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キングの育児日記①

「娘です」「むすめです」そう言って右腕がちんまりした子どもを抱き上げて紹介したので思わずそのまま酒を吐いた。クイーンはこれでもかと目を見開き、ジャックは白目を剥いて倒れる。キングの腕にはまだ十になっていないであろう幼い女の子が。どこから攫っ…

なんちゃって転生者の新婚生活⑨

「海だ……」ぽかんとしながらデッキで呟く女に思わず笑ってしまった。おれたちが今いるのはオロチの手配で乗っている豪華客船。新婚旅行に、とそのチケットを受け取った時は女と揃ってひっくり返るかと思ったな、ちなみに嫁はひっくり返った、ちょっと可愛か…

なんちゃって転生者の新婚生活⑧

「はい、完成ですよ」ヘアメイクさんの声に顔を上げれば、鏡の中の私は色はよくわからないけど綺麗になっていた。色はわからなくてもなんかこう……華やか?ドレスの色が濃いから顔は控えめ、でも唇は日和が似合うと言ってくれた濃いめの赤で彩られている、と…

なんちゃって転生者の新婚生活⑦

あの子はとても不憫な思いをしてきたと思う。引き取ったのはあの子が小学生の頃だ。当時、割りと早い段階であの子が色を認識できないとわかってはいた。どんな色なのか教えたものだ。ただ色の名前を言っただけじゃ想像できないから、できるだけ詳しく。教養も…

なんちゃって転生者の新婚生活⑥

白い衣装に身を包んだ女が恥ずかしそうに頬を赤く染めた。着せ替え人形のようにして悪ィが、さすがにこればかりはおれだけじゃ決められねェからな。ウエディングドレスはもちろん、白無垢も合わせて女が気に入りそうなものを探す。前のことを考えるなら白無垢…

なんちゃって転生者の新婚生活⑤

修羅場でござる……思わず呟けば隣にいたお嬢さんがそれな、と深く頷いた。誰が店のナンバーワンキャバ嬢と店のケツ持ち極道がバチバチメンチ切ってると思うのか。きっかけはささやかなものだった。黒炭のお嬢さんがカメラマンとしての仕事でうちの店を訪ね、…

なんちゃって転生者の新婚生活④

キングが熱心に読んでいる雑誌を後ろから盗み見してみた。盗み見しなきゃよかった。なんで事務所で熱心にそんな雑誌読んでんだ、おれの右腕がウエディングフォトの記事を読み込んでいるなんて知りたくなかった。目が合ったクイーンには絶対に話振るなよ、絶対…

なんちゃって転生者の新婚生活③

「えっ!結婚したの!?」「日和、声がでかい」「あっ……ごめんなさい……水臭いじゃない、式に呼んでくれてもよかったのに……」「……式ね、挙げてない」「ちょっとあなたを誑かしたのはどこの馬の骨かあちきに教えてほしいでありんす」「小紫になってるよ…

なんちゃって転生者の新婚生活②

知っているような気がする。私を見る目とか、頬に触れる指の背とか、体に回る腕とか、私の名前を呼ぶ声とか。ただ、知っているより距離が近いような、いや、前も近かったけど……うーん……なんだろう、この感じ。そう思ってはいるんですがね、今いるのタワマ…

なんちゃって転生者の新婚生活①

私の人生、数奇を極めているよな。気がついたらまた現代に生まれてました。しかも驚くなかれ、私の父はおじ様……黒炭オロチだ。いやね、正確には私の伯父なんだけど、私の両親が亡くなって引き取ってくれたんですよ。ちゃんと養子縁組をしたので本当にお父さ…

なんちゃって転生者のワノ国生活⑮

変じゃないですか、と着替えた女が少し顔を赤くしてそう問う。船にあったもので悪いが着物だとこれから先目立つだろうからな。脛くらいまでのワンピース、ジャケットを羽織らせ、ショートブーツを履かせれば、元とはいえワノ国の姫様なんて思えねェだろ。下ろ…

なんちゃって転生者のワノ国生活⑭

「日和様、彼女は……」「……お食事持っていったのだけど、食べられないからって突き返されちゃいました」日和様が困ったように眉を下げる。あれから一週間、我々の傷も癒え、立役者の海賊も目を覚ました。けれど、我々と彼女の間にできている壁や溝は厚く深…