。
御祝儀としてタキシードとドレスの料金もらって頭が上がらない、そういうところでもすげー人。
きっと元東京卍會のメンバーに灰谷兄弟とおねえさんの話をして「嘘だろ」と言われるので本当だって!と言う未来がある。
灰谷兄弟
仕事の合間におねえさんと昼ご飯食べようぜってギャラリーに来たら昔の喧嘩相手がいたので煽ったら締め上げられた。
目の前で男と仲良くお話(打ち合わせ)しているのが気に入らなくて睨んだらおねえさんに睨まれた。
三ツ谷デザイナーなんだなーなんて思ってるし、今後デザイナーさんと仕事、とおねえさんに言われたら三ツ谷なんだろうなーと察するけど打ち合わせには行かない。
ちなみに三ツ谷くんとおねえさんがコラボしたパーカーはオフの日に着ている。